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BLUE・STORY  作者: 森田しょう
◆EPISODEⅢ ――穿たれた空と、終わりのない旅路――
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第二部③ ~イデア~

 創始暦7962、11月。後に言う“カナンの戦い”が始まる。

 帝国軍はガリア軍が寝静まった深夜に進軍を開始。ガリア軍のコンピューターをハッキングし、監視システムを無効化。突如の来襲にガリア軍は総崩れとなった。ガリア軍は65万もの大所帯だったことと、多数の反乱軍が加わったことで指揮系統が一本化されておらず、撤退もままならなかった。結果として総大将だったアドルフは捕らえられ、半数以上がこの戦いで命を落とした。また、長い長い補給路を維持していたため、各個撃破されたことにより残るガリア軍も壊滅させられた。


 幸か不幸か――フェムトたちは補給路を確保するため、ベルギガという町に駐留していた。

 彼らがガリア軍の壊滅を知ったのは、帝国による緊急放送だった。


「ガリア解放戦線指導者・アドルフ=アルフォルス及びその上層部以下108名を、帝国内乱罪により死刑に処する」


 6年ぶりにテレビ画面で見た叔父ガルザスは、白い階段の最上段に立ち、雁首を揃えられたアドルフ達、ガリア軍上層部がその下で整然と並べられていた。

「執行せよ」

 鋭い眼光と共に、言が発せられる。それはあらゆる地上人に、これ以上戦えば容赦しない――とでも言っているかのようだった。

 その場で、反逆者は処刑された。死への恐怖に悲鳴を上げながら、アドルフたちは一刀両断された。青空と白い祭壇のような場所は、血しぶきによるコントラストで異様な光景を創り出していた。

「これより、地上に住まう反乱の芽を絶つべく、アガルタ・ガリア・ノリクム・バエティカ・インフェリオル各地方の都市にある反乱軍とみなす組織全てに対し、軍事行動を開始する」


 クイクルムの属するアガルタ地方もまた、帝国の侵略にあうこととなった。

 帝国の攻撃からなんとか逃れられたフェムトたちは、グラン大陸中央南部・イリュリクム地方を経由しガリア地方へ入り、アガルタ地方を目指した。しかし、その中でも帝国の攻撃にあい、ガリア地方に入る頃には兵士は約200名ほどになってしまっていた。その後、帝国はガリア軍の中心であったガリア地方を制圧し、厳しい検閲を行っていたため、すぐにアガルタへ向かうことは難しかった。ラジオやテレビの情報によると、既にアガルタ地方の半分が制圧されていた。クイクルムはアガルタ地方の中心都市の一つ。ガリア軍が駐留していたため、粛清を受けるのは目に見えている。一刻も早く、クイクルムへ向かわなければ――。


 ガリア地方の最北端の町・ティトス――

 ここはアガルタ地方と隣接する地方都市の一つである。しかし、町中には帝国軍が闊歩しており、行動はかなり制限されてしまっていた。以前、フェムトたちがガリア軍としてここへ寄った際、解放軍と称して略奪を行っていたガリア軍の一部を制止し、助けたことのある人がいた。その人たちが昔の地下通路を使って郊外へ出る道を教えてくれたのだ。そこは古代の水道で、現在は全く利用されていないものだった。数キロにも及ぶ地下通路を進み、彼らは検問を抜けてアガルタ地方へと入った。


 彼らがクイクルムに到着する一週間ほど前に、既に帝国軍に制圧されてしまっていた。住民の安否は不明なため、リタやカルラ、お世話になったたくさんの人たちのことで、フェムトたちは気が気でなかった。


 だが、そんな時。


 クイクルムの帝国軍を掃討した組織が現れた。彼らは遥か南方の大陸――ロンバルディア大陸よりやってきた地上解放軍“イデア”を名乗る組織だった。そして、そこの頭領こそが後のソフィア聖書にも載ることになる“英雄フィン”こと“フィン=ディルムン”だった。



 フィン=ディルムン――年齢は当時43歳。

 彼は遥か南方の大陸からやってきた男だった。肌は日焼けしたように茶色く、髪は彼らの持つ片刃の剣と同じように黒いもので、あまりこちらの人間の馴染みのないものだった。

 だが、彼にはフェムトたちと同じ力である“魔法”を扱える能力を有していた。それは天空人のみにしか操れないものだとされていたが、彼は自然発露として魔法を操れたのだ。


 彼が結成した“イデア”は、緑豊かな大地であるロンバルディアからやってきた組織で、最東部のパンフィリア地方でゲリラ活動を行っていた。その後、アガルタの北に位置するノリクム地方の主要都市を解放し、アガルタに潜入していたのだ。

 フェムトとアイオーンは彼らに助けられ、共に戦うことになった。そこで、彼らはフィンの娘とそのお守り役と出逢う。

 それが“ロスメルタ=ラルフェン=ディルムン”と、彼女の側近(というより教育係)“レーグ=リアンガヴラ”だった。


挿絵(By みてみん)


 ロスメルタは16歳の華奢な少女だったが、その剣技は既にイデア随一であり、才能は父をも超えるとされるほどだった。もちろん、単純な戦闘能力で言えばフェムトたちよりも格段に上であることは当然だった。また、その端麗な容姿ゆえに多くの男性からの人気もあった。


「ありがとう、助けてくれて。おかげで、大切な人を取り戻せた」

 町の中心に位置する噴水広場で、フェムトは大切な人――リタを抱き、ロスメルタに言った。漆黒の双眸を持つロスメルタは、ジッとフェムトたちを見つめた。

「……彼女さん?」

 ロスメルタは、そう訊ねる。その問いに、フェムトとリタは思わず顔を赤くした。

「わかりやすいわね。言わなくてもわかる」

 無表情で、ロスメルタは言った。再会できて、よほど嬉しかったのかな。

「それにしても、君の剣技は本当にすごいな。ガリア軍の中にも、君ほどの腕前を持つ人間はいなかったよ」

 照れているフェムトたちをよそに、アイオーンは握手のための手を差し出した。

「……上から目線ね。そういう人、嫌い」

「えっ……?」

「こら、ロスメルタ」

「いて」

 こつん、と彼女の頭部を叩く青年がいた。彼らと同じ漆黒の髪を持つが、反対に肌は白い青年だった。

「初対面の人に向かって、なんて口のきき方だ。叔父さんに言いつけるぞ」

「い、いい度胸じゃない、レーグ。やってみなさいよ!」

「なんだとぅ!?」

「何よ!?」

 子供っぽく怒るロスメルタと、レーグと呼ばれた青年。彼らもまた、アイオーンたちにとって生涯の友になる人たちだった。


「置いてけぼりだなぁ、アイオーン?」

「な、なんだか新しい感じの人たちだね」

 フェムトとアイオーンは、顔を合わせて微笑んでいた。

「根っこからいい人たちってわかるね」

 リタもそう言って、心の底から嬉しく感じ、笑みを零していた。



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