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【喜怒哀楽短編集】

生と死の狭間で

作者: 姥妙 夏希

「死と生の狭間で」の小話というか、少女目線のお話です。


設定はまだまだあるのですが、書こうかどうか迷います...!

踏切の無い線路で、電車が此方に来ているのを気付いたのが、遅すぎた。


轢かれる...!と思った。でも、轢かれても良い、とも思った。私は、今の状況から逃れたかった。それなのに、気付くと、私の上に、何か暖かいものがのっている様な気がして、それが私ごと押して、線路脇の方まで持ってかれた。電車が、通り過ぎていく。


「大丈夫!?何をやっているんだ、線路で!!死ぬ気か!?」


驚いているのと、怒っているのとで混ざった大きな声で、私は一人の男の子に叱責された。道路から、何人かのおばさん達が、何事だと様子をうかがっている。私は、「大丈夫、ありがと、はるちゃん。」と言って微笑んだ。


「お、おう...き、気ィ付けろよ...。」


そう言うはるちゃんの顔が真っ赤なのが可笑しくて、私は「はるちゃん、お顔真っ赤っ赤。茹で蛸みたぁい。」と言ってからかう。涙が溢れないように、笑いながらそう言った。はるちゃんが、私のことを心配してくれた。何時も、死ねと親に言われるぐらいなのに、そんな私を。


「ねぇ、はるちゃん。」

「ん、何だよ。」


「...私も、はるちゃんのこと、助けれる?」


はるちゃんは、虚をつかれた様に黙ると、「...おう、ピンチの時には助けてな。」とぶっきらぼうに、でも優しさを含んだ口調でそう言った。私は緩んだ涙線をきゅっと締めると、「勿論だよ。」と笑った。


「あぁ、帰ってきたの。」


おかえりとも言われない。只、愛情のない、帰ってきたの、が胸の奥底に響く。私は、「...うん。」と呟いた。今まで、ただいま、と言ったことがあっただろうか。学校の先生は、お母さんも、お父さんも、皆優しい人だから、仲良くしなさい、と言う。でも、仲良くなんて、出来ない。


お母さんは、夜になるといっつも私を一人にするし、お父さんはいない。仲良く...。はるちゃんしか、いない。だから、もっとはるちゃんと遊んだ。裏山で、秘密基地も作ったし、鬼ごっこもかくれんぼも全部遊んだ。でも、はるちゃんは、最近別の子達と遊ぶようになった。


もう、約束、忘れているかな...。


明日聞いてみよう、と考えた計画は、家から帰ってきた時の母の一言で、呆気無く壊された。


「逃げるよ。」


その言葉通り、もうその日の夜には、逃げる準備は整って、誰にも言えず、そのまま逃げた。「でも、はるちゃんに...。」と精一杯の思いで呟いた私の声は、母の「五月蝿い!」で掻き消された。



そして、月日は流れ、夏。あれから高校生になった私は、ジュースを買いに、散歩がてらコンビニへと向かっていた。どうせ家は暑いだけだし、と思ったのもある。コンビニの入り口が、ウィーン、と自動で開き、私は久し振りの冷たい空気に頬を緩めてしまう。


その時、ドンッ、と誰かがぶつかってきた。いや、ぶつかった方は私だったのかもしれない。彼は、持っていたジュースを落としてしまい、「あちゃー...。」と呟いている。私は、「ごめんなさい!」と謝ると、彼が持っていたジュースを拾った。


「ごめんなさい!」

「ん、ああ、大丈夫、ジュースぐらい、なんてことないから。」


それにまだ買ってないから取り替え可能だしね、と少し悪戯っぽい笑みを浮かべた顔は...紛れも無く、はるちゃんだった。笑った顔が、眩しい。こんな所で、会えるだなんて。


「え、どうかした?」


そう聞かれ、はっと我に返った。いきなり顔を凝視するのは、いけなかったかもしれない。でも、確かめたいことや、話したいことがありすぎて、心が体を追い越してしまう。


「お、覚えてる...?」


ドキドキしながら、そう聞いた。心臓が、破裂しそうなぐらい五月蝿い。


「...え、知り合いでしたっけ?俺等。」


呆気にとられた様な顔で、そう聞くはるちゃんは、びっくりするほど大人びて見えた。その時、私は、あの時のはるちゃんはもういないことを悟った。私は、首を振ると「人違いだったみたいです。」と言って表情筋を駆使して、微笑むと、はるちゃんにジュースを渡してコンビニを出た。はるちゃんは、不思議そうに見ながら、「良かったらこれ...。」と気を利かせてジュースについていたストラップをくれたっきり、此方には構わなかった。


泣いた。思い切り、泣いた。もう、あの頃の約束を覚えている彼はいない。あの頃の、優しかった彼は、もう此処にはいないのだ。うわぁぁぁぁぁん、と、喉が枯れるまで泣き続けた。


そして、更に月日が流れ、一年後。私は、定期的に此処に来ていた。未練がましいのかもしれない。でも、此処に来ると、心が休まるのだ。私はそう思い、今は、もう叶える人がいない約束を交わした踏切の無い線路を、見た。


「...危ないわよ!!」


おばさん達の金切り声が聞こえ、ふ、と我に返った私の目に飛び込んできたのは、はるちゃんが電車の前にいる場面だった。はるちゃんの顔に、恐怖が刻まれている。


嫌だ、神様、あの人を助けてよ...!


さっ、と足が動いて、私ははるちゃんの方に飛び出すと、何時かはるちゃんがやってくれた様に、はるちゃんを庇った。


自分が死んでいることが分かった時、私は悲しくはならなかったけど、約束をまだ叶えていないことに対しては、罪悪感はあった。だから、はるちゃんが現れた時、一緒にずっといて欲しい、と思ったけれど、はるちゃんの意志も尊重したかった。


そう言えば、あのアニメのフィギュアのストラップは、現実に戻らせる作用があるらしい。その、自分が強く思っている相手に渡した場合に。そう教えてくれたのは、案内役の神様だったっけ。


「良かったのですか、あなた、帰れたのに。」


あれは、どういう意味だったのだろうか。相手のことを強く思っている人...。彼も、私のことを、思っていてくれていたのだろうか。


私は、泣きながら微笑むと、「約束、叶えれて、良かった。」と笑った。




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