029 楽しい試行錯誤
「それが……ね」
こいつがこんなモジモジしてるときはきっと……。
「大方、ダンジョンギルドをクビになったんだろ?」
「違うわよっ! こっちから辞めてやったの! 今日なんか変なヤツが来てさ『面白いダンジョンを紹介してくれ』って言うから『そういうのは冒険者ギルドに聞いて下さーい』ってあしらったんだけど、なんか全然帰らないのよ」
「いや、お前のとこダンジョンギルドなんだから、ちゃんと紹介してやれよ……」
「だってぇ、面倒じゃない? その後もバルバトスなら泣き出しそうなくらい罵ってやったんだけど、ニヤニヤしちゃって気持ち悪かったの」
「お前……そういうのやめろよ……で、どうしたんだ?」
「……殴った」
「は?」
「グーで殴った。そしたらちょっと問題になっちゃって、ギルド長がグダグダうるさいから『あーもう! こんなとこ辞めてやるー!!』って飛び出してきてやった」
「反抗期の少年じゃないんだから……」
立ち話もなんなので、とりあえず中へ。
「うわー、なにこれ? 部屋までつくったの? ウケる~、あ、でも結構いい部屋じゃない。私はどこを使えばいいの?」
「それならあたしの隣が空いてるよ」
「あっ! あなたが噂のキョーコちゃんね。冒険者ギルドでも噂になってたわよぉ。よろしくね」
「うん、よろしく。でもどんな噂だろ……」
「リーン、もしかしてここに居座る気か!?」
「前にバルちゃん言ったじゃない? 『美しいリーンさん、どうかウチのダンジョンで働いて下さい』って」
「言ってない! いや言ったけど、そういう言い方じゃなかっただろ!? それになにその『バルちゃん』って」
「ふーん……」
「おい、キョーコ。なんでそんな目で私を見る?」
「別にぃ」
「あらぁ……大丈夫よ。私とコレはそんな仲じゃないから」
「コレ扱いするなよ」
「でも、こんなヒョロでDIYバカのどこがいいの?」
「やっ、あたしは別にそんなんじゃ――」
真っ赤になったキョーコが「あたしもアルエル手伝ってくる」とキッチンへ駆け込む。
「あらら、凄い女冒険者さんだって聞いてたんだけど、案外ウブな子だったんだ」
「お前、そうやって敵が増えていくんだぞ」
「後でちゃんと謝っておくって。で、雇ってくれるんでしょ? 私にできる仕事ってある? こう見えても結構剣は使えるよ」
「いやそっちは間に合っている。強いて言えば受付……かな? 入ダン料を徴収したり案内したりする係」
「適材適所じゃない。ギルドで培った受付スキル、存分に発揮できるしね」
「冒険者を殴るような受付嬢が言うセリフかよ……」
アルエルたちが淹れてくれた茶とリーンのお土産を頂きながら、明日に向けて魔導石つくりを開始する。リーンも「それ面白いね!」と感心してくれていたので、皆ホッとする。
まずはどのくらいの大きさの魔導石にすればいいか、というのを考えてみる。エルによると魔導石は大きければ大きいほど、その威力を発揮できるらしい。『防護』の魔法を込める場合、大きいほうがよりたくさんの攻撃を防ぐことができるというわけだ。
「キョーコさんに試してもらったときは、あんまり魔力が残ってなかったんですよ」
「もしかして、どこかで襲われたりしたのか?」
「いえ……その……つまずいてこけちゃったりして。ちょっとずつ目減りしてたんですよね」
安定のドジっ子っぷりだ。
「ですから、アルエルちゃんが満タンに補充してくれた今なら、そこそこの攻撃も受けられると思います」
「ちょっとやってみるか」
攻撃役はキョーコが買って出てくれた……が、受け手には誰も手を挙げようとしない。
「アルエ……」さっと目を逸らされる。
「ボ……」「アタタ キュウニ オナカガ……」肋骨辺りを押さえてる。
「ミミ……は、どこに行った?」いつの間にかいなくなっている。
仕方ないな……。私が首からペンダントを下げてキョーコの前に立つ。
「一応聞いておくが、魔導石以上の攻撃を受けたらどうなっちゃうの?」
「それは……ちょっと痛いと思います」
ちょっとで済めばいいのだが。腕をクルクル回してるキョーコに「いいぞ」と言う。体勢を沈めたキョーコの姿が、いつも通りフッと消える。眼の前に現れたキョーコの拳が、私の顔に迫り……当たる寸前で魔法陣が展開。
「おっと」
「まだ魔法陣は生きてますね」
「今のどれくらいの威力だった?」
「うーん……バルバトスを気絶させられるくらい……かな?」
私の感じたイメージでも同じくらい。このままもう一度受けてみることにする。
「同じくらいでいいの?」
「う……いや、来い! どんとこーい!!」
先程と同じようなキョーコの攻撃。今度は魔法陣がパリンと音を立てて砕け散る。同時に私にも少しだけダメージが入る感触があった。
