010 住居完成!
「バルバトス、木材追加持ってきたよ!」
「うむ、そこに置いておいてくれ」
「あとどのくらい必要?」
「うーん、おおよそ壁も床も終わったから、あと20枚程度あれば十分かも」
「了解。じゃ、切ったら持ってくるよ」
「よろしく」
部屋づくりは佳境に差しかかっていた。机や椅子はDIYでつくったことがあったが、今回のように本格的に家屋をつくるのは初めての経験だ。初めは思い通りにならないこともたくさんあったが、アルエルとキョーコの助力もあり1週間ほどでおおよそ形にはなってきた。
「バルバトスさま。石窯の方も図面通り完成したんですけど……ちょっと確認してもらっていいです?」
アルエルがぴょこんと顔を覗かせたので、手を休めて一緒にキッチンへ向かう。ブロックを積んでモルタルで固定した石窯は、思っていた以上によくできていた。
「すごいじゃないか。煙突への配管部分への接続も完璧だ」
「えへへ、そこはちょっと大変でした」
「ダークエルフは石窯づくりも得意なんだな」
「いえ、そんなことはないと思いますけど?」
あ、そこは違うんだ。
昼食を食べながら進捗具合を確認しておく。
「お釜ができたので、明日からはお料理のバリエーションが増えそうです」
「そうだな。もう焼くだけの料理は飽きてきたし」
「あたしは別にどっちでもいいけどなぁ」
「キョーコちゃん、なにか食べたいものはないですか?」
「そうだ。ホウライの郷土料理とかおすすめはないのか?」
「うーん……あ、強いて言えば『ゴメ』が食べたいかな?」
「ゴメ? 聞いたことないです」
「確か東の地域ではよく食べられている主食だったような……?」
「そうそう。水田で育てるんだけど、小さい粒の実でさ。炊くととっても美味しいんだよね」
「へぇぇ、ちょっと食べてみたいですー」
「うーむ……この辺りじゃほとんど見かけないからなぁ」
「いや、また機会があればでいいよ」
「あっ、まだ行ってない方の通路。あそこに水田をつくるのはどうです?」
「いや、あそこはダンジョンになる予定だから……」
ダンジョンが開墾されてしまう前に、住居づくりに戻る。部屋はほぼ完成したので、あとはつくり付けの机とベッドだな。ついでにアルエルに頼んで、お布団なども注文してもらっておく。
この辺りは冬の冷え込みも厳しいそうだから、本当は暖房なども考えたいところだ。当初は窯の排気を部屋の上に通すことで暖房代わりにしようかと考えていたのだが、思っていた以上に熱さがない上、あまり遠くに配管を引くと排気自体に問題が出そうなので止めておいた。
「お風呂も欲しいところですー」
「だなー。こっちに来てから、水浴びしかしてないもんな」
まぁ今は温かい季節なので、その辺りは追々考えていくことにしよう。
事前に決めていたサイズに木材を切るようアルエルに頼む。それをキョーコが運んできて私が組み立てていく。部屋の机に椅子。キッチンに設置する棚。キッチンに隣接するダイニングに置く長テーブルに椅子。
リビングルームには足の短い大きな丸いテーブルを置いてみた。この部屋の入り口には土間を設置。ここで靴を脱いで部屋に入るようになる。確か昔読んだ本では、東洋ではこういう部屋が多いのだとか書いてあった気がする。
キョーコのために……というわけではないのだが、みんなでくつろげる部屋というのなら、そういうのもいいなぁと思ったわけだ。ただテーブルはちょっと大きいそうで、キョーコが言うには「これじゃひっくり返せないよ」とのこと。ひっくり返す? どうして?
夕方になるころには全10部屋+ダイニングキッチン、リビングルームの全てが完成。
「わー、凄いですー!」
「完成してみると、結構広いね」
「ですよねぇ。こんなに広いお部屋でいいのかなって思えるくらいです」
「ダイニングキッチンはもっと広いよね」
「ゆったりとお食事ができそうです!」
「うむ。早速名前を考えておいたぞ。『最後の晩餐』というのはどうだ?」
「……」
「……」
「いや、なんとか言って!?」
そんなやり取りをしていると、窓の外から「すみませーん」という声。ガーゴイル便だ。
「お布団などをお届けにあがりましたッス!」
「おっ、早いな?」
「そりゃもう『困ったときのガーゴイル♪』ですからッス」
「困ったときはっガーゴイル♪ 欲っしいものもっガーゴイル♪」
「何でも揃ぅガーゴイル♪ あなたの暮らしにぃガーゴイル♪」
意気投合したアルエルとガーゴイルによる謎の合唱が響く中、別のガーゴイルたちが家具を搬入していく。全てが運び込まれたあと、それを設置。
「お布団はバルバトスさまは白色の、私とキョーコちゃんはピンクにしてみました!」
「……」
「あれれ、どうしましたキョーコちゃん? もしかしてお気に召しませんでした?」
「いや、そういうわけじゃないけど……なんて言うか、こういう女の子っぽい寝具って使ったことなかったから」
「バルバトスさまのと交換してもらいます?」
「あ、ううん。流石にバルバトスもピンクの布団は嫌だろうし」
いや、別に構わないが?
