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BLUE・STORY  作者: 森田しょう
◆EPISODEⅢ ――穿たれた空と、終わりのない旅路――
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第三部⑦ ~一つの区切り~

「敵襲だー!!」

 映像が終わったのと同時に、緊急の警報が艦内に鳴り響く。

 イデア軍は急襲されたのだ。あのランスロット卿率いる、ダマスカス防衛軍に。


 全てガルザスの計画だった。

 彼はイデア内にユリウスたちがいるという情報を手にし、まず揺さぶりをかけることにした。ランスロット卿をわざわざ地上へ派遣したのも、そのためである。ランスロット卿であるならば、1ヶ月程度、イデア軍をそこへ駐留させることも容易である。その間に、ユリウスたちが()()()()()()()()()()()()()を探った。

 すぐに判明した。クイクルムで生活していたということ。そして、ユリウスの妻がそこへ避難し、懐妊までしていると。


 ――人としての幸福を得ようとでも言うのか。おこがましい――


 ガルザスはリタを辱め、穢した上で死なせた。そのタイミングで、撤退していたイデア軍を強襲する。実質的な戦略を練っているのはシリウス。リタの死は、奴を簡単に動揺させる。普段であれば、この強襲もうまいこと畳むことが出来るのだろうが……。


 事実、シリウスも戦いどころではなかった。あの光景が……頭から離れなかったのだ。

 あれが……人のすることか?

 あんなことをされるほどのことを、リタは罪を犯したのか?


 罪……僕たちのせいか?

 僕たちと出逢ったために……


 この強襲でイデア軍は総崩れとなり、アリアンロッドも敵に落とされてしまった。ロスメルタやレーグたちは奮戦したが、やむを得ず撤退。フィンも重傷を負い、命からがら戦地を脱出した。

 だが、この時――皆を救ったのは、サリアだった。

 サリアは何とか人々を護ろうと、自身の力を解放させた。それは“ティルナノグの巫女”としての力。つまり、星の力である。それは巨大な障壁となり、敵の侵攻を食い止めさせ、傷付いた味方を癒した。単純な治癒魔法よりも強力で、彼女の力がなければ死んでいたであろう人が数百以上いた。

 彼女の力を目の当たりにした人々は、口を揃えてこう言う。

 聖女――と。


「……あれは……そうか、巫女があそこにいるのか」

 紺碧の障壁が、イデア軍が拡散している森を覆いつくしている。おそらく、町一つを囲むほどのものだった。ランスロット卿は、腕組みをしそれを眺めていた。

「中将閣下、あれでは近付くこともままなりません。如何いたしましょうか?」

 老兵が、卿に訊ねる。

「巫女がいる以上、攻撃はできん。それがガルザス閣下のご命令だ。……それに、我らの力ではあの障壁を打ち破ることなぞできんだろう」

 厄介な力だが……さすが巫女、と言ったところか。

「前線は現状を固定。障壁が消え次第、ダマスカスへ帰還する」



 道中、フィンが死亡する。致命傷ではあったが、サリアの力をもってすれば治療できる範囲だった。しかし、その時彼女は力をほとんど使いきっており、彼を治療できる力が残っていなかった。さらに、フィン自身が自分を治療する前に、他の兵士を優先してくれと頼んだ結果でもある。

 フィン=ディルムン……享年45歳。

 ソフィア教典には、神々と共に戦った人類の統率者として、その名が残る。

 “英雄フィン”と。


 後の歴史家たちは、このイデアの敗戦――フィンの死をもって“第一次天地戦争の終結”だと見なしている場合が多い。事実、地上の反乱はほぼ鎮圧されたに等しかったからである。イデア軍が大敗北したという衝撃は、各地で戦っていた反乱軍の戦意を喪失させたのだ。


 絶対的な人望を得ていたフィンがいたからこそ、イデア軍は強靭であったと言える。だが、それが無くなれば組織とは簡単に崩壊する。イデア軍を構成していた兵士は離散し、組織はほぼないに等しくなってしまっていた。


 それでも、彼の娘・ロスメルタは諦めていなかった。

 帝国の支配から脱却する。それを達成するために。


「私は父の意志を継ぐ。……だけど、私はイデアの頭領に相応しくない」

 彼女はそう言い、小さく微笑んだ。前線で戦うぶんには秀でているけれど、それだけ。人をまとめたりだとか、そういうことは苦手なのだ。

「だから、シリウス。あんたに頼みたい」

「えっ……」

 驚きを隠せなかった。なぜ、自分を指名するのか。

「ま、待ってくれよ。僕には無理だ。途中からイデアに入った人間だし、そもそもそんな器じゃ……」

「俺は君が適任だと思うぞ」

 ロスメルタの隣にいる、レーグが力強く言った。

「君は指揮官に向いている。もちろん、戦闘能力も高い。君は気付いていないだろうが、人望だってある。君についてきたいという人は、多くいるんだ」

 レーグは今までのことを振り返り、そう感じていた。どんな人に対しても分け隔てなく接し、捕虜となった帝国軍兵士にさえ笑顔を向ける。憎しみだけを携え、剣を振るっていたのではないことが、誰にもわかるほどだった。

「……僕は、皆さんの敵である天空人の血を持っています。そんな僕が頭領になれば、きっと不満も出ます。それに……」

 シリウスはその場にいないユリウスを思い、口を閉ざした。

 あの事件以降、ユリウスは何をするでもなく、艦内の個室に閉じこもっている(アリアンロッドとは別の、小規模の地上戦艦。彼らがいるのは、そのうちの一つ)。

 今、兄さんは戦うことが出来ない。レナが付きっきりだが、リタを失った悲しみは計り知れない。まずは……。

「先に、兄さんと一緒にクイクルムへ行きたいんだ。悪いけど、この話はそれ以降にしないか?」

「……わかった。でも、前向きに考えてくれない?」

 ロスメルタはそう言って、シリウスに近付いた。

「あんたなら、出来ると思う。父さんも、あんたを推していた。次を任せるなら、シリウスだ――って」

「…………」


 一行はクイクルムへ。リタやカルナ……たくさんの人たちの魂を弔うために。



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