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019 クエストに出発!

 久々に訪れた冒険者ギルド。受付の彼女のことは知らないし、ぐるっと見回しても知っている顔はいない。いやしかし。以前は私だってそれなりの冒険者だった。更に冒険者からダンジョンマスターになる者はそう多くない。


 冒険者ギルドともなれば、既に私のことは知れ渡っている……ということか。


「いかにも。我こそは『鮮血のダンジョ――」

「そそ、今あたしが働いているのが、このバルバトスのやってるダンジョンってわけ」


 まーたそうやって、いいところで私の言葉を遮るし。なにそれ流行ってるの? はいはい、分かってます。どうせこの後『あのダメダメ冒険者だったバルバトスが、ダンジョンマスターに!?』って展開でしょ? まぁ確かに剣も槍も使えなかった私は、かなりクエストを選ぶ変わった冒険者だったけど? でもさ、それなりに難易度の高いクエストもこなしたし、そんなに悪い冒険者ってわけでもなかったと……思うんだけどなぁ。


 だが受付の女性の言葉は、私の予想とは違ったものだった。


「すごーい! あのバルバトスさまに会えるなんて!!」

「あ……はい?」

「冒険者ギルドでは有名なお人なんですよ。バルバトスさまは。だって一冒険者からダンジョンマスターになられるなんて、凄いサクセスストーリーじゃないですか!!」


 おぉ……。なんだか、久しぶりに讃えられた気がする……。アルエルなんかは度々「すごーい」と言ってくれるが、身内以外からこんなに称賛されるのは……本当に……ほん……。


「って、なに泣いてんのよ、バルバトス」

「……っ! 泣いてないっ、泣いてなんかないしっ!!」

「あれ……私、なにか失礼なこと言ってしまいました?」

「いや、君は悪くないぞ。とても素晴らしい受付嬢さんだ」

「は、はぁ……?」


 そんなやり取りをしていると、いつの間にか周囲に人だかりができてしまい、私たちはカウンター奥にある小さな個室へと案内される。


 先程の女性はテレーゼと名乗った。まだ幼さの残る顔立ちで、実際キョーコと同い年らしい。愛らしいいいお嬢さんじゃないか……と眺めているとキョーコの機嫌が少し悪くなる。なんだよ、さっき私が褒められてたときは上機嫌っぽかったのに。本当に女心というのは難しいものだ。


「で、どんなクエストをご希望ですか、キョーコさん?」

「とにかく稼げるやつ。あと日数も少ないほうがいいかも」

「それはまた……かなり高難易度になっちゃいますけど?」

「あたしとバルバトスなら、相当難易度高くても大丈夫だよね?」

「うむ。このギルドで最高ランクのものでも構わないぞ」

「でもあまり難易度が高すぎるものは、お二人という人数では依頼者が納得しない可能性もあるんですよねぇ」

「そういうものなの?」

「はい。中にはできもしないクエストを受けて、放り投げちゃう冒険者もいたりしますので。もちろん私はキョーコさんたちなら大丈夫だと思いますけど、依頼者が了承しないとクエストは成立しないので」


 困ったな……。私とキョーコは顔を見合わせる。


「ねぇ、テレーゼは信用できるから、この際全部話した方がよくない?」

「別に秘密の話ってわけじゃないからな。お前に任せるよ」

「うん。あのねテレーゼ――」


 キョーコはテレーゼに事情を説明する。エルとラエと私たちとの関係はややこしくなるので『仲間』だと言っておくことにして、彼女たちを開放するのに500万ゴルが必要だと伝えると、テレーゼは怒ったような顔になった。


「斡旋商人ですか……。あの人たち、この辺でも評判が悪いんですよね。人の弱みにつけ込んで商売してるって。分かりました! 私も全面協力させて頂きます!」


 そう言って一旦奥へ引っ込むと、なにやら大きな箱を持ってきた。「これを使って下さい」といくつかの魔導器を箱から取り出す。


 板状のものはアルエルの持っていたものと似ていて、これを使えば遠くにいても画像を送ることができるらしい。それといくつかの小袋も手渡される。こちらは中にある程度の物を入れていくことができる魔導器。


「6日で500万ゴルを目指すには、クエストをこなすごとに王都に帰っていては間に合いません。なので、私がここから選んだクエストを、この魔導通信器(マジックパッド)で送ります」

「これ……どうやって使うの? このボタン……こっちは……わっ、なんか光った!?」

「……大丈夫だ、キョーコ。魔導器は私が使うから」

「うん……お願い」

「で、キョーコさんたちはクエストを完了後、その証拠画像を魔導器で送って下さい。それで一旦完了扱いにしておきます。証拠品が必要なクエストの場合は、こちらの魔導収納器(マジックポーチ)に入れておいて下さいね。後でまとめて処理しますから」

「それならかなり効率よさそうだね」

「はいっ! 私が厳選したクエストをガンガン送りますので、キョーコさんたちはこなすことだけを考えてくれれば大丈夫です」

「でも、どうしてそこまでしてくれるんだ?」

「それは……」


 テレーゼがチラッとキョーコの顔を見る。頬が赤く染まって、伏目がちになった瞳がウルウルとしている。ん……それってもしかして……?