「ありがと、アルエル。これでいいよ」
「はいっ、キョーコちゃんは女の子なんですから、今後はお洋服などもこの感じでいきましょう!」
「や、それはちょっと」
まーそんなことを言っていたわけだが、キッチンで夕食ができたので部屋に呼びに行ったときのこと。部屋の扉が豪快に開いたままになっていて、そっと覗くとうっとりとした表情でシーツに顔を埋めているキョーコの姿が。
「ばるっ、バルバトスッ!? ノックくらいしてよね!」
「いや、ドア開いてたし」
「……これは、その……」
「いいんだぞ。アルエルの言う通り、お前だって女の子なんだからな」
「クッ……アルエルには内緒にしておいてよ」
「なにがですかぁ?」
私の背後にいたアルエルがぴょこんと顔を出す。
「よかったな、アルエル。キョーコさまはお前の選んだ寝具をたいそうお気に召したそうだぞ」
「うわぁ、キョーコちゃんがやっと目覚めてくれました!」
「ちょっ、なに言ってんのバルバトス!?」
「やっぱり服もピンクで揃えた方がいいんじゃないか?」
「はいっ! 早速ガーゴイルさんに頼まなくちゃ!」
「ちょっとアルエル!?」
大慌てで飛び起きるキョーコ。だがアルエルはパタパタと自分の部屋に走っていってしまう。
「まぁいいじゃないか。別に本当に嫌だってわけじゃないんだろ?」
「……そりゃ……そうなんだけど」
「けど?」
「……は、どう……の?」
「ん? なにを言ってるのか聞き取れないぞ」
「……バルバトスはどう思うの?」
「私? ああ、もちろんいいと思うぞ。まぁさっきのようなヒラヒラした服でダンジョンに立つのはどうかとは思うが」
「やっぱ変だよね」
「いやいや。休みの日とか、プライベートな時間なら全然いいんじゃないか?」
「……あたしが着てても……その……変じゃない?」
なんだそんなことを気にしていたのか。確かにキョーコは男勝りな部分もあるし、最初に会ったときにきていた服なども、一応『女の子の服』という体裁だけで地味なものだった。多分これまでそういうことに興味がなかったわけではないが、自分には縁がないものだと思っていたのだろう。
だがキョーコとて女の子。現にこうして普通にしていると、十分に可愛らしいし。
「とても似合っていたぞ」
「ほんとっ!? 本当に!?」
「あぁ。マオウ ウソ ツカナイ」
「なんか一気に嘘くさくなったんだけど」
「あはは、冗談だ。本当によく似合ってたぞ。とても可愛かったしな」
「か、かわっかわっ」
「ん、どうした?」
「なんでもない! アルエルのとこ、行ってくる!!」
ガバっとベッドから飛び起きると、部屋を飛び出してしまう。なんだ? 自分がやはり女の子だって気づいて恥ずかしくなったのか? 案外照れ屋さんなんだな。
夕食の席でアルエルが「もう1着ずつ、お洋服を注文しておきましたー」とスプーンを掲げながら言う。
「無駄使いしすぎじゃない?」
「んーでも、これからダンジョンをやっていくわけですから、見た目は重要ですよ?」
「そうそう。第一お前だって気に入ってたじゃないか」
「殴るよ?」
「キョーコちゃんのプロデュースは私にお任せ下さいっ!」
「キョーコのプロデュースはいいが、私の服もあるんだろうな?」
「もっちろんです!」
「一応聞いておくけど、またローブってことはない?」
「チッチッチー。バルバトスさま、そんなベタな展開を私がするとでも?」
「おぉ、すみません、アルエル先生。私が間違っていました」
「なに寸劇やってんのよ」
食事後、しばらく皆で歓談していたのだが、疲れが出てきたので早々に布団に入る。久しぶりに一人で寝るのは快適なようで、少し寂しい気もする。まぁそうは言っても、いつまでも雑魚寝をするわけにもいかないしな。
そんなことを考えていると、あっという間に夢の世界へ引き込まれてしまった。