「いってぇ……」
「ごめんごめん。大丈夫?」
「あぁ。以前キョーコと戦ったときよりは、全然軽いダメージだ。ずっと前にリーンにほっぺたを叩かれたとき……くらいかな?」
「あー……そんなこともあったわねぇ……」
「あんた、リーンさんになにしたのよ?」
「いやいやキョーコちゃん。バルちゃんは悪くないのよ。どっちかって言うと、あれは私が悪かったんだから」
「まぁそれはそれとして」
問題はダメージがいつ入るのかが分からない点だ。突然魔法陣が砕けて、痛い思いをするのは少し怖い気がする。
「これだと冒険者さんも、安心して戦えないかもです」
「そうだな。ゲージのようなものがあればいいのだが……」
「魔導石は効力を失うまで、一定の光を放っていますので分からないんですよね」
「うーん……あ、エルちゃん。これってふたつ付けてたら、どうなるんです?」
「どちらかランダムで発動する……はずだと思うけど……あっ!」
「小さくしたものをいくつか付けたら、ゲージっぽくならないですか?」
「おぉ、アルエル。それいいかも」
「やってみましょう!」
エルが持っていた予備の魔導石を小さくカットする。先程のは握った拳にすっぽり入る程度のサイズだったので、今度は小指の先ほどの大きさにしたものを7つ台座に固定した。エルに『防護』の魔法を封じてもらった後、アルエルに魔力を注入してもらうと7つの魔導石は赤く光り始める。
「それじゃ、もう一度やってみるか」
キョーコにさっきと同じくらいの攻撃をしてもらう。軽い衝撃があり7つの魔導石の内4つが光を失っていた。キョーコのパンチ2発でノックアウトなら、ちょうどいいくらいだろう。
効果を失っていく順番はランダムかと思ったが、よくよく調べてみると小さな魔導石から魔力を失っていくことが分かった。ほんの僅かな差でもそれは有効なようなので、秤を使って微妙に大きさを整えておく。
更に何度かテストを行っていく内に、面白いことが分かってきた。
まず『キョーコの肉体強化魔法や、一般的な防御系魔法をまとっている者が攻撃を受けた場合、その効果が上乗せされる』ということだ。キョーコと『防護』の魔法をまとった私が魔導石をつけ、サキドエルに「気絶する程度」の攻撃をしてもらう。
すると7つの魔導石はどちらも1つ光を失った。次に魔法を解除した状態で同じことを行ってみると、今度は4つの魔導石が消えた。また防具も試してみたところ、魔法ほどではないが同じような効果があることが分かった。
サキドエルのような元々強固な肉体の持ち主と、私のようなひょろい体型だと、前者の方が魔導石が消えるペースが遅く、やはり元々の防御力が関連しているようだ。
「これなら補助系魔法も有効ってことだよね」
「魔法使いさんもリストラされずに済みますー」
次に『永続的なダメージを受ける魔法』の場合。ランドフルさんに毒魔法『侵食する闇』の魔法をかけてもらう。
「ちょっとチクチクするな」
「魔導石は……あっ、ひとつ消えました!」
「ふむ、この魔法は5分程度で人を死に至らしめるからの。そんなもんかもしれぬ」
「あ、またひとつ……3つ目も消えましたね」
「あの……そろそろ魔法を解除してもらません? じゃないと私、死んじゃうので」
試せなかったのは『魔導石で防護しきれないほどの攻撃を受けた場合』だ。さっき私が2度目の攻撃を受けたとき、そこそこ痛みを感じたことから、許容以上のダメージは入るものと思われる。
「それじゃ、魔導石が消えた場合は早めに退場してもらわないとですね」
「危ないもんね」
魔導石の光を失った冒険者はダンジョンを引き返してもらうことにし、それを最初に伝えておくことにしよう。他にも色々問題点も出てくるかもしれないが……。
大体枠組みが決まった辺りで、皆疲れてしまったのか机にうつ伏せになってしまう。
「むにゃむにゃ……バルバトスさ……ローブを片付け……」
「スースースー」
「グー……グー……」
「みんなお疲れだったしね」
「うむ、それにこんな時間だしな」
「あたしたちももう寝る?」
「うーん、私はもう少し魔導石を量産しておく。明日早速使ってみたいし」
「じゃ、あたしも手伝うよ」
眠ってしまったアルエルたちを部屋に連れて行き、リビングでキョーコとふたり作業を進める。静まり返った部屋では大きな声で話すのがいけないことのように思われ、小さくささやくような声でキョーコとこれまでの思い出を語り合う。
こういう経験は今までなかったのだが、案外楽しいものだと思った。身体は疲れているし眠気で頭もぼんやりしている。それでも寝るのがもったいないような思いがしていた。
そうして夜は更けていく。




