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007 ネットでお買い物

「またそれか……」


 アルエルがバックパックから出してきたものを見て、私はため息をつく。黒く四角い板を持ち上げながら、アルエルは「またこれです」と嬉しそうに答えた。


「なに、それ?」

「あれ、キョーコちゃんご存知ないですか? 魔導ネットですよ」

「あー、聞いたことはあるかも?」

「なんでも調べられて、なんでも買える。とっても便利な現代の利器です」


 上機嫌でアルエルは板状の魔導器を指で触る。フッと板の表面に画像が表示され『Gargoyle』の文字が浮かび上がった。


「困ったときはっガーゴイル♪ 欲っしいものもガーゴイル♪」

「お前ほんとそれ好きだよな」

「だって便利じゃないですか。なんでも買えるし、分からないことも教えてくれるし」

「ちょっと待った。なんでも買えるってどういうこと?」

「おいおい、キョーコよ。お前、本当に16歳か? 今どきの若い子はこういうの使いこなせるものじゃないの?」

「むっ、じゃぁバルバトスはちゃんと分かってるの?」

「それはだなぁ……まぁなんとなく?」

「あたしとそんなに変わらないじゃない」

「いいんだよ。私は若者じゃないし」

「まぁまぁ、おふたりともケンカしないで下さい。私がちゃんとご説明しますから」


 アルエルは立ち上がると、わざとらしく「こほん」と咳をして「いいですか?」と眉間の辺りをクイクイッとする。いや、お前眼鏡かけてないだろ。


「そもそも魔導ネットというのは、魔力の力を使ったネットワークなんですよ。遠くに離れた場所でも情報をやり取りできる、それが魔導ネットです。本来は戦争のときの伝令を伝えるために開発されたものらしいのですが、平和になった今ではそれを使って色々な情報をみんなで共有することができるようになってるんですよね。そのサービスのひとつが『Gargoyle(ガーゴイル)』で、主にモンスターのガーゴイルさんたちが運営しているんです。お風呂場のシミが落ちないときの対処法から、日常の便利なお買い物まで様々なニーズに適合してくれる、とっても便利な……って、ちょっと聞いてますかっ!?」

「ううーん……聞い……て……」

「ふぁぁ、うん……魔導のシミがとっても便利……」

「全然聞いてないっ!?」


 アルエルに怒られて渋々起き上がる。だって話長いし。


「もぉーっ! そんなことだから時代に置いてけぼりにされちゃうんですよー」

「はい……」

「すみません……」

「まぁいいです。では、ちょっと検索してみましょう。いいアイディアがあるかもです。『木 成長 早い』っと……出ました!」

「へぇぇ、一杯あるね。『成長の早い木材ベスト10!』に『○○木なら生育にたったの5年でOK!』だって」

「むー、5年でも十分早い気がしますが、やっぱりそのくらいはかかるんですねぇ」

「あっ! そこの、その下のピコピコしているところ!」

「バルバトスさま、ピコピコって……あ、これですか。なになに『魔導の力で成長力アップ! 驚きの速度で植物の育成が可能』ですか」

「もしかして『魔導』の文字が引っかかったの?」

「いや、別にそうじゃないけど……」

「ええと……『この魔導器を植えた樹木の近くに設置するだけで、魔力により生育を大幅にアップできます』ですって」

「なんか怪しいね。でもあたしも魔法の力で肉体を強化できるんだし、そういうのもあるんじゃない?」

「あぁ、うーん……そう言われてみれば……そうなんですけど」

「強化は……できるかもしれないけど……育成は……なぁ」

「ちょっとふたりとも! どこ見て言ってるのよ!?」


 顔を真っ赤にしながら、両手で胸を隠すキョーコ。アルエルはそんなキョーコの肩に手を置き「大丈夫ですよ、キョーコちゃん。まだまだこれからです」と慰めている。目の前でアルエルのポヨンとした胸が揺れ、キョーコは両手で顔を隠しながら「それ以上……言わないでぇ」と涙声で訴えていた。


「お求めやすい価格なので、とりあえずひとつ注文しておきますね」


 アルエルが画面をポチっと押す。流石にそろそろ眠くなってきた。むせび泣いているキョーコに「早く寝ろよ」と声をかけ就寝。



□ ◇ □ ◇ □



 翌日。どこかで誰かが呼んでいるような声に目を覚ます。耳を澄ますと「すみませーん」と遠くの方で叫んでいる声が聞こえた。隣を見ると、アルエルとキョーコはまだ毛布に包まったままスースーと寝息を立てている。


