012 モンスターさん、いらっしゃーい!
最初の部屋から更に奥へと進むと、2つ同じような広さの空間が通路で繋がっており、その後地上へと出てくることができた。
「どうやらキヤベルグ山の裏手のようだな」
「こっちは広々としてて、お家でも建てられそうですね」
「低い山だけど登って帰ってくるのはちょっとツライかも?」
確かに普通の民家だったら2、3軒は建てられそうなくらいの広場になっていた。だが、住居は既につくったしなぁ。またなにか考えよう。それよりも戻るルートだな。それとキョーコがさっき言ってた難易度も考えなくてはならない。
一度最後の審判に戻ってくる。しばらくあーでもないこーでもないと話をするが、なかなか結論は出ない。私としては国内屈指の難易度を誇るダンジョンにしたいところだが、どうやらそういうのは流行りじゃないらしい。
それにその方向に進むのであれば、高レベルのモンスターやトラップも必要になってくるし、お金がいくらあってもきりが無い。
「とりあえずご飯にするか」
最後の晩餐へ向かう。「私が作りますっ!」と張り切るアルエルと「私も手伝うよ」と言うキョーコに任せることにしてダイニングへ向かう。テーブルに腰掛け、お茶でも飲むかと用意を始める。
「オツカレサマ!」
「うむ、お疲れ。茶でも飲むか?」
「ノム ノム!」
「今日はちょっと冷えるから熱い茶が美味いな」
「ダネー ホットスルヨ」
「ホットだけにな」
「ハハハ」
「うははは」
……って誰と喋ってるんだ、私は?
隣を見ると、2体のスケルトンが美味しそうに茶をすすっていた。
「……誰?」
「ボク? スケルトンノ『ボン』コッチハ トモダチノ『ロック』ネ」
妙に馴れ馴れしいのと、先程から一言も口をきかないのが一体ずつ。スケルトンだから当然骨だけなのだが、どこか愛嬌があって可愛らしく見えるのが不思議に思えた。座っているからよく分からないが、背丈がアルエルくらいしかないようで、それが原因かもしれない。
「ボクタチ オウトノ ポスター ミタンダヨ ココデ ヤトッテ モラエルッテ カイテ アッタ」
「ふむ、私は魔王のバルバトス。この『鮮血のダンジョン』のマスターだ」
「オォ マオウサマ!」
「ところでどこから入ってきたんだ?」
「エ? ドア アケッパナシ ダッタカラ ハイッテ マッテタンダケド」
あー、そう言えば通路探索のとき、隠し扉を開けっ放しにしてた気がする。それで「誰かいないかなぁ」と入って来てたってことか。
「それでふたりともウチで働きたいということでいいのか?」
「ウン! ボクタチ スケルトンノ ムラカラ デテキタバカリ ワカラナイ コト オオイケド ガンバル!」
「ほぉ、スケルトンの村というのがあるのか?」
「ウン! ココカラ ヒガシニ イッタトコ トッテモ イイトコ ダヨ!」
「なるほど。それで仕事を探しに出てきたというわけだな? ところでお給料は当面払えないかもしれないが、それでもいいのか?」
「ウン ダイジョーブ! ゴハン サエ モラエレバ OKヨ!」
「スケルトンもご飯食べるのか……?」
「ソリャ アタリマエ ダヨー スケルトンヲ ナンダト オモッテルノ?」
正論すぎてなにも言えない。そりゃそうだな、随分失礼なことを言ってしまった。
「ゼンゼン ダイジョウブ!」
随分気のいいヤツだ。もうひとりの方がまったく喋らないのが気になるところだが。
「ロックハ チョット テレヤサン」
陽気なスケルトンに照れ屋さんのスケルトン。なかなか興味深い。条件もいいし即採用。「ワーイ」と喜んでいるところに、お皿を抱えたアルエルとキョーコがダイニングに入ってくる。
「お待たせしました……って、バルバトスさま!? そんなにお腹が空かれてたんですか!? こんなホネホネになっちゃうなんて……」
「いや、私は隣に座ってるだろ」
「あっ、ホントだ。バルバトス細いから見分けがつかなかったよ」
キョーコまで悪ノリしている。とりあえずふたりを彼女たちに紹介する。
「こっちのよく喋るのがボンで、静……シャイなのがロックだ」
「わーい、ボンくんとロックくん、よろしくですー」
「ワーイ ヨロシクー」
どうやらアルエルとボンは気が合いそうな感じ。ロックも相変わらず黙ったままだが、ふたりと握手してるし大丈夫かな。
「お部屋もたくさんつくっておいてよかったですね」
「うむ。これで半分が埋まったことになるから、もう少し増えたら増設しないとだけどな」
「なんでそこで嬉しそうな顔してるのよ」
「だって楽しいじゃないか、あれ」
