4、娘が出来て……幸せだ
レインはフランを背負いながら、街まで続く草原を歩いていた。
「(……今更気付いたけど、転移魔法使えばここまで一瞬だったな)」
何のために二時間歩いていたのか、全く分からない状況なのだがレイン自身も見慣れぬ地で歩く、という事が気に入っていたのかもしれない――――
「(盗賊とかに出くわしたら、そいつらから金を巻き上げる予定だったのに……残念だ)」
――――完全に金目当てだった。
そんなことを考えながら再び草原を歩き始める。草原と言っても道は整備されておりそこまで草も生えていない。そして目的地の街が見えてくるとその様子に驚くレイン。
街はどちらかと言うと都市の方が近く。かなりの高さがある壁があった、その壁は魔物などの襲撃に備えているのだろうか、壁の上には偵察している人族がいたのだ。
「あ、そういえば俺……この世界の身分証持ってないな……」
都市に入る直前でレインはそう口にする。普通、都市に入るのであれば怪しいものを入れないようにするため身分証の提示を求めるものだ。
レインも当然、身分証は持っているのだがもちろんそれらは元居た世界のもの、異世界で通用するわけが無いのだ。
「……ん?」
都市の門でレインは違和感を覚える。門番に身分証の提示を求められるかと思っていたのだが……
「身分証の提示しなくていいのか?」
「え? 身分証? そんなの貴族しか持ってねえだろ」
ここでレインは異世界での現実を知ることになる。そう、身分証が平民には存在しないという現実だ。元の世界では身分証は誰にでもあり、それを提示しない限り入国は出来ないのだ。
それは街に人化した魔物などの類を入れないためであり、街を保つための方法だった。
「もう聞きたいことは無いか?」
門番は面倒くさそうに問いかける。平民が身分証を持っていないのは一般常識のレベルなのでそれを知らないレインはよほどの田舎者だと思われたのだ。
「あー、じゃあ、この都市の特徴とか聞いてもいいか?」
「それも知らないのかよ……まあいい、この都市は【自由都市・フローライ】、この都市は他の国とは違って君主制じゃなくてだな、〈冒険者ギルド〉〈商人ギルド〉〈魔術協会〉の三組織が協力して成り立ってるんだ。 俺も兵士じゃなくて冒険者なんだよ。 今日は門番のバイト」
「なるほど、ありがとう。 これで大丈夫だ」
「おう、じゃあ……コホン、ようこそ! 自由都市・フローライへ! 我々は君を歓迎するよ!」
「……」
「……いや、これ言うのが決まりだからしょうがないじゃん。 言わないと俺が怒られるんだよ」
「お、おう。 すまん」
◇
都市に入るとそこは人が溢れかえっていた。あまりにも活気があり過ぎて、レインの背で寝ていたフランも目を覚まし、周りを見渡す。
「ぱぱ! 凄いよ! 人がいっぱい!」
「ああ、そうだな」
人の多い場所へ来るのは氷狼族で群れの中でしか生きてこなかったフランには辛いものではないだろうか、とレインは考えていたのだが、そんなものはフランの笑顔で吹き飛んだ。
「とりあえず、ワイバーンの素材でも売りに冒険者ギルドに行くか」
「うんっ♪」
フランがレインの背から降り、自らの足で歩く。そのことから、街を自分の足で歩きたいのだろうとすぐに推測するレイン。
「ぱぱー」
「ん? どうした?」
「手繋いで歩こっ!」
そこでレインの脳裏には昔の記憶が蘇る――――
――――手繋いで歩きましょ!
――――え? 私じゃないわ、彼(細マッチョ剣士)よ
――――うほっ、この写真はイイネ
――――もっと顔近付けてー!……近付けねぇとオメエの股間を寝てる間に爪楊枝で○○○
そしてレインは次の日、股間に治癒魔法を必死に掛けたのだった。
「(……あれから、俺は女性に反応しなくなったんだっけか)」
レインは遠い目をして、股間を抑える。
「ぱぱ、どうしたの?」
「ん? なんでもないよ」
しかし今は、幸せだ、と言えるレインだったのだ。




