2、魔物に名付けをしたら
「もふもふ、最高」
そんな寝言を呟きながらフランの毛皮を抱きしめようとする。
「んっ……」
「……ん?」
しかし抱きしめた時の感覚は柔らかいモフモフではなく、小さな抱き枕のようなもので、人肌並みに温かい。
「んぁ……」
「……?」
そして幼い女の子のような声が聞こえ、眼を開ける。するとそこには青い髪をした十歳ほどの少女がいた。頭には大きな犬耳(?)があり、非常に容姿は整っていた。
「……は?」
見覚えの無い少女、そして何故自分が少女を抱きしめているのか、フランは何処へ行ったのか、そして何より……
「何でこの子、服着てないの?」
裸、その一文字が頭の中に浮かび上がり、意識を覚醒させる。裸の女の子、それを抱きしめて寝ているレイン、この状況になれば何をすればいいか、そんなのは一つしかなかった。
「……よし、出来た」
メモアプリを見て、そう言うレイン。しかしレインは今、魔術師からロリコンにジョブチェンジするかもしれないという絶望的な状況に追い込まれていた。
【メモ】
ワタクシ、レインは未成年の少女に手を出しました。名