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009 キョーコちゃんだってオシャレしたいんです

「うわー、凄いな」

「はわわ、もりもりです!」

「……なんだ、これは……?」


 翌日、魔導器の様子を見ようとダンジョンの外へ出た私たちは、驚く光景を目にする。


 通路の扉を開けて外に出る。時間はとっくに朝になっているはずだが、なぜかダンジョン入り口は薄ら暗い。おかしいな、と思って外に出てみると、そこには鬱蒼とした森が広がっていた。


「これ……昨日の魔導器のせい?」

「どうやらそうみたいですね」


 魔導器が凄いのか、それとも魔力を注いだアルエルが凄いのかは分からないが、これで木材の問題は解消できたわけだ。


「このままだと樹海になってしまいます」

「一歩も出られなくなるのも困るよね」


 確かに。とりあえず魔導器は地面から抜いておく。朝食を頂いたあと、早速伐採にかかる。私が木を切り倒し、それをキョーコが決めてある長さに整えて板や柱にしていく。アルエルはやすりをかけて、表面を滑らかにする役だ。


 当然私は魔法を使って切っているわけだが、キョーコの方がスパスパと木材を切断しているのが気にかかる。いやまぁ、あれも魔法と言えば魔法なんだが、なんだか微妙な気持ちになるんだよなぁ……。


 お昼になるころには魔導器を設置する以前の状態に戻ってきた。同時に大量の木材がダンジョン前に積み上げられることになる。


「これだけあれば、当面は大丈夫かな?」

「うむ。床や壁、それ以外にも家具なども作りたいし、ゆくゆくはもう少し必要になってくるかもしれないが」

「わー、ベッドも欲しいです! バルバトスさま」

「あんた、本当にこういうの好きなんだね。本当に魔王なの?」

「当然っ! 自他共に認める魔王バルバトスである! 冒険者たちを震え上がらせ、恐怖のどん底におと――」

「魔王資格も持ってますしね」

「魔王資格?」

「ええ、ダンジョンギルドの公認資格なんですよ!」

「へぇ? それって難しいの?」

「無論だ。幾多の困難をくぐり抜け、力ある者だけが手にすることがで――」

「合格率は確か結構低かったはずです」


 いや、私にもちゃんとしゃべらせてくれよ!


「ふーん、バルバトスって結構凄かったんだね」

「うふふ、でも剣とか槍の試験は全然だったんですよ」

「そんなのでも大丈夫なの?」

「はい。魔法の試験がダントツだったので。あとは筆記試験もよかったんですよね?」

「うむ。魔法と筆記は一位通過だったからな」

「剣と槍はダメでも?」

「そこは何度も繰り返さないで……」


 そんなこんなで、昼食を食べて作業を再開する。木材の運び入れはキョーコがやってくれた。考えてみれば私とアルエルだけだったら、こういう作業はできない。両手を合わせて拝んでおくと、木材を大量に抱えたキョーコは不思議そうな顔をしていた。


 運び込んだ木材を加工していく。高さには余裕を持たせて掘っていたので、その中に柱を立てて部屋をつくることにした。天井付近にはややスペースが生まれたが、色々な配管などを通すのに役立つわけで、これもまた計画を変更してよかった点だった。


 四隅に柱を立て、きちんと垂直にしたのち固定する。梁などを通したあと壁を貼り付けていく。バルコニー側は大きく、通路側は扉の分だけ開けておいた。この辺りは現物合わせで行っていったので、何度も位置を調整しながらいびつにならないようにしていく。


 キョーコなどは「もう適当でいいじゃん」と言っていたが、こういうのは一部がズレると全体が狂ってしまうもの。「いいか、そういう適当なことではキチンとしたものは作れない」とクドクド説明する。


 多少呆れた様子だったが、ちゃんと理解してくれたようだ。「バルバトスサマノ オオセノトオリ」と言っていた。やや片言だったのが気になるが、分かってもらえてよかった。


 夕方になるころには、部屋の形だけは完成。後は扉や窓などを付けないと。扉はいいとして、ガラスは流石に作れない。アルエルに頼んでガーゴイルに注文してもらおう……と思っていたのだが、アルエルの姿が見えない。


 散々探していると、森の奥から「はひっ、はひっ」と息を切らしながら走ってくる。


「どこ行ってたんだ?」

「ええっと……ちょっと運動に」

「運動って……」

「最近、バルバトスさまのお食事が美味しくて食べ過ぎちゃったんですよ」


 そう言われるとなにも言えない。あまり遠くには行くなよ、と注意してから用件を伝えておいた。


「ガラス、ガラスっと……あっ、これ……これも……これなんか……」


 随分長いこと魔導器を操作していたが、ああいうのは難しいのだろう。これもアルエルがいないとできないことだった。とりあえず拝んでおく。



□ ◇ □ ◇ □



 翌日。早朝からガーゴイル便に叩き起こされる。ガラス板は巨大だったので、数匹のガーゴイルたちで運んできたらしい。外に降ろされると上げるのが厄介なので、バルコニーのところに置いてもらう。


