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028 ダンジョン道

 冒険者たちが受付をしている横を通り、中の様子を確認しようとするとランドルフ(リッチ)さんが壁の中からすり抜けて出てきた。


「暇だからの、ちょっと様子を見てきた」

「どうです?」

「最初の4人組はスライムにはなんとか勝っておったが、スケルトンコンビにノックアウトされておったの」

「怪我とかしてませんでしたか?」

「うむ。特にあのロックと言ったかの。寡黙なスケルトンはなかなか筋が良い。防具の上からキレイに気絶するほどの一撃で仕留めておったわ」

「そうですか。よかった……」

「ホッとしててどうする。たまたま今回は運がよかっただけで、次の冒険者のときにはどうなるかすら分からんのだぞ? そもそもお前はどういうダンジョンを目指しておるのかの?」


 師匠の鋭い指摘になにも言い返せない。以前キョーコに語ったように、私は冒険者たちにダンジョンの面白さを知ってもらいたいと思っている。だがそれは決して命のやり取りあってのものではない。


 ただ今のままではランドルフさんの言うように、いつかそういう日がやってくる。確かに蘇生はできる。それも簡単かつ確実に。私は冒険者たちやキャストたちに、それを強いることができるのだろうか? 一日に何度も何度も命を落としては蘇生を繰り返す、ということをやれと言えるのだろうか?


「まーたそうやって一人で考え込むのが、お前さんの悪いところだの」

「師匠……」

「以前のお前は確かに一人だったから、仕方がなかったのかもしれぬ。だが今は違うのだろ?」


 そうだった。私には信頼できる仲間がいるじゃないか。


 幸いなことに、その後の冒険者たちも大きな事故もなくダンジョン初日を終えることができた。皆、ダークエルフのデッキまではたどり着いたものの、ラエの的確な剣さばきにより多少の怪我程度で彼らからの「参った」を引き出せたからだ。


 その夜、食事を終えた皆に私はランドルフさんとの話を伝えた。


「うーん、エルちゃんのポーションで蘇生できると言っても、確かに死んじゃったり死なせちゃったりするのは、ちょっとイヤかもです」

「知性のないモンスター相手ならしょうがないところもあるかもだけど、人相手じゃやりにくいよね」

「ボクハ アンデッド シナナイ ケドネ」

「みみっ!」

「いざと言うときのためにポーションは作りますけど、あんまり多用するようなことにはしたくないですよね」

「そもそも他のダンジョンはどうなってるかの?」


 以前ダンジョンギルドに聞いた話では、国内ダンジョンに限ってはそれぞれで違うらしい。旧来の本格的なダンジョンを標榜するものから『ダンジョンごっこ』に近いものまで。前者は本当に命のやり取りを行い、後者は金属製の武器の持ち込みを禁止しているらしい。


 国外ダンジョンなどは『冒険者 VS モンスター』という図式すらなくし、アトラクション的なトラップなどで楽しませるだけのものも増えてきているとリーンが教えてくれた。


「ふーむ……しかし木の剣で叩き合いと言っても、打ちどころが悪いと死ぬこともあるだろうしの?」

「そうなんですよね。だからあんまり意味がないらしいんですよ」

「……木の武器って言えばさ。あたしの故郷に『剣道』ってのがあるんだよね」

「ケンドー? キョーコの故郷ということはホウライか?」

「うん。剣の道って書いて剣道。元々は剣術鍛錬のために始まったものらしいんだけど、今は人間姓を高めるためにやってる人も多いんだよね。だから『道』って言葉がついてるの」

「それなら聞いたことがあるの。確か竹の刀を使うんじゃなかったの?」

「そうそう。竹刀って言うんだ。それで腕とか胴とか頭とかを叩いたら『一本』ってことで勝負がつくんだよ」

「おもしろそうですー」

「アルエルの言う通り面白そう……なのだが、竹の刀か……。こっちには竹は自生してないしなぁ」

「うーん」

「ウーン」

「うーん……あっ、ああっ!」

「どうしたんです、エルちゃん?」

「これこれっ、これを見て下さい!」


 エルが胸元を探り、ペンダントを取り出す。金色の鎖に少し大きな台座。そこの中央には赤く光る石が取り付けられており……。


「魔導石か?」

「マドウセキ? ッテナニ?」

「魔法を封じ込めた宝石だな。それを身につけることで魔力がない者でも魔法を行使することができる」

「私たちダークエルフは魔導石をつくることも生業にしてたんです。ただ魔導石には欠点もあって、魔力が切れるまでしか使えないんですよ」

「使っちゃったらどうなるの?」

「キョーコさん。私を一度叩いてもらえます?」

「えっ? いや流石にそれは」

「大丈夫です。思いっきりガツンとやっちゃって下さい」

「本当に大丈夫なの?」

「はい。気になるのでしたら、少し弱めでも大丈夫ですけど」

「うーん……じゃぁ」


 立ち上がったキョーコがエルの前に立ち腕を振り上げる。げんこつを頭にコツン……とエルの頭に触れる寸前で、その間に小さな魔法陣が出現する。キョーコの腕が魔法陣に触れるとガラスが割れるような音がして、魔法陣が粉々に砕け散る。同時になにかに弾かれるようにキョーコの腕が反動で押し返される。


