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BLUE・STORY  作者: 森田しょう
◆EPISODEⅢ ――穿たれた空と、終わりのない旅路――
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第三部② ~繋がる心と、信じる想い~

「レナ……!? ど、どうして君が……!」

 二人は想像以上の驚きを隠せなかった。なぜ彼女がここにいるのだろう、なぜ地上に? その疑問だけが、彼らの脳内を激しく駆け巡る。

「本当にユリウス兄さまなんですね! ああ、お会いできるなんて夢にも……」

 嬉しあのあまり、彼女は言葉を失った。止めどなくあふれる涙が、一粒一粒輝いているように見え、アイオーン――シリウスは言葉を失っていた。

「レナ、落ち着きなさい」

 その時、もう一人のローブを羽織った女性が割って入るようにして言った。

「皆、困惑している。説明しないといけないじゃない」

「あ……そ、そうでした。ごめんなさい、お姉さま」

 レナは涙を手で拭いながら、彼女の方へ顔を向けた。

 お姉さま……? まさか……!

「君は、もしかして……サリア?」

 シリウスは恐る恐る、それでいて且つ確信を持ってその名を呼んだ。

 懐かしい名前――それは、幼馴染の名だったのだ。名を呼ばれた女性は、顔を隠していたローブを取った。彼女の瞳と同じ色を持つエメラルドグリーンの長い髪が、その一本一本が、幼いあの頃以上の美しさを伴っており、まるで人ではないかのような感覚を起こさせた。それはシリウスだけでなく、この場にいるもの全員が感じたものだった。


「ユリウス兄さん、シリウス。……久しぶりだね」





 ――――――――――――――――


「さて、と。……説明してもらえるか?」

 サリアたちを別室へ移動させた後、フィンはユリウスたちに訊ねた。その表情は神妙だった。

「……申し訳ありません。俺たちは、多くのことを隠していました」

 そう言って、ユリウスは深々と頭を下げた。

「あんたたちは、天空人だったわけ?」

 説明する前に、ロスメルタが質問を飛ばしてきた。それはさながら戦場の刃のように鋭利で、二人の心を重くさせた。

「兄さん。もう全部話そう」

 シリウスは彼の肩に手を置き、頷いた。

「全部……というのは、俺たちが“あの一族”だということもか?」

「うん。サリアたちのことが調べられれば、自ずとわかることだから」

「……そう、だな」

 二人はある意味、諦めたようにして小さく微笑んだ。

 全て、嘘から始まったんだ。それを清算する時が来ただけのこと。

 シリウスはフィンたちの方へ向き直り、語り始めた。

「僕たちは地上人ではありません。天空人です。その中でも、僕たちは特殊な一族の者です」

 自分たちがティルナノグ皇室であること。

 フェムトがラストエンペラー・ユリウス12世であること。

 帝国の支配者ガルザスは自分たちの叔父であり、サリアたちは従姉妹であること。

 7年前、クーデターを起こそうとするも失敗し、ガルザスによって地上へ捨てられたこと。

「あんたたちが……ティルナノグ皇室!? う、嘘でしょ……」

 ロスメルタは驚きのあまり頭が痛くなってきたのか、目を強く瞑り頭を抱えた。いや、たしかに潜在能力の高さを考えれば、納得がいく説明だ。地上の民で、ここまで突出した能力を持った人間はいない。それに、父さんが言っていた“聖魔”のエレメンタルの可能性――。

「クイクルムの近くで、リタのお父さんに拾われ、“記憶を失った兄弟”として生活していました。地上は都市ごとの間隔が大きく開いていて、旅人などで行き倒れる人は多かったみたいだから、特に不審がられることもなく溶け込むことが出来ました」

「……なるほど、な」

 フィンは呟くように言って、椅子に深々と腰かけた。

「一つ聞きたいんだが」

 少しの間を空けて、フィンは天井から彼らへと視線を移した。

「なぜ、君たちは戦うことを選んだんだ?」

 その問いに、シリウスは身体を強張らせた。僕たちが皇族であるのに、なぜ帝国打倒の行動をしているのか。その疑問は至極当然であると思うのと同時に、確信した。フィンは自分たちの目的が“別にある”ということを。それを見極めるために、訊いているのだ。

「……兄さんは、真にこの国を導くに値する皇族だと思っています。叔父上は皇族の決まりで即位することが出来ない運命ですが、天帝不在の今の時代は混乱しています。早急に兄さんを天帝に戻し、国の秩序を取り戻してほしいんです」

