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BLUE・STORY  作者: 森田しょう
◆EPISODEⅢ ――穿たれた空と、終わりのない旅路――
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第四部② ~調停者~


 天空では未だ反旗を翻した天空都市群の制圧を完了できていなかった。イデア軍が壊滅されるまでは、劣勢に陥った都市は早々に降伏していたものの、あの映像――リタを穢した内容――が流れてからは、徹底抗戦の構えを見せていた。残虐非道なるガルザスに降伏すれば、どうなるか分かったものではないからだ。

 ある意味で、それはガルザスの誤算だった。恐怖は一定であれば従順にさせるための手段となり得るが、過度に与えすぎれば死ぬまで降伏しない。

 地上での戦乱はほぼ終結に差し掛かったが、依然として各地では不穏な空気があり、常勝将軍・ランスロット卿は地上での抑止として常駐することになっていた。本来であれば、天空での反乱鎮圧に向かわせたいが、そうもできなかったのである。


 ――――――――――――――――




 シリウスはある時、声が聴こえてくることに気付いた。

 それはずっと昔から囁いており、()()()()()()()()()()――と、声の主は言っていた。


 ――カナンの地へ行け――

 ――調停者としての覚醒を――


 “調停者”とは何か。

 シリウスは己のこと、一族の秘密そのものを求めて、カナンの地を訪れることにした。




 カナンの地。

 そこはアルカディア大陸南西部に位置する、リーベリア地方と呼ばれる場所の中心にあった。

 約一万八千年前、世界の覇権を狙う“神聖ユグドラ帝国”による破壊兵器起動により、地表は瘴気に包まれた。人類のほとんどが死滅し、地下シェルターに逃れた僅かな人々は、その中で国を創ろうと考えた。

 カナンの地――そこは、かつて地下帝国の中心地として栄えた場所だった。


 そして、全てはここから始まったのである。


 至上天帝リュングヴィ1世こと、カイン=ウラノスはこの場所で人体実験を受け、“神の子”としての力を覚醒させた。それはあらゆる物質を破壊することのできる特殊なエレメンタルの保持者であり、“次元の執行権”を持つ者だった。

 それこそが“調停者”である。


「……そうか。そういうことなのか……」

 聖域リーヴェ――星々の光が煌めく宇宙空間の如き神秘的な場所で、シリウスは零した。

「全てはこの力が原因、か」

 そして、彼の前に光が集う。それは緩やかに人の形を取り始めた。

「我々の罪のために――すまない」

 光の主は、そう言った。シリウスは首を振り、小さく苦笑する。

「いや、あなたたちのせいじゃない。……これは、僕たち自身の問題なんだ。力があるとか、無いとか、そういうことは関係ない。全ての原因は、僕たちにある」

 弱いことも、護れなかったことも――全て、自分たちの責任。こんな血筋だからとかは、ただの言訳でしかない。

「バルドル。あなたたちの“咎”、背負うよ。大切な人がいる、この世界を護りたいから」

「……どうか、君の旅路に幸多からんことを……」

 バルドルと呼ばれた光は、どこか優しく煌めいた。そして、ゆっくりとその姿を消していった。


 シリウスは“真の調停者”として覚醒した。それは闇の調停者として覚醒したであろう兄・ユリウスを止めるという覚悟だった。

 調停者――つまり、次元の執行権を行使できる者のこと。それは本来、バルドルたちのような“神”と敬称される存在にしか与えられていない権利だが、遥か太古の時代にそれは人に()()()()()()()()()。その者の末裔であるシリウスたちには、調停者になる権利を持っていた。

 数々の喪失、即ち悲劇。

 哀しみを乗り越え、多くの友に支えられることで、シリウスは憎しみだけに支配されず、自身の力と向き合うことが出来た。それ故に、創造の力――“バルドルの力”に目覚めたのである。


 しかし、ユリウスはそうでない。


 彼はシリウス以上に“絶望”していたのだ。物心つく前から、自身を巡って起こる権力の奪い合い。母は敵対者に毒殺され、父は祖父に殺され、その祖父も叔父であるガルザスの陰謀で間接的に暗殺され……。

 彼の住まう宮殿では、どこかで血生臭いことが起きていて、血の色を見ない日など一日もないほどだった。

 だから、彼の心は摩耗していった。幼い心には、耐えられないものだった。


 そんな彼を繋ぎ止めていたのは、弟・シリウスだった。


 ――お前の弟だ。護ってやるんだぞ――


 ほとんど記憶にない父帝は、自身をなでながらそう言った。初めてシリウスと対面した時だった。人見知りな弟を護ろうと、幼いながらに思ったのだ。

 家族を――持ちたいと、心の片隅にずっと思い描いていたのかもしれない。だからこそ、唯一の肉親であるシリウスを傍らに置き続けたのだ。シリウスがいることで、本当の意味での存在意義を見出すことが出来ていた。自分は一人でないのだと――ユリウスは感じていた。

 だが、劣等感が彼を覆っていった。

 その激情が、彼を変貌させた理由の一つだった。


 ――お前だけは、俺の味方だと思っていた――


 確たる自信――味方だと思う故の――が崩れた時、彼は覚醒したのだ。

 憎しみと、妬みで。



 そして、ユリウスは彼らの前に現れた。

 レナを傍らに置いて。



「サリアを渡せ。さもなくば、殺す」



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