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016 ダンジョンギルド

 大通りを王都中心部へ向かって歩く。王都は相変わらず賑やかだ。通りの左右には大小様々な店が連なっており、店先では店員たちの声があちらこちらから聞こえてきて活気に満ち溢れていた。


「うわぁ、すごいすごいっ! バルバトスさま『王都名物 親衛隊まんじゅう』ですって!」

「はわー……とってもいい匂いですぅ……海鮮焼きですね、この香りは。バルバトスさま、行ってみましょう!」

「手品ショーをやってます! 手品セットも売ってますよ!」


 といった感じで、アルエルは大はしゃぎしている。さっきも言ったが、確かに久しぶりと言えばそうなんだが、かと言って初めて来たってわけじゃないのに。だがまぁ、喜んでいるアルエルを見ていると、こっちまで嬉しくなるからこれはこれでいいのかも。


 そうやって「うんうん」としている内に、アルエルの両手には、いつの間にか食べ物が山のように積まれていた。


「いや、アルエルさん? ダークエルフのお財布の紐は?」

「うっ……これはっ、これは違うんです!」

「何が違うんだ?」

「いえ、その……ダークエルフは使うべきときを知ってるんです!」

「なにその超理論は」

「まぁまぁ、バルバトスさま。お腹が空いてるからそんな小さいことが気になるんですよ。はい、イカ焼きでも食べて下さいね」

「うむ……」

「美味しでしょ?」

「美味い……な」

「はい。これでバルバトスさまも同罪ですー!」


 一体なにの罪に問われているんだ、私は。


 一通り見て回った後で、目的地であるポーション屋へ。意外なことかもしれないが、王都にあるのはこの1店だけ。昔は大小様々な店があったのだが、ダンジョンや冒険が危険なものではなくなりつつある今、わざわざポーションや薬草で治癒する機会は少なくなってしまったことが原因だと言われている。


 店に入る。それなりの広さの店内には、たくさんの薬草が並べられており、カウンターの奥にはポーションの瓶も見えた。少し年配の店員が「なにかお探しですか?」と尋ねてきたので、蘇生用ポーションに治癒用の薬草などを所望していることを伝える。


 店員が見繕って出してくれた品々の値札を見て驚く。


「5000ゴル、7000ゴル……結構……お高いです」

「最近じゃ、あまり売れないから作り手も少なくなってきてね。どうしても高くなるんだよ」

「ふーむ、仕方ないな。とりあえず1種類ずつ買っておくか」


 蘇生ポーションに治癒用薬草などを買い求めた。しばらくはこれでなんとかするしかないが、長い目で考えるとなにか対策が必要になってくる。店を出て歩きながらアルエルとそのことについて話した。


「薬草って自分たちで作れないんです? ただの葉っぱっぽいですけど」

「作れないことはないと思うんだけどな。ただ野生の植物のうち『どれが薬草に適しているのか? それをどう加工するのか?』は難しいらしい」

「はぁぁ。なんだか大変そうです」

「ポーションはもう少し複雑で、治癒や蘇生魔法を液状化して封じ込めたものだから、魔法が使える人間じゃなければそもそも作れないし」

「薬草は私でも頑張ればなんとかなりそうですけど、ポーションは無理っぽいですねぇ」

「どこかにそういうのができる人がいればいいんだがなぁ。雇えれば大助かりだし」

「ギルドで聞いてみます?」


 そういうわけで、私たちはダンジョンギルドへと向かう。大通りを戻り途中で少し狭くなった路地へ。そこからようやく人がふたりほど並んで通れるほどの狭い路地へと入っていく。


「こんな路地裏にダンジョンギルドがあるんです?」

「アルエルは来るの初めてだったな。冒険者ギルドや商業ギルドは大通りにあるんだが、ダンジョンギルドは昔っからここなんだ」

「へー……あっ、ダンジョンギルドだけに大都会の最深部に、ってやつですか?」

「いや、ただ単に引っ越すのが面倒くさいだけだろ」


 何度か路地を曲がると、行き止まりになる。その一番奥には、周囲よりも一際古ぼけたレンガ造りの建物が建っていた。


「なんだかお化け屋敷みたいなんです」

「100年近く前に建てられた、王都でも最古に近いものらしいぞ」


 扉を開けると、蝶番が嫌な音を立てていた。もう少しちゃんとメンテナンスした方がいいと思うのだが。建物の外観に反して、室内は落ち着いた雰囲気だ。確かに古いが、掃除は行き届いているし無駄なものも置かれていないので、すっきりとして見える。


 手前には小ぶりのテーブルを挟むようにソファーが2脚。その奥には木製のカウンターがあり、ひとりの女性が肘をついて眠っていた。金色の柔らかそうな髪の毛が、肩の辺りでクルンと巻かれている。それが寝息に合わせてゆっくりと上下していた。