 「あ、それとこっちもッス」と別のガーゴイルが箱を差し出す。「ん?」と受け取り箱を開けようとすると、慌てて「バルバトスさま、それは私がっ!」とアルエルが飛んできた。


「なんだ、変なもの買ったんじゃないだろうな?」

「変なものじゃないですよ」


 そう言い残しキョーコの手を引っ張り『最後の審判』へと消えていく。扉を閉めながら「バルバトスさまはここで待ってて下さい」と念を押された。しばらくすると、扉が開きアルエルが帰ってくる。


「さ、キョーコちゃん。恥ずかしがってないで出てきて下さい」

「えー、でもこれ本当に大丈夫?」

「はい、とってもお似合いです!」


 なんのことかと思っていたら、いつもとは違う衣装に身を包んだキョーコがモジモジしながら現れた。前はワンピースにカーディガンという出で立ちだったが、今度は少しゆったりめのシャツに……前よりもグッと短いスカート。


「どうですか? とっても可愛いと思うんです」

「いや……うん、いいとは思うのだが……」


 目のやり場に困ってしまっていると、キョーコの方も少し恥ずかしいらしく「ちょっとこれ、短すぎない?」とスカートを必死で押さえている。


「そのくらいの方が可愛いんですよ。女の子なんですから、ちょっとはオシャレしないと」「いやぁ、でもさぁ……普段はいいかもしれないけど、戦ったり作業したりしているときに、その……見えちゃったり」

「あっ、そういうときのためにもう一着あるんです」


 再びキョーコの手を引き奥へ消えるアルエル。数分後、再び登場したキョーコは先程とは違い、身体にピタッと合ったチュニックにショートパンツ。どうやら相当動きやすいようで「これはいいね」とご満悦の様子だ。


「他にも何着かありますから、適当に着回しして下さいね」

「でもあたしばかり買ってもらったんじゃ……」

「大丈夫ですよ。私も同じくらいお洋服はもっていますし」

「んんー、ごほん」

「いつも同じ服じゃつまらないですし、何より不衛生ですから」

「あーあー、おっほん」

「どうしました、バルバトスさま? お風邪ですか?」

「……大丈夫っぽい」

「アルエル、バルバトスにもなにか買ってあげた方がいいんじゃない? いつもローブ姿しかしてないし」

「ああっ、ごめんなさい! バルバトスさまのもあるんです!」


 なーんだ、そうなんだ。いや別にさ、ファッション(そういうの)全然気にしないからよかったんだけどな。でもまぁ、せっかく買ってくれたというのならば着ないというわけでもないのだが!


「はい、バルバトスさま。お待たせしました!」


 そう言って木箱からアルエルが取り出してくれたものを羽織る。


「……前と変わってなくない?」

「はい。バルバトスさまはこのローブがお好きなんですよ」

「でも、もうちょっと違うものの方がよかったんじゃ……なんだか微妙な顔してるし」

「ええっ!? そうだったんですか、バルバトスさま? 最近そのローブばかり着てらっしゃったので、てっきりそれがお気に入りなんだと」


 確かに気に入ってる。黒に近い紫色のローブ。フード付きで、ポイントは裾が少し引きずるくらいの長さにしてある点。これを選んだのは「魔王っぽいところ」と、なんと言っても「安かった」からだ(後、内側に収納ポケットが多いことも魅力的)。王都の衣料品店ので偶然見つけたものだったが、本当にいい買い物をしたと思っている。


 うーん、だけどさ。ここはちょっと違う物が出てくるところじゃない?


「あっ……で、でもっ、とってもお似合いですよ?」

「そうそう、ニアッテル、ニアッテル」

 ……あ、そう……。

「それにやっぱりバルバトスさまと言えばローブ、ローブと言えばバルバトスさま、みたいな?」

「これほどローブを着こなせる人間も、そうそういないよね」

 ……そうかな……?

「魔王さまって感じで、貫禄がありますよ!」

「やっぱ、デンセツのマオウサマは違うなぁ」

「クックック。そう、我こそは伝説の魔王バルバトスである。恐怖の権化、世界のしは――」

「ところでアルエル、ご飯はまだ?」

「はいー。準備はできてますよ。ちょっと火にかけてきますね」


 パタパタと階段を降りていく二人。ひとり取り残された私のローブが、まだ完成していない窓から入ってきた風にはためいていた。


「……似合ってるんだよね?」

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