表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BLUE・STORY  作者: 森田しょう
◆EPISODEⅢ ――穿たれた空と、終わりのない旅路――
128/149

第四部④ ~虚ろな瞳②~


 二人の調停者の戦いは熾烈を極めた。

 聖魔のエレメンタル――即ち、創造と破壊。正と奇。この世に本来存在するはずのないエレメンタルであるため、現実世界の原理原則に縛られないという特徴がある。あらゆる物質に干渉が可能であり、その力は想像を絶するものである。

 他の者たちは、二人の戦いを見守ることだけしかできなかった。カインの末裔たる二人でしか、その領域に入れないのだ。


 勝負は、決しなかった。

 力を使い果たした二人は、互いに膝をつき肩で大きく息をしていた。滴る汗と血が、リーベリア平原に染み込んでいく。

「くっ……!」

「兄さま!」

 ユリウスの下に、レナが駆け寄る。それを見たサリアは、自分もシリウスの下へ駆け寄りたかった。だが、今は腕を切断されたロスメルタの治療のため、動くことが出来なかった。

「大丈夫ですか? 今、治して差し上げますから」

 レナはユリウスの体に対し掌を広げる。その瞬間、翡翠色の光の粒子が彼を包み込み始めた。

「レナ……君は、何をするつもりだ……!」

 シリウスは痛みと疲労で顔を歪ませ、その様を見ていた。

「……私は兄さまと共に在ると決めたんです。ただ、それだけのこと」

「それだけ……? 君は、世界なんてなくなっていいと……思っているのか?」

 そう聞かざるを得なかった。あんなに清楚で、屈託のない笑顔をしていた君が――。

「わからないんですか? そう思っているから、私はこちらにいるんです」

「……!」

「レナ!」

 その時、ともに歩んできた同士の一人――バルザックが、二人の方へ向かって掌を向けていた。その周囲には、幾何学的な模様の刻まれた魔法陣が円を描いていた。

「……ユリウス様から離れてください。私が詠唱待機させているは、消滅魔法です。ユリウス様に照準を合わせています。離れなければ、あなたもろとも消し去ります」

 消滅魔法――それは、父・アイン=ロロから受け継いだ禁呪の一つだった。

「バルザック!?」

 レナも一緒に、殺すつもりか!? シリウスはその言葉を、呑み込んでしまった。それだけは、避けたい――などと、甘ったれたことではないか。こうなってしまっては、殺すしかないのだから。

「……あなたに、そんなことが出来るの?」

 まるで嘲笑するように、レナは微笑む。

「私は本気です」

 バルザックはそう言い、顔をしかめた。その様を見て、彼女はくすくすと笑い始めた。

「小心者のあなたに、出来っこない。無理しているんじゃない?」

「……くっ……」

 バルザックは、自分でもわかっていた。自分は父に比べ、度胸というものが無い。時には人を切り捨てるという、残忍さが足りない。それを見透かされているのだ。手の震えと共に。表情をどれだけ繕うとも、隠しようのない根っこの部分だった。

 だが、それでも。

「私は、やらなければならないんです。こうなってしまっては、世界が破滅するだけだと……」

「……誰に?」

 レナはそう言い、表情を一瞬のうちに変えた。笑みは消え、冷徹なものに。

「わかっているのよ。始めから誰が仕組んでいるのか」

 その言葉に、バルザックはより体を震わせた。それは単純に、恐怖によるものだった。なぜ知っているのか――というよりも、なぜそれをこの場で……!

「全てが掌の上でいくと思ったら、大間違いよ。あなたたちの求める、プロジェクト・ジェネ――」

「うあああああぁ!!」

 その瞬間、バルザックは詠唱待機させていた魔法を発動させた。いや、焦りにより制御から外れてしまったというほうが正しい。

 掌から放出された白い光は、巨大な閃光となってユリウスたちを覆った。轟音が大気を震わし、粉塵とまばゆい光が一体を包むこむ。

 それらが収まると、シリウスたちはようやくその場がどうなっているのかが分かった。大地は半径上に削り取られ、それは遥か先まで続いていた。そして、その場にはユリウスの姿はなく、意識を失ったレナだけがその場に取り残されていた。

 シリウスは、微かに聞こえたのだ。

「レナ!」

 彼女の名を叫ぶ、兄の声を。 

 兄さん……その“優しさ”を、持ち得ているのに……なぜ?




 一行は一先ず宿営地に向かい、そこでレナの介抱をすることになった。ロスメルタの腕も、サリアの力でなんとか接合でき、シリウスもまた自身の力による自然治癒で回復していた。

「ところで、バルザック。聞きたいことがあるんだ」

 皆が集まっていた病室で、シリウスはおもむろに言い始めた。

「あの時のこと……レナが言っていたこと。どういうことなんだ?」

 シリウスがそう訊ねると、バルザックは苦悶の表情を浮かべ、小さく頭を下げた。それは後で謝罪するよりも、先に謝罪しようというものに見えた。

「……すべて、お話します」


「その必要はない」


 その時、バルザックの後ろに“誰か”が現れた。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