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004 改築開始!

「むにゃぁ……バルバトスさまぁ……おはようございますぅ……」

「うむ、やっと目が覚めたか。もうすぐ朝ごはんだ、顔を洗ってこい」

「ふぁぁい……って、あれキョーコちゃんは?」

「起きたらこんなものが置いてあった」


 私はアルエルに一枚の紙切れを差し出す。


「えっと……『運動がてら食材を集めてくる。お昼前には帰るから』ですか」

「どう思う?」

「……逃げちゃいましたかね?」

「やっぱそう思うか?」


 まぁそりゃそうだよなぁ。下級モンスターの中には「食べさせてくれれば働く」という者も多い。だが人型生物はそうはいかない。アルエルの場合は特殊な例だが、キョーコのような人間にはやはりお金は大切なものなんだろう。


 昨晩はワイワイと楽しく将来のダンジョン像について語り合ったりしたものだが、一晩寝て夢から覚めた……といったところか。


「でもしょうがないですよ。キョーコちゃんを責めちゃダメですよ」

「うむ、分かっているさ。無茶を言ってるのはこちらだしな」

「はい! で、今日はどうします?」

「そうだなぁ……」


 本格的にダンジョン整備に移る前に、ひとまずは衣食住をなんとかしないといけない。それは昨晩話し合った結果の結論だった。そもそもダンジョンを開設するにはモンスターやトラップなど、足りてないものばかりだ。


 モンスターたちに安心して来てもらうためにも、せめて住環境はキチンとしておきたいところ。


「では今日も頑張っていきましょう!」


 アルエルが笑顔でツルハシを手渡してくる。


「またこれか……」

「だって、魔導掘削器は高いって、バルバトスさまおっしゃってたじゃないですか」


 魔導掘削器とは魔導器の一種で、魔力を注ぐことで岩などを簡単に掘削することができるすぐれものだ。


「しかしだなぁ……やっぱ買っちゃわない? 今後のことも考えてさ」

「ダメですよっ! 無駄使いはしない。折角バルバトスさまがコツコツ貯めたお金なんですから」

「私とお前が、な」

「えへへ。あ、私は木を切ってきますね!」

「あぁ……ってちょっと待ったぁぁ! その巨大な斧。それ使うの?」

「木は斧で切るものじゃないです?」

「そうなんだけどさ。それちょっとでかすぎない?」

「大丈夫ですよ、ほら! あわわわぁぁぁ、バルバトスさまぁぁぁ、止めてぇぇぇぇ」


 斧を振り回した反動で、クルクル回転してしまっているアルエル。止めてって言われても、まるで凶器のように回転しているわけでどうしようもない。しばらく待つと、目を回したアルエルが「ふあああああ」と言いながら斧を放り出し、地面に転がる。


「ほら言わんこっちゃない。ほら、大丈夫か?」

「はひぃ。朝ごはんが逆流しそうですぅ……」

「!? ちょ、待って! 我慢して!」


 背中を擦ってやると、ようやく落ち着いたみたいだ。ふぅ、作業に入る前に仕事が増えるところだった。そんなわけでアルエルには、昨日と同じように私が掘った瓦礫を整理してもらう。


「どこから手を付けましょうかね?」

「まずは入り口に行ってみよう」


 昨日通ってきた通路を入り口に向かう。


「この通路もちょっと狭いですねぇ」

「そうだな。後で拡張するか」

「そこそこ長い通路ですから大変ですね、バルバトス様が」

「いや、お前も手伝ってね」


 そんなやり取りをしていると、ようやく入り口に到着した。昨日は先へ先へと進んだのであまりしっかり見ていなかったが、ダンジョンの入り口は小高い山の麓に、人が三人ほど並んで通れる穴になっている。


 そこから入ると少し広い広間がある。玉座『闇の依代』(命名:バルバトス)が置いてある部屋より、もう少し大きな空間だ。そこから正面にさっき来た通路。そして右と左に1本ずつ通路が伸びている。


「見てない通路も調べておきます?」

「いや、それよりも先にこの周辺を整備しておこう。ダンジョンを整備するにしても、ここはよく通ることになるだろうしな」


 ツルハシを振り上げ、魔力を込めながら振り下ろす。ゴツゴツしていた地面をできるだけ平らにならしていく。壁はそれっぽく若干岩肌感を残しながらも、不揃いになっている箇所を削って見栄え良くしておいた。岩石の破片はアルエルがまとめ、手車に積んでとりあえずダンジョンの外へ。


「ふぃぃ、こんなもんですかねぇ」

「だな……てか、ちょっと休憩しよう……」

「はいっ、お昼ご飯ですね!」


 クタクタになってへたり込んでいると、アルエルが鍋と食材を持ってきてくれる。


「いや、アルエルだって疲れているだろ? 私がやろう」

「いいえっ! ここは私にお任せ下さい!」

「うむ……そうか? じゃ、悪いけど頼もうかな」

「はいっ! あ、バルバトスさま、火をお願いしますね」


 アルエルの作ってくれた料理は即席ながら、なかなか美味かった。ちょっと味が濃かった気もするが、疲れているときはこのくらいの方が美味しく感じるものだ。なかなか腕を上げたな、アルエル。剣とかもこの調子で行ってくれると助かるのだが。