 「お人形さんみたいですー」とアルエル。まぁ確かにこうやって寝てるときはそう見えなくもないんだが……。


「おい、リーン」

「……むにゅ……」

「おーい、リーン!」

「……お酒……もうちょっとだけ、もう……」


 熟睡してる。肩を揺すっても全然起きる気配がない。


「とても幸せそうなお顔ですね」

「おおかた、酒を飲んでいる夢でも見てるんだろう」

「お酒が好きな方なんです?」

「王都でも有名な酒豪だな。本人曰く1番じゃないそうだが」

「へぇぇ。私もお酒、飲んでみたいですー」

「ダメダメ。お酒は二十歳になってから。アルエルは15歳だろ」

「今年で16です」

「どっちにしても、あと数年はダメだぞ」

「ぶー。ダークエルフは長寿なので、そこは考慮して欲しいところなんです」

「いや、余計にダメだろ」


 そんなやり取りをしていると、ようやくカウンターの女性――リーンがゴソリと動き出す。もぞもぞと起き上がると、目をこすりながら「お酒……どこ?」とまだ寝ぼけている様子だ。


「おい、リーン。私だ、バルバトスだ」

「バル……? あっ、バルバトスじゃないの!?」

「やっと目を覚ましたか。お前、ギルド(ここ)の受付だろ。寝てちゃいかんだろ」

「たはー! 目覚めの一発にしてはキツイことを。まぁぶっちゃけ暇なのよ……って、あらこちらの可愛らしいお嬢さんは?」

「あっ、はいっ! 私はアルエル、ダークエルフです!」

「あらー、かわいいっ!! ……もしかしてバルバトス、あんた……」

「いや、なんだその目は。違うぞ、アルエルは私の……妹みたいなもので」

「衛兵さーん、この人でーす」

「ちょっ、違うって言ってるだろ、リーン」

「すごいテンションなんです」

「あはは、ありがと。まぁね、このくらいのテンションじゃないとやってけないのよ。ダンジョンギルドに来る男たちって『難易度は』とか『トラップが』とか『DIYは』とかばかりのムサイ男ばかりで」

「最後のは私のことじゃないか……」

「あーあ、やっぱ冒険者ギルドに就職するんだったなぁ。あっちはイケメン剣士とか、セクシーさ満点の魔道士とかいるんだろうなー」

「そんなわけないだろ。『隣のダンジョンは深そうに見える』昔からの格言だぞ」

「はいはーい。ね、アルエルちゃん。こんなDIY男のどこがいいの?」

「ばばばバルバトスさまは、そのっ、とてもお優しいですし」


 珍しくアルエルが慌てふためいている。やや挙動不審になって、両手をブンブンと振りながら必死で「お料理が上手」「お部屋もつくってもらいました」としどろもどろになりながら説明している。てか、それダンジョン関係なくね?


「でもダンジョンは最近、流行ってるだろ。なんで暇なんだよ」

「それがさぁ、なんでも人気が出てきたのをいいことに、ギルド長がギルド本部を移転しちゃってさ。お城の目の前の一等地に新しいのができたのよ。それでもうそっちがメインになってるってわけ」

「それなら、ここは?」

「バルバトスみたいに、昔からの馴染みが来たときに迷わないようにって、半年くらいはここも支部として残しておくみたい。その後は潰されるみたいだけどね」

「それなら、お前もいつかは新しいギルドに移れるわけだからいいじゃないか」

「まーそうなんだけどね。なんか、そっちには若い子の受付嬢がもういるのよね。みょーに可愛らしいいい子なんだけど、どうも私のようなおばさんはもうお役目御免ってことかなぁって」

「いやリーンだってまだ23さ――」

「22! 今年で23歳だけど、まだ22だから!」

 すごい剣幕で訂正を求めてくる。そんなに変わらないだろ……。

「それなら私のところで働かないか?」

「えっ、バルバトスのダンジョンで? いや、ないない。なに? もしかして私に『バルバトスさまぁ』とかって言って欲しいわけ?」

「いや、そうじゃなくて」

「あはは。ごめんごめん。うーん……でも、うーん……まぁ考えとくよ。どっちにしても半年はここにいなくちゃだし」

「そうか。気が向いたら声をかけてくれよ」

「了解っ! あ『カシコマリマシタ、バルバトスサマ』かな? で、今日はなんの用?」

「うむ。それがな――」


 私はことの経緯をリーンに説明する。


「なるほどねぇ、ポーションの生成か」

「誰か心当たりのある人を知らないか?」

「うーん……最近じゃポーション職人も減ってきてるからねぇ……てかさ、そこのダークエルフのお嬢ちゃん。あなたできないの?」

「へっ!? 私ですか? ムリムリムリです」

「えぇ? だってダークエルフって魔法が得意なんじゃなかったっけ?」

「えっと、それはですね……」

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