 仕方ないな……。


 もそっと起きて通路へ向かう。修復しておいた扉を開けると「うわっ、壁が開いた!?」と声がする。見ると一匹のガーゴイルが、ちょっとオーバーリアクションで驚いていた。


「アルエルさんのお宅はここでッス?」

「うむ、そうだが」

「よかったッス。誰もいないからいたずらかと思っちゃったッス」


 案外おちゃめなガーゴイルさんだ。「ここにサインを」と伝票を差し出してきたので名前を書く。「それじゃ、これ」とひとつの木箱を差し出すと「またのご用命を〜」と飛び立っていってしまった。


「むにゅむにゅ……バルバトスさまぁ……おはようございますぅ」


 『最後の審判』に戻ると、アルエルが大あくびをしながら「んんー」と両手を伸ばしていた。


「なんかお届け物だぞ」

「んー……あっ、昨日注文したやつですよ、バルバトスさま」

「えっ、もう来たの」

「うーん、おはよぅ……どしたの?」

「あ、キョーコちゃん。おはようございます! 昨日の魔導器が来たんですよ」

「へぇぇ、早いねぇ」

「開けてみましょう! むむむ……箱のフタが固い……のです……」

「どれどれ、ちょっと貸してみろ。いいか、こういうのはこうやって……こう……こ……ぜぇぜぇ……」


 凄く固い。見ると大きな釘でしっかりと固定されていた。ガーゴイルが空中を飛んで運んでくるので、頑丈にしているのかもしれない。先の尖った棒のようなものがあれば。どこかに転がって――。


 バキッ!


「ん?」


 振り返ると、箱を手にキョーコが「開いたよ」と平然と言っていた。


「手で開けたの?」

「そうだけど?」


 「どしたの?」と不思議そうにしているキョーコに「うんまぁ、なんだ。それあんまり人の前でやらない方がいいぞ」と忠告してやる。彼女の力を知っている私たちでさえ、ちょっと背筋が寒なったほどだ。アルエルなど顔を真っ青にしながら「さささっサスガデス、きょきょきょキョーコちゃん」とかみまくっている。


 今更ながらようやく意味が分かったようで、慌てて「あー、腕が痛いー」とわざとらしいアピールをしているがもう遅い。


 開いた箱を覗き込んでみると、紙に包まった小さな魔導器がひとつ入っていた。ゲージの付いた手のひらサイズの本体には、小さな棒が刺さっている。


「えっと、どうやらその棒を地面に刺すみたいですね。あと本体に魔力を注入しておかないといけないみたいです」

「魔力を注入ってどうやるの?」

「魔法が使える者が、魔導器を持って魔力を押し出すイメージをするだけだぞ」

「ちょっとやってみよ。うーん、うーん」

「全然ゲージが上がりません」

「はぁ……はぁ……なんかやり方違う?」

「いや、合ってると思うが……ちょっと魔導掘削器で同じことやってみろ」

「うん。うーん……うーん……」

「こっちも同じですねぇ」


 どうやらキョーコは魔力を外に放出するのが苦手のようだ。肉体内に魔法をかけるため、外に出すのは得意ではないのだろう。


「そっか、ちょっと残念」

「ま、人それぞれ得意不得意はあるからな。その分、キョーコは他人より肉体を強化する術には長けているのだし」

「そうですね。私はそういうの全然できませんから」

「アルエルの場合は逆に放出は得意なんだが……本当に放出だけは……」


 「どういうこと?」と不思議そうな顔をしているキョーコに「話すより見る方が早い」と二人を外へ連れ出す。ダンジョン前の広場には、先日切った木の切り株と、その近くには芽を出し始めたばかりの幼木がいくつかあった。


 試しにその近くに魔導器をセットしてみる。


「出番だぞ」

「はいっ! では……むむむむぅ」

「うわっ、ゲージが凄い勢いで上がっていってる!」

「むむむーっ!!」

「ちょっ、ゲージ振り切ってる! アルエル、ストップ! もう十分だ」

「むむむ? そうですか?」


 実はここに来る途中、こっそり魔力を注いでみた。チラッと見た限りでは、ゲージはわずかしか動いていなかった。恐らくであるが、普通の者が魔力を注ぎ切るにはある程度の時間がかかるのだと分かっていた。


「すごいね、アルエル」

「エヘヘ、昔からこういうのだけは得意なんですっ」

「そういやさっき『放出だけは得意』って言ってたよね?」


 その話はしたくなかったのだが……。

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