「午後からはどうしますか?」

「そうだなぁ。この通路をなんとかしないとな」

「あー、あの部屋に通じている通路ですね」


 あの部屋とは玉座が置いてある部屋のことだ。名前がないとなんとも言いにくいので、魔王自らが『最後の審判』を命名しておく。


「バルバトスさまのネーミングセンスは独特ですね」

「それ、褒めてんの? それとも貶してる?」

「貶してないですよ? 半分半分です!」

「半分は貶してるんじゃないか」

「あはは」

「まぁいい。あそこは拠点にしたいから、こんなにおおっぴらに開いているとちょっとなぁ」

「埋めちゃいます?」

「いや、それだと私たちも出られなくなるし」

「あっ、確かに」

「いや待てよ……」


 埋めるのはダメだが、埋めたようにするのはどうだろうか? 例えば扉を設置して、その表面に岩石を貼り付けることで壁と一体化させる。そうすれば、それを知っている私たちは通路を利用できるし、冒険者たちはまさかそこに通路があるとは思うまい。


「さっすがバルバトスさまっ!」

「いや、アルエルのアドバイスがあったからだな」

「さっすが私!」

「そこはもうちょっと謙虚になれよ」


 というわけで、まずは木材の切り出しから。本当にどうやって入ってたのか分からないのだが、アルエルがバックパックから取り出してきたのこぎりを手に、ダンジョン近くの森へ向かう。


 『王都からも近く好立地ですよ』とは、このダンジョンを仲介してくれた商人の言葉だが、そうは言っても王都からはそこそこ離れている。この辺りは民家も少なく、ダンジョンとしては好立地なのは間違いない。このように森も多く、木材なども使いたい放題だし。


 魔力を込めると木はケーキのようにスパスパッと切れていく。岩石よりもこっちの方が遥かに楽だ。2本ほど切り倒し、いくつかのパーツに切り分けておく。


 まずは角材を使って通路に枠を作っていく。もう一度岩石を削りながら、慎重に四角になるように垂直を出していく。枠が固定できたら扉をつくる。これも枠にピッタリはまるよう、細心の注意を払いながら正確につくる。


 扉が出来たら枠にはめてみる。我ながら寸分の狂いもなく出来上がり、思わずうっとりしてしまう。最後に岩石のかけらを扉と枠に固定していく。王都で買った王冠印の万能接着剤。やはりこういう作業は王冠印に限る。どんなものでも完璧にくっつけてくれる。


「すごーい! 扉なんてないみたいです!」


 アルエルの言う通り、なかなか良いものができた。よーく見れば継ぎ目があることは分かるが、ここは松明で薄暗く照らす予定だ。ぱっと見では分かるまい。


「もうすっかり真っ暗ですね」

「うむ、夢中でやってたからな」

「私も疲れましたぁ」

「ご飯を食べて、明日に備えて寝るか」

「はいっ!」


 『最後の審判』に戻り夕飯の支度をする。お昼はアルエルが作ってくれたので、今度は私が腕を振るう。と言っても、調理器具も釜戸もないので簡単に焼くか煮るくらいしかできないのが残念なところ。ゆくゆくはちゃんとした料理場もつくりたいところだ。


「美味しいですー」

「ダメになりそうな食材から先に使ってるから、若干バランスが悪いけどな」

「そんなことないですよ? とってもいいお味です。このお出汁(だし)はなにを使ってるんです?」

「それはコンプだな。海で採れる海藻を干したものだ。結構いい出汁が出てるだろ?」

「コクがあって、それでいてまろやかです〜」

「今度教えてやろう。ちょっとしたコツがあってな――」


 そんな他愛もない話をしているときのことだった。焚き火のパチパチと爆ぜる音に混じって、遠くからコンコンという音が響いてきた。それは連続して鳴っており、少しずつ音程を変えながらも、何度も何度も鳴っている。


「ば、バルバトスさまぁ」

「おお、落ち着けアルエル」

「盗賊……もしかして悪いモンスターでしょうか?」


 すすすっと寄ってきたアルエルの頭を撫でながら「大丈夫だ」と落ち着かせてやる。音はコンコンからドンドンと、やや強い音に変化していた。


「ちょっと様子を見てくる」


 焚き火の薪を手に取って立ち上がろうとしたとき、なにかが破裂するような大きな音が鳴り響き『最後の審判』の天井から瓦礫がパラパラと落下してきた。続いてカッカッという足音が聞こえてくる。誰かが侵入してきている!?


「ばばばばバルバトスさまぁぁぁ」

「あああアルエル、おちっ落ち着けっ」


 二人して抱き合っているところに、通路からの侵入者が姿を現す。

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