不思議猫は不思議猫
どうしてもぶち当たる壁が出来た気がした。
アルヴィアーナ。なぜ、この国に来た。今考えても仕方のない、最もな始まりを恨む。
どうせ戻ることができるなら、アレンが彼女を見つける前に戻って、セラが見つけてやるのに。魔女だと知っても、そんなことを思ってしまう。
『考えても仕方ねえことは、考えねえ方が時間の有効利用だぜ』
猫は話が終わったとばかりに、また座り直して、今度は丸まった。寝るのか。
「……ギル」
『なんだよ』
「ギルは、どうして、ここにいるの。魔法使いも魔女もいるなら、ギルは本当は何なの」
『今さら、やっとそこ聞いてくるか? 普通、最初に聞くところだ』
「たぶん聞いたんだけど」
『え? そうか? ……ああ、単に俺が面倒だったから言わなかったんだったか。何か、喋ってる時点で「使い魔」っていう発想がないみたいだったから、色々基本から説明しなきゃいけなさそうで、面倒だったんだよな。たぶん』
雑すぎだろう。
出会ったときに、アルヴィアーナのことだったり、教えておいてくれてもいいではないか。
据わった目で見たが、猫は全く気にしない。
『俺は、使い魔だ』
「……使い魔? それは何」
『魔法使いとか魔女が使役する──まあ、あれだ、魔法の力を持っている不思議生物だ』
やはり不思議猫は不思議猫。
『俺は、リンドワールの大魔法使いの使い魔だ』
セラは目を見開いた。
時を巻き戻し、つまり、セラにやり直しの機会が出来た源であるはずの魔法使い。
『時を巻き戻したことで、あいつがつけた条件でお前みたいに記憶持ちが各地に散らばることになったみたいでな。俺はここらに飛ばされて、そいつを探して面倒でも見てやれって言われてんだ』
「……面倒見られた覚えがないんだけど……」
『今だろ、今。色々教えてやったじゃねえか』
「だからそれは──」
最初に教えてこそ面倒を見るというものでは?
今さら言っても仕方ないため、口に出すことは止めた。
猫も、
『そっちは、どっちかと言うとおまけみたいなもんだからな。本題は魔女が土地のどこにいるかって突き止めておくことだった。大体、お前を見つけて意味分からねえだろう現実を肯定してやっただけで面倒みてるだろ』
とか言っている。
だからセラは、異なることを確かめる。
「今の話で言うと、ギルも魔法使えるってことになるよね?」
『難しい話だな』
何だと。
魔法の力を持っている不思議生物だって自分で言ったくせに。魔女に対するセラのサポートには最適ではないかと思ったのに。
『面倒なことに、俺ら使い魔っていうのは魔法使いの力量によって行使できる力が決まる。俺の主はリンドワールの大魔法使いだが、さっき言ったようにそいつは時を戻す魔法を使ったことで、大きな代償を払った。力量も何も、っていう以前の状態でな。代償の結果、俺は姿通りほぼ単なる愛らしい猫でしかねえこの状況なんだ。本当ならなあ、俺にかかれば魔女なんて敵じゃねえんだからな』
「あ……そう」
『信じてねえだろ!』
「いや、今はほぼ単なる愛らしい猫に言われても」
『くそ!!』
猫はとびきりの悪態をついた。
口が悪い。
とりあえず、不思議猫は喋る不思議猫。
そして、セラが立ち向かうべき存在は魔女。
どうしたものか。事は単純ではなくなってきた気がしてならなかった。