「いえっ、ちがっ違いますよ? ええっとそうそう、さっきも言ったじゃないですか。斡旋商人は私も嫌いなんですよ。だからとことん協力しますってことです!」

「ありがと、テレーゼ。恩に着るよ」

「そんな……キョーコさま、もったいないお言葉ですっ!」


 おいおい、遂に「さま」になっちゃったよ。まぁこのことはしばらく触れないでおこう。ややこしくなりそうだし。


「では最初のクエストはこちらですっ!」

「んー、なになに……『北の町に出没した野良リザードマン退治』だって?」

「はい、キョーコさんが前にこなしてくれたオーク退治のクエストなんですが、オークがいなくなったことで代わりにリザードマンの集団が現れるようになったそうなんです」

「あー、あの町かぁ、確かエッセだったっけ?」

「はい。ここから北へ徒歩で1時間ほどの近い町ですね」

「じゃ、ちゃちゃっと行ってぱぱっと済ませよう」

「私は次のクエストを探しておきますね」


 というわけで、私とキョーコは冒険者ギルドを後にする。大通りを歩き城門を抜け郊外に出たところで、キョーコが「はい」と背中を見せてしゃがみ込む。


「ん? どうした?」

「ほら、早く乗って」

「乗るって……お前の背中に?」

「どこに乗るっていうのよ。急がないといけないんだから、私がバルバトスをおんぶして走るから」

「おいおい、ちょっと待て。それを言うなら、私の飛翔魔法で行くべきだろう」

「え、そんな魔法あるの?」

「もちろんだ。ここに来るときだって途中から飛んだんだぞ。ほら、こうやって」


 キョーコの背中から腰に手を回し、グッと掴……。


「ひゃっ!!」

「ゴフッ!?」


 キョーコの肘が腹部にヒットする。


「ちょっ、なにするの?」

「それはこっちのセリフだ。すっごく痛かったぞ」

「自業自得でしょ。いきなり……その……そういうのされたら」


 まったく。アルエルといいキョーコといい、なんだというのだ。この方が飛びやすいからそうしているだけなのだが……仕方がない。


「ほら」


 アルエルのときと同じように背中を向けて乗るように促す。


「うん……乗るよ?」

「あぁ、いいぞ」

「……えっと……ええっと」

「どうした、早くしろ」

「分かってるってば。うーんと……」


 私の肩の付近で手を出したり引っ込めたりしている。なにしてんだ……? 「急がなきゃいけないんだから」と言うと「あーもう!」と、勢いよく私の背中に飛び乗ってくる。よし、落ちないようにしっかり掴まって……むぐぐぐ。


 両手で首が締め上げられちゃってるっ!! 息ができない!!


 慌ててキョーコの手をポンポンと叩く。


「あぁ、ごめん」

「ゲホッ……まったく……あやうくお前にクエストされるところだったわ」

「だって……」

 ちょっと頬を赤くしているキョーコ。なんだ、もしかして高いとこ苦手なのか?

「大丈夫。平気だから」

「そうか? じゃ、行くぞ」


 再び呪文を詠唱し空へ飛び立つ。背中のキョーコも落ち着いたような様子。


「おぉ、凄いね、これ。わー、あっという間にこんなに高いところに」

「……うーむ。やっぱ違うよなぁ」

「えっ、なにが?」

「いや別に」


 背中に当たる感触がアルエルのときと違うと言うと、きっと鉄拳制裁が待っていると思うので黙っておく。以前行ったことがあるキョーコのナビゲートで、魔力を極力セーブしながらも最短ルートでエッセの町へ向かう。


「あっ、あれだよ」


 キョーコが前方を指差す。はるか前方に王都とは比べ物にならないほどの小さな町が見えてきた。町の中央に降り立つと色々面倒なので、少し離れた箇所に降り徒歩で町の中へ。


 まだお昼過ぎだというのに、誰も歩く人がおらずまるで廃墟のような静けさだった。中央にある噴水までたどり着くと、辺りを見回してみる。右手にある小さな建物の扉がそぉっと開き、ひとりの老人が顔を出した。


「もしかして、冒険者の方か?」

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