023 ダークエルフ美人三姉妹結成!
王都からダンジョンに戻ると、まず私は待っていた皆に、改めて王都でのことを話した。アルエルは喜び、エルとラエは困惑しながらも感謝していた。先に到着していたミノタウロスのサキドエルはスケルトンのボンとロックと共に剣の修行をしていたそうで、確かに随分腕前を上げたようだった。
「みっちり仕込んでおいたからな。初級の冒険者相手なら、いい勝負をするだろう」
「サキドエル シショー キビシイ! デモ ボクタチ トッテモ ツヨクナッタ!」
「……(クイッ)」
「ロックくんの上腕骨も随分太くなってますー!」
あ、筋肉がないから骨が太くなるのね。
エルとラエは『漆黒の森』へ帰ることになっていたのだが「どうしてもバルバトスさまにお返しがしたいです」とエルが言い張る。そう言われてもお金を返してもらうわけにもいかないしなぁ……。
「お里には、他に何人のダークエルフさんが残ってるんです?」
「ええと、私たちを除いて後4人ほど。でもみんな女の人ばかりでお年も召してるので、狩りに出たり働きに行くことが難しいの。家の雑用くらいならできるんだけど……」
「私たちにお返し云々は別にしても、今後はどうやって生計を立てていくつもりなんだ?」
「それは……」
エルは困った顔でラエを見る。ラエも首を振り「未定です」と言うばかり。それならばと提案してみる。
「エルたちは『漆黒の森』を離れることに抵抗があるのか?」
「ない……と言えばウソになります。でも現状ではそういうことを言っていられないのも事実なので……」
「それなら残っているダークエルフさんも合わせて、みんなでウチに来ないか?」
「えっ、バルバトスさまのところに!?」
「あぁ、年長の方々も家事ができるのなら食事の用意などをしてもらえると助かるし、エルとラエにはダンジョンの方を手伝ってもらえると私も嬉しい。それに……」
隣を見るとアルエルが顔をぱぁぁぁっと輝かせていた。キョーコも歳が近いが、同族の者がいるとアルエルも嬉しいんじゃないかな。特にエルとは小さいころから知ってる仲だし。
「バルバトスさま、ありがとうございますっ! 私たち一生懸命働きますからっ!!」
「いや、そんなに根を詰めなくてもいいぞ。もっと気楽に」
「そうだよ。魔王自らが『DIYがー』とか『お料理がー』とか言ってるくらいのダンジョンだからね」
「おい、キョーコ。それは合ってても言っちゃダメ」
そんなわけで話はトントン拍子で決まり、次の日からエルとラエ、キョーコが『漆黒の森』へ行き、残っている里の者を連れてきたり荷物を運んだりする。その間に、私はダンジョンを増築し、居住スペースを拡大しておく。
元々10部屋作っておいた上のフロアに重ねるように10部屋増築する。二度目とあって、前回よりも時間がかからず完成。今回から落盤対策に太い柱を何本も配置した。キョーコがいなくて苦労しそうだったが、サキドエルのお陰で力仕事も難なくこなす。
「凄いです、バルバトスさま」
「ボンとロックにサキドエルも手伝ってくれたからな。それに段々慣れてきたのも大きい」
「本職みたいですー」
「ヨッ トウリョウ!」
「あ、ありがとう……念のため聞くけど、褒められてる?」
「そっ、それはモチロン」
「モチロン モチロン」
からかわれてるように思えるのは気のせいだったか……。
里のダークエルフたちは、足が悪くなっている者もいるだろうから下の部屋を使ってもらい、私たちは上へと引っ越すことにした。って言っても、たいした荷物もないのだが。
「すまないねぇ。私たちみたいなのを住まわせてくれるなんて」
「いえいえ、とんでもない。こちらこそ助かります」
「あらー、よく見るといい男じゃないの。ちょっと細いけど、おじいさんの若かったころにそっくり」
「は、はぁ……」
「で、わたしたちは食事の用意の他には何をすればいいんだい?」
「いえいえ、それだけしてくれれば大丈夫ですよ」
「なに言ってんだい。そんなことだけでご飯が食べられるとは思ってないよ。掃除に洗濯なんかも任せてもらおうかね」
「よ、よろしくお願いします」
熟女ダークエルフたちは、ややおっとりした印象のリウ、亡くなった旦那さんが私似のメレス、曲がった腰ながら私より歩くのが早いファロス、ハキハキ言いたいことを言うガラの4人。聞いていた感じだと、もうヨロヨロでヨボヨボかと思っていたが、案外パワフルな感じ。これは頼りになるな。「ちょっとあんた、そんな汚いローブじゃダメだよ。はい、脱いだ脱いだ」と身ぐるみ剥がされたときは、どうしたものかと思ったが……。
「あのぉ……私たちはどうしましょうか?」
エルがおずおずと尋ねてきた。あー、考えてなかったなぁ……。とりあえずアルエル、エル、ラエを横一列で並ばせる。