「バルバトスさまは本当にDIYがお好きなんですよね」
「ボクタチモ テツダヨウヨー」
「……(コクンと頷く)」
「それは頼もしいな」
ご飯を頂きながら、ボンとロックに今の状況を説明しておく。
「ダッタラ ソノ サイショノ オヘヤ ボクタチニ マカセテ!」
ダンジョンの最初の空洞のことを言っているらしい。
「そうだな。一般的にスケルトンと言えば初級のモンスターとされているし、適任かもしれない」
「頑張って下さいね! ボンくん、ロックくん」
「ウン ガンバルヨー」
「でもさ」
キョーコの目がキランと光る。おい、ちょっと。
「どのくらいの腕前なのか、見せてもら――」
「あー、気にするな。こいつの言うことは聞いちゃいけない」
「モゴー! 離してよ、バルバトス。なんで人の口をいきなり塞ぐのよ」
「だってお前、すぐにそうやって腕試しとかって戦いたがるじゃないか」
「そりゃこれから一緒にダンジョンをやっていく仲間なんだからさ。どのくらいの実力なのか知っておく必要はあるでしょ?」
「言ってることは間違ってないが、キョーコの場合は程度を知らないからな」
「キョーコちゃん、ここに来たときも、いきなりバルバトスさまに戦いを挑んでいましたからね」
「私の圧倒的かつ完全な勝利に終わったがな」
「はいっ!? あれはどっちかって言うと、あたしの勝ちだったでしょ?」
「エッ バルバトスサマニ カッタ?」
「違うぞ、ボン。あれは誰がどう見ても、私の勝ちだった」
「だったらもう一度やる?」
「はいはーい。そこまででーす。あのときみたいなのは、私もうイヤですよ?」
アルエルにそう言われると、私もキョーコもおとなしくなってしまう。昼食を食べ終わったところで、改めて問題点を整理してみた。
「最初に考えなくちゃならないのは、ダンジョン難易度をどうするのかということかな」
「高難易度も捨てがたいが、現状では難しいか」
「すっごい初心者冒険者さん向け、ってのはどうでしょう?」
「悪くはないと思うけど、あんまり初心者向けっていう色がつくのも後々どうなんだろうね?」
「そうなると中級以上の冒険者は来なくなるしな」
「ウーン ムツカシイネ……ン? ロック ドウシタノ? ウン ウン ウン オー ソレイイカモ」
「ロックくんなんて言ってるの?」
「マズハ ショシンシャ ムケノ ルートヲ ツクッテ アトカラ フヤセバ イインジャナイカ ッテ」
「おぉ、ロック。なかなかいい意見じゃないか!」
「私たちもダンジョン運営の初心者みたいなものだから、一緒にレベルアップしていけるといいかも」
「ロックくん、流石ですー!」
「エッ ウン……『ソンナニ ミナイデ』ダッテ」
どれだけ照れ屋さんなんだよ。
「後は何が必要かな?」
「うーん、うーん、うーん……バルバトスさま?」
「そうだな……いくらエンターテイメントって言っても、戦闘はあるし万が一のことを考えると、蘇生魔法が使える人はいるかもな」
「救護班ってとこかな」
「バルバトスサマ マホウ ツカエナイノ?」
「戦闘系魔法は一通り習得してるんだが、治癒系はあんまり得意じゃないんだよなぁ」
「でもそれって、結構大切ですよね?」
「確かに冒険者にしても私たちにしても、いざというとき治癒や蘇生がすぐできないと色々支障が出そうだし」
「まぁ、それに関しては一応解決策がないわけじゃない」
100年ほど前に起こった大陸全土を巻き込んだ戦争によって、治癒系魔法は格段に進歩を遂げた。その後も研究が重ねられ、今ではポーションや薬草の進化により、高レベルの僧侶じゃなくても簡単に蘇生や治癒は可能となっている。
「ただちょっと高いし、こういうのは王都でしか売ってないからな」
「ガーゴイルさんに頼みます?」
「いや、直接販売しかしてくれないんだよ」
「ってことは……」
王都に行くしかない。他にもまだまだ分からないことも多いし、ダンジョンギルドに顔を出して色々聞いてみたいこともあるからな。
「わーい、王都ですー」
「ワーイ ワーイ」
「いや、全員で行くわけにはいかないぞ」
「えぇー!?」
「応募のモンスターが来るかもしれないしね」
「私ひとりで行ってもいいが……」
「ボク オルスバン シテテモ イイヨ?」
「じゃ、あたしも残ってるよ。バルバトスとアルエルで行っといで」
「いいんですか、キョーコちゃん!?」
「うん。あたしはボンとロックと、実践訓練でもしてるよ」
「エッ!?」
「……!?」
こうして翌日から私とアルエルで王都を訪れることになった。