「君自身が天帝になろうとは思わないのか?」

 その言葉に、シリウスは驚きを隠せなかった。なぜ、そんなことを訊くのか。

「君は聡明で優しい。部下にも慕われている。もちろん、それはフェムトもそうだと思っているが、二人に大きな能力差はないと俺は感じている。それならば、自身が天帝になろうとは考えたことがないのか?」

「僕は……」

「シリウス、言う必要はない」

 ユリウスは言いあぐねていたシリウスの肩に手を置き、小さく頷いた。「大丈夫」とシリウスは不安げに微笑み、言った。

「……僕は兄さんとは母が違います。母は地上人で、天空人からしたら下賤の民でした。そのため、僕は帝位を継承する権利も、皇族の者として認められていないんです。……本来であれば地上へ早々に捨てられる予定でしたが、庇ってくれたのが……兄さんでした」


 ――シリウスは余の家族だ――


 そう叫び、ガルザスの前から一歩も引かなかったユリウスの姿を――その雄姿を彼は思い浮かべていた。あれは既に12年以上も前。僕の家族も、兄さんだけだ。いや、()()()()()()()()と胸を張って言えるようになった。

「僕は兄さんを――兄上を、再び即位させる。そして、ともに国を変革させたいんです」

 くっと胸を張り、シリウスは言った。正義を行う――それが僕たちの役割なのだと、言い切るかのように。

「そうか。ま、なんだ、薄々気付いていたがね」

「えっ!?」

「ちょ、ちょっと父さん!」

「本当ですか、叔父さん!?」

 その場にいた者、全員がフィンの言葉にぎょっとしていた。フィンはなぜそんなに驚くのかと、逆に驚いてしまっていた。

「そりゃ、あれだの魔法能力だ。聖魔術を扱える当たり、皇族の可能性は高いと見ていたんだ」

 聖魔術。

 それは建国当初、フェイウス卿が体系化させた“最上位の魔法”である。特殊なエレメンタルを利用しているため、天空人でも扱える人間は極一部なのだ。

「それに、お前たちは国を打ち倒すというよりも、変えようとしていたようにも見えていたからな」

「…………」

「でも、信用するつもりなわけ? 天空人っていうわけでなく、天帝の直系一族なんでしょ。その“血”が、今後も私たち()()()()()()()()()()()()()()()の協力をすると言い切れる?」

 ロスメルタの言葉は、その通りだった。彼女にとって、それを証明してもらえるほどのことはないのだ。己の血が、地上人を裏切らないと言えるのか。疑われてもしょうがない。

「……それについては、信じてもらうしかない」

 ユリウスが口を開いた。

「俺はともかく、シリウスは君たちと同じ地上人の血を持っている。言い換えれば、天空と地上――双方に繋がれる力があるということだと思う。俺には無い、多角的な見方ができるのはシリウスだ」

 可能性を秘めた人間。それこそが、シリウスなのだ。

「弟は絶対に君たちを裏切らないし、彼を信じる俺もまた、裏切ったりしない。……これからも、信じてほしい」

 ユリウスはそう言って、大きく頭を下げた。その姿を見て、ロスメルタはどこかばつが悪そうに、自身の頬を指先でかいていた。

「……てなわけで、信じてあげなよ。ロスメルタ」

 と、レーグはため息交じりに言った。

「な、何よ。まるで私が悪いみたいじゃない!」

「そ、そういうわけじゃないよ。君が疑うのはご尤もなんだから」

 シリウスはそう言って、ロスメルタのところへ駆け寄った。その瞬間、ロスメルタのビンタが彼の頬へ飛んでいき、その衝撃でその場に倒れてしまった。

「悪いのは、ぜーんぶあんたたち! 最初っから素直に言ってくれれば、こっちだって怒ったり疑ったりしないわよ!」

「……ロ、ロスメルタ……」

「あんたたちをこの1年見てきて、怪しいなんておもったことない。私だって、あんたたちのことを信じてるに決まってんでしょ! バーカ!」

 ふん、と彼女は腕を組んでそっぽを向いてしまった。シリウスはじーんと痛みで暑くなっている頬をさすりながら、そんな彼女を見ていた。ああ、こんなにも信頼してくれていたんだ――と、初めて知ったのだ。かけがえのない、大切なものが地上にはある。それを見つけることが出来て、僕たちはどれだけ幸せなのだろう、とさえ思っていた。

「裏切らないよ、絶対に。約束するよ、ロスメルタ」

「……わかれば、いいよ。もう、ね」



 だが、この瞬間に、危険が迫っているのではないかと考えていたのは、フィンだけだったのかもしれない。

 レナとサリアが現れたことで生まれた、一つの疑念。そして、彼女たちのフェムトたちに対する接触。これが何をもたらすのか……。





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