「ダークエルフ三姉妹、ここに見参!! ってのはどう?」
「『どう?』って言われましても……」
「ラエは美人さんだし、アルエルもエルもかわいいから、冒険者受けすると思うんだけどなぁ」
「前に言ってたキョーコちゃんとのユニットの続編ですね!」
ノリノリなアルエル、困惑しているエルに対して、ラエは少し顔を赤らめながら「わ、私が長女ですか……美人さん……ですか」と満更でもない様子。
「と言うことは、私が次女ってことですね?」
「えっ、エルちゃん。次女は私のポジションじゃないですか?」
「アルエルちゃん、そこは譲れないよ。私の方がお姉さんっぽいでしょ?」
「えぇ!? どう思われますか、バルバトスさま?」
『どう?』って言われましても……。
とりあえず並べてみる。背はほぼ一緒。歳も一緒。違うと言えば……。
「どこを舐めるように見てんのよ!!」
「いって! なんで突然殴るんだよ、キョーコ!」
「だってバルバトスの視線がイヤらしかったから」
「……」
否定はできない。女性の身体的特徴の内、シンボル的な部分だけで言えばアルエルが断然お姉さんだろう。だがキョーコの刺すような視線にそれを言えなくなってしまう。
「……生まれた日は?」
「はいっ! 8月3日ですー!」
「わっ、やった。私は8月1日なんだよね」
「くぅー、2日の差でお姉さんを逃してしまいました!」
「あはは。ごめんね、やっぱり変わろうか?」
「ううん、いいですよ。私は末っ子ポジションをしっかり守っていきます!」
自分で言い出しておいてなんだが、こうしてなんだかよく分からない『ダークエルフ三姉妹』が結成された。
「バルバトスさま『ダークエルフ美人三姉妹』ですよね?」
「うーん……でも語呂が悪くな――」
「ですよね?」
「あっ、はい」
ラエの謎の気迫に押されてしまい、正式名称は『ダークエルフ美人三姉妹』に決定。ちなみになにをするのかは未定。ダメっ子アルエルをふたりがサポートしてくれるとありがたい……と思っていたわけだが……。
長女のラエは想像以上によくできた子だ。剣や弓の腕もかなりのものだし、流石長女という感じでしっかり者でもある。
想定外だったのが次女のエル。アルエルと同じような背格好なので、少しだけ嫌な予感はしていた。しかし彼女も15歳。それも元『漆黒の森』の長だ。ラエほどではないだろうが、それなりにできる子なんじゃないかと思っていた。
が、事実が露呈したのは彼女たちが来て2日目のこと。夜、ダイニングでくつろいでいるとキッチンからエルがトレーを手にやって来た。
「バルバトスさま、お茶が入りまし、っとっとっと、あぁっ!?」
「あちゃちゃちゃ! あちーっ!!」
「ごめんなさーい! すぐにお拭きしますっ! あぁ、床にもこんなにこぼれちゃって……お顔も失礼しますね」
「あ、いや。できれば床と顔を拭くのは別のものにして欲しいのだが……」
「あぁっ、すみません! 私ったら本当にダメですね……」
「いやいや、エル。そんなことはないぞ」
目の前ですっかりしょげている小さなダークエルフを慰める。しかしこのときはまだ、エルの本気を理解できていなかった。
翌日、私は皆の実力を確かめていた。と言っても、アルエルは知ってるし、キョーコとサキドエルは一度戦っているのでこれも分かる。ボンとロックはそのサキドエルに鍛えてもらったらしいし、ラエも王都での道中で剣技を見せてもらった……というわけで残るのは。
「ダークエルフと言えば弓。エル、ちょっと射てみてくれ」
「わ、分かりました。あの的に当てればいいんですね……集中……集中して……」
「……エル? もっと気楽にやってくれていいぞ?」
「話しかけないでっ! あ、すみません……」
「あ、うん」
「集中……集中……えいっ!!」
エルが矢を放った瞬間、隣に立っていた私のローブのフードを矢がかすめる。
「ひっ! どうして矢が真横に飛んでくるの!?」
「す、すみません! もう一度……集中……集中……うりゃっ!!」
「ひゃっ! ちょ、今度は脇腹をかすめたんだけど? てかちょっと血がでてるんだけど!?」
「ごめんなさーい!!」
半泣きになりながら平謝りするエル。幸いにも大した怪我ではないし、やってみろと言ったのは私だし気にしないように伝える。
「でも一応ちゃんと治療しておかないと」
「そうですね、ちょっと救急箱を持ってきますね」
「いえ、アルエルちゃん。大丈夫です」
そう言うとエルは私の傷口に手を当て呪文を唱え始める。『天使の息吹』小さく開いていた傷が、あっという間に塞がっていく。久しぶりに治癒魔法を受けたが、やっぱり凄いなぁ……って、あれ……なにか忘れているような?