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BLUE・STORY  作者: 森田しょう
◆EPISODEⅢ ――穿たれた空と、終わりのない旅路――
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第三部① ~再会~

 第三部 ――渇望する闇の咆哮――




 フェムトとアイオーン、そして旧ガリア軍の第9師団(クイクルム出身者中心の師団。フェムトとアイオーンの力で、ガリア軍内でも戦闘力は高い部類だった)はイデア軍に参加することになった。彼らはたしかに魔法を扱えたが、ガリア軍の中に同じように扱える人間はいなかった。そのため、折角の能力も伸びず、宝の持ち腐れとなっていた。しかし、フィン=ディルムンやレーグたちに訓練を施され、その力を開花させていった。


 イデア軍はグラン大陸の東部において勢力を拡大するのではなく、まず各エリアの同盟軍を結成させていた。

 まずは北部。極寒の大地とされる北部エリアは、ティルナノグ建国の時から重要視されていない土地であるが故に、不遇を受けていた。他エリアに比べ土地が貧しく、人口も少ないことが災いしていた。そこでの中央政府管轄の都市を制圧、勢力を拡大させる前に組織を分散させ、各地でゲリラ活動を行わせた。

 先のガリア軍殲滅により、帝国は強力な軍隊を保持していることは明白だった。そのため、イデア軍は敢えて組織を大きくさせるのではなく、地道なゲリラ・工作活動で帝国を弱体化させようとしていた。それは長期戦を覚悟してのことだったが、おそらく地上の反乱軍よりも帝国の方が危惧していたことだった。

 最大の要因は天帝不在による政府中枢の機能不全。ガルザスが如何に超人的でカリスマ性を保持していようとも、彼が天帝になることはできない。それは長く人心を掴むことはできず、その強権的な独裁政治は、反発する者も多く発生させた。地上の反乱軍がいるということは、それに寝返る天空人もいるということになりかねない。ガルザスの政権は、長く持たないというのがフィン=ディルムンの予想だった。


 恐怖による支配は、いずれ綻ぶ――


 彼はそう見据え、時間をかけて帝国の戦力を削ろうとしていた。

 次の要因が、帝国に資源は少ないということ。天空都市群にある物資など、そのほとんどが地上からのもの。地上都市を少しずつ制圧して行けば、天空都市群は困窮する。これは“人”も同じで、天空人は地上人に比べかなり少数である。いくら科学技術に優れているとはいえ、“ある人物”の後ろ盾を得ているイデアを殲滅できるほどの戦力差はない。人が減れば減るほど、天空人は不利になるのだ。


 そうして、イデア軍は北部、西部、南部へと転戦していた。

 フェムトたちがイデア軍に参加し、約1年。

 彼らの下に“天空人”を名乗る人物が現れた。


 移動式要塞“アリアンロッド”の奥にあるフィンの執務室に呼び出されたフェムトとアイオーンは、自分たちを知っているという人間に見当がつかず、お互いが疑問符を浮かべていた。

「こんな辺境の地に会いに来るなんて……一体、誰だろう?」

 アイオーンはぽつりと、呟いた。そう、ここはグラン大陸最西部に位置する“ブリタンニア”と呼ばれる地方だった。険しい砂と岩の大地が広がる場所で、かつて自分たちが捨てられた地を思い起こさせるものだった。

「さぁな。大方、ガリアの時の生き残りとかじゃないか? 叔父上は東部・南部を積極的に攻撃していたわけだから、西部に逃げる奴らがいるのは必然だろうし」

「なるほど」

 ふむ、とアイオーンはフェムトの言葉に納得していた。しかし――

「でも、僕たちがイデア軍にいるなんて、どうして知ったんだろう? 僕たちは軍のお偉いさんでも何でもないのに」

「……そこなんだよなぁ……」

 アイオーンの疑問に、フェムトも同じようなことを感じていた。違和感を。

 既に7年以上が経っているとはいえ、どこで自分たちの素性がばれるかわからない。だからこそ、戦ではなるべく顔を隠していたのだ。

「とにかく、会ってみよう」

「うん」

 フェムトの言葉に、アイオーンは頷いた。


「失礼します」

 フェムトたちは執務室に入り、まず頭を下げた。

「おう、二人とも。すまないな、疲れているのに」

 フィンは陽気にそう言って、二人を手招きしていた。彼は奥の椅子に座っており、その隣にロスメルタが腕を組んで立っていた。彼女はどこか機嫌が悪そうな――というよりも、まるで敵を見定めるかのような鋭い視線で、二人を見ていた。

 どうしてそんな風に僕たちを見るのか――とアイオーンは困惑しつつも、フィンの前にある横長の机の前に進んだ。

「さっき聞いたとは思うが……」

「俺たちに、会いたい人がいるってことですか?」

 フェムトはフィンの言葉を遮るようにして、言った。兄もまた、異様な雰囲気を察知している。何せ、ロスメルタだけでなく、レーグもいつものような優しさを含ませた余裕のある表情をしていないのだ。

 この場でいつも通りなのは、頭領――フィンだけだ。

「ああ。レーグ、呼んでくれ」

「はい」

 レーグは奥に行き、パスワードでロックされた扉の前で暗証番号を入力した。扉が横へスライドして開くと、そこには藍色のローブを羽織った人が3人ほど立っていた。ローブを鼻先までかぶっていたため、顔を確認することはできない。だが、その背丈や体格から予想するに、女性2人と男性1人といったところだ。

「……ス……ま」

 一番華奢なローブの女性が、何かを言いながら自身の胸に手を当てた。身体が微かに震えている。口も微かに開き、驚きを隠せないようだった。

 余計に意味が分からない――と思っていた矢先、アイオーンは気付く。

 光る何かが、その人の頬を伝っていくのを。

 そして、もう一つのことに気付く。驚いていたのではない。嬉しいのだ、と。


「兄さま!」


 その言葉と共に、その女性はフェムトに駆け寄り抱き着いた。淡いピンク色の髪が、まるで流れるように舞う。その様を、フェムトたちは知っていた。忘れるはずもない、少女の姿が脳裏に浮かぶ。


「ま、まさか……君は……!!」

「会いたかったです、ユリウス兄さま」


 女性は顔を隠していたローブを脱ぎ、その笑顔を彼らに向けた。愛おしさ溢れる、涙を零しながら。

 彼女はレナ。ティルナノグ皇室に連なる、フェムトたちの従姉妹だった。


 ここから、彼らの――

 本当の意味での“不幸”が始まる。



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