7、そういえば、最強って誰?
「ぱぱ……っ!」
フランはレインの姿を見ると、飛びついた。レインはそれをキャッチすると優しく抱きしめる。
「全く……一人でどっかいくと心配するだろ?」
「ごめんなさいっ! ごめんなさいっ!」
「怒ってないから大丈夫だ、無事でよかった……」
泣きながら謝るフランを必死に宥めるレイン、しばらくしてフランが落ち着くとこんな質問をして来る。
「あの怖い人たちは……?」
「アイツらはな、少しお仕置き部屋に転移させといたんだ。」
「お仕置き部屋……?」
「じゃあ、さっさとここから出て宿屋を探そうか」
「うんっ♪」
フランはレインと手を繋ぐと、再び歩き出す。
「(繫殖期の雌オークがいる洞窟に転移したなんて……言える訳ないよな)」
マジホの地図アプリで都市の近くに雌オークの生命反応が多くあったのを覚えていたため、そこの座標に飛ばしたのだ。
その数か月後、オークの数が増えたとギルドに依頼が入ったのをレインはまだ知らない。
◇
「あの宿かな?」
「おおきいね!」
レインはローズに教えてもらった宿屋に向った。かなり繁盛しており、店員のサービスも良く、情報通がいる。という条件である。
レインには情報が必要だった。自分より強い存在と戦いたいということをまだ諦めていなかったのだ。そのため、最強の存在の情報が欲しかったのだ。
早速宿に入り、カウンターのいる顎鬚男性に話しかける。宿の中はかなり広く、一階は酒屋となっており二階からが部屋の様だった。
「あの、ここに泊まりたいんですが」
「食事込みで五千クリスタだぜ」
「はい」
「……ん? 白い髪に黒い魔術師のローブ……蒼髪で獣人の女の子」
「あの……なにか?」
「あんたひょっとして……レインか?」
突然名前を当てられ、咄嗟に警戒するレイン。すると店主は慌てた様子で両手を胸の高さまで上げた。
「ま、待ってくれ! ローズさんから言伝を預かってるんだよ!」
「……ローズさんから?」
「ああ、宿代もローズさんから受け取ってるから払わなくて大丈夫だ。 それで言伝だが『明日、ギルドマスターに会ってもらうから冒険者ギルドに来てほしい』って……」
「ギルドマスターに……? 何だろう?」
「それは俺も知らないから明日直接聞いてくれ」
もしかして何かトラブルを起こしただろうか、とレインは一瞬考えるがそれなら宿代を払ってくれる理由が無いのだ。
「ぱぱー、おなか減った」
「あ、そういえば色々あって何も食ってなかったな」
時刻はもう既に六時を回っており、空も暗くなっていた。
「じゃあ、ここで食ってけ、食事代も宿代に入ってるからな。 注文が決まったら呼びな」
「ありがとう、えーと……」
「ゲイルだ」
「わかった、ありがとうゲイル」
レインとフランはお互いに自分の好きなものを頼む。と、言ってもフランは森を出たことが無いのでお子様ランチとレインが決めたのだが……
そしてレインは食事が出来るまでの間、ゲイルから情報を引き出そうとする。
「なあ、ゲイル。 この世界で一番強いのは何だと思う?」
「あ? なんだそりゃ」
「純粋な疑問だ。 答えてくれ」
「んー、そうだな。 魔王と勇者ってところか?」
「魔王と勇者……」
「魔王は魔族の王、十五年ぐらい前に俺ら人族の聖女を誘拐して戦争になったんだよ。そしてそれを終結させたのが勇者。ただ話によると魔王を聖剣で倒したんだが聖女は死んでたらしくてな」
聖女とは『神に愛された人』とも呼ばれ、生まれ持って『女神の加護』を持っている。女神の加護を持っていればそれは女神を信仰している人々からしたら神の使者、と同じである。
加護の効果は〈光魔法・極〉を生まれつき覚えていたり、魔力量を一定時間だけ無限大にできたりするのだ。
光魔法を極めるなんてレベルを上げれば簡単だが、魔力量の無限化はまず不可能である。
更に加護はその血筋にも引き継がれるため、聖女にアプローチする男は少なくないのだ。貴族は女神の加護が血筋に入れば信仰者――――教会の権力を手に入れたのと同義であるため何とかして妻にしようとした。
――――これら全てはレインの元居た世界の知識なのだが、この世界でもそれは同じなのだと気付く。
「微妙に世界が似てるんだよな……」
「何か言ったか?」
「いや、なんでもない……しかし、魔王は死んでるのか」
「ああ、確か四十九代目魔王だったな。今は五十代目の魔王が行方を眩ましてるとか何とかで戦争の準備じゃないかって噂だぜ?」
「五十代目、魔王……」
「何でも真っ黒な羽を持ってる上に強力な光魔法を使って、更には強力な魔道具も持ってやがる」
魔道具、それは魔法の力が備わっているアイテムの事を指し、レインが使ってる武器もそうである。
強力な魔道具、強力な光魔法、漆黒の羽で空を飛べる。
その言葉を聞いて、レインは思った。
――――魔王なら、俺とまともに戦えるんじゃね?と……




