8、あ、このギルマスはダメな奴だ
「嫌です」
「そこをなんとかぁぁぁぁぁ!」
現在、レインたちは冒険者ギルドの応接室に来ていた。応接室では冒険者ギルドでの最高権力者であるギルドマスターが待っていたのだ――――そして何故、その最高権力者がレインの目の前で必死に頼み込んでいるかと言うと……
◇一時間前◇
「よく来たね、君がレインか」
白髪があるが、筋肉がそれなりに備わっており見た目だけを見れば五十代とも見て取れる男性がソファに座っていた。
「あなたは?」
「儂はバート、この冒険者ギルドでマスターを務めておる。 今日、君を呼んだのは儂じゃよ」
「へえ、それで要件って?」
「まあ、立ち話もなんだ。 座りたまえ」
バートはレインとフランにソファを進める。二人ならば簡単に並んで座れるのだが……
「……フラン、なんでそこ?」
フランはレインの隣ではなく、レインの膝の上に座る。
「えっとね……こっちの方が、その……ぱぱの匂いが近くて安心するから……」
「え? なんて言った?」
フランは恥ずかしそうに頬を赤らめ、ぼそぼそっと呟くが、レインの耳には届かなかった。
「なんでもない……」
「? そうか」
「コホンッ、そろそろ……話に入りたいんだが?」
バートはわざとらしく咳払いをしてチラリとレインを真剣な眼差しで見る。
その表情を見たレインも真剣な表情となり、フランを膝に乗せたまま聞く態勢に入る。
「すまない、それで話とは……?」
「…………」
「……なるほど」
黙っているバートの視線の方角にはフランがいた。そこからレインは「(子供には話しにくいってことか……)」と考える――――
「……(羨ますィィィィィィィ! 何この獣人の女の子! 孫にしたい! 儂の膝にも乗ってほしいよォォォォォ!)」
そうでもなかった。
「フラン、少しロビーで待っていてくれるか?」
「……(なんで! なんでそんなこと言うの! 儂への嫌がらせか!? ま、まさか儂の邪な視線に気付いたというのか!?)」
レインは気を利かせたつもりなのだが、バートとしてはどうにかしてフランに部屋を出ていかないで欲しかった。
「……(野郎と二人で話すなんて苦行以外の何物でもないわ! フランちゃん可愛いから他の冒険者に襲われないか心配過ぎる……ちょっかい出した冒険者はギルマス権限でクビにしよう。それしかない)」
完全なる職権濫用である。
「……すぐ終わる?」
「ああ、すぐに終わらせるから、今度はどこにも行くなよ」
フランは不安そうに問いかけると、レインは安心させるように頭を撫でてやる。それをみたバートは――――
「……(このイケメン野郎! なんて羨ましいんだ畜生! あぁ、行かないでぇぇぇぇぇ! イケメン野郎と二人で仕事の話なんて嫌だぁぁぁぁぁぁ!)」
バートの心の叫びはもちろん届くわけもなく、非情に扉の閉まる音が部屋に響く。
「……それで、話とは」
「話は二つある……一つ目なんだが、君をギルドにスカウトしたいんだ。」
「理由を聞いても?」
「……君は昨日、ワイバーンの素材を持ってきたね」
「はい」
「あの素材は素晴らしい状態だった……長い仕事をしているがあんな死に方の魔物は見たことが無い。 そこから儂らは君が【空間魔法】を使ったのではないかと考えておる」
「……まあ、空間魔法は使えますね」
実際には杖の効果なのだが、種類としては空間魔法で間違いなくレイン自身も空間魔法は使えるため、あえて否定はしなかった。
「ここに八十万クリスタある、受け取ってくれ」
「……分かった」
レインは机に置かれた札束に手を伸ばす。もちろん、これを受け取ることは依頼を話を了承するのと同義だとレインは理解している。
「頼みたい仕事があるんだ」
「……なるほどな」
ギルドが依頼を頼めるのは冒険者登録をしてる者である、レインは登録していないのであくまでも一般人なのだ。どこにも所属していない一般人にはギルドは仕事を頼んではいけない。
「で、どうだ?」
「仕事の内容にもよるな」
「それもそうだな……単刀直入に言う。魔王討伐に協力してほしい。 こんなことを言われて驚「冒険者になる!!」即答!?」
レインは魔王と戦いたかったのだ、それが仕事になるなら願っても無い提案だった。
「それでもう一つの話ってなんだ? 早く登録したいんだが」
「……こっちの方が重要なんだ」
「……どんな話だ?」
「ああ、実は――――」
レインは息を呑んだ。魔王よりも大切な話、その情報だけで重大さが伝わってくる。しかしそれだけでは無く、バートの額から汗が流れている。
そして数秒の沈黙が流れると、バートの重い口が動く。
「フランちゃんの頭撫でたい」
「さて帰るか」