「わっ! 今のなに?」

「『防護(プロテクション)』の魔法です。この魔導石に込められていました」

「『防護』の魔法ですか! ……って、なんですか、それ?」

「アルエルちゃん……。えっとね、魔法攻撃でも物理攻撃でも跳ね返しちゃうものなんだよ。魔導石に込める程度だと、跳ね返すほどの力はないから無効化が精一杯なんだけど。で、さっきのキョーコさんの問いなんですけど、ほら魔導石を見て下さい」

「あっ、赤く光ってたのが消えてる」

「本当ですー。暗くなってますね」

「うん。一回使い切っちゃったら、また魔力を込めないと使えないんだよ。それも結構たくさんの魔力を込めないといけないから、あんまり売れなかったんだよね」

「魔力を込めるの得意な人が――あっ……」

「大丈夫ですよ、キョーコちゃん。ここにいるみんなには知っておいて欲しいですから」


 エルからペンダントを受け取ったアルエルがゆっくり目を閉じる。


「むむむむむっ!」

「毎回思うんだが、その掛け声いるの?」

「いえ、特に必要ないんですが、なんか頑張ってる感があるかなって」

「どちらかと言うと、ふざけてる感が出てるんだが」

「ええっ!? んーとじゃ、じゃぁ……はむーーーーっ!」

「あんまし変わってないような……。あ、でもほら魔導石が」

「うわっ、こんな一瞬で元通りに!? アルエルちゃん、本当に凄いね!」

「確かにこいつは凄いな……ミノタウロスでもここまで魔力を放出できる奴はいないぞ?」

「えへへ、師匠に褒められちゃいました」

「いつの間に師弟関係になってるの?」

「サキドエル師匠は、私の剣のお師匠様なんです!」

「……大変だな、お前も」

「あぁ……これほど苦戦したことは、今までなかったかもしれん」

「で、結局さっきの話とどう繋がるの?」

「えっと……それはですね。キョーコさんがおっしゃってた剣道は、竹刀で特定の箇所を叩いたら勝負が決まるんですよね?」

「うん、そうだけど」

「あ、なるほど。そういうことか」

「はい、バルバトスさま」

「つまり冒険者にこの魔導石を装備してもらって、効果が切れたら負けってことにすれば、本気の戦闘になっても誰も怪我しないってことだな」

「『防護』の魔法は物理攻撃でも魔法攻撃でも反応しますから。後は魔導石の大きさを調整すれば、どの程度のダメージを受けたら無力化するか設定できますし」


 一同から「おぉ」という感嘆の声が上がる。


「ケンドーじゃなくって、ダンジョン道ですね! 略してダン道!!」

「なんだかちょっと胡散臭く聞こえるけど」

「いやいや、そうでもないと思うぞ。いいじゃないかダン道。さっきキョーコが言ってたように『人間鍛錬の場』として認知されれば、今までの冒険者以外のお客さんも増えるかもしれないし」

「ぉーぃ」

「ウハウハですー! って、なにか声が聞こえませんでした?」

「ん? 空耳じゃないか?」

「ぉーぃおーい! 誰かいないのー?」

「あ、ほんとだ。誰か外で叫んでるみたい」


 下に降り隠し通路の扉を開ける。


「うわっ、なにこれ? 壁がドアになってんの? どうせバルバトスがつくったんでしょ? ほんとこういうの好きなんだから」

「余計なお世話だ! って、なんだお前か、リーン」


 呆れた顔で隠し扉を眺めているのは、ダンジョンギルドの受付嬢リーン。背中には大きな風呂敷包みを背負い、酒を飲んでいるのか顔は少し赤い。


「夜分遅くにおっじゃましまーす! あ、アルエルちゃんおひさー」

「お久しぶりですー」

「あ、これ王都土産ね。『名物親衛隊まんじゅう』なんだってさ。形が騎士なだけで、中身はただのおまんじゅうなんだけど」

「わーい! ありがとうございます!」

「それはありがたいのだが、一体どうした、こんな夜更けに」

「あーうん……それが……ね」


 なにやらモジモジしているリーン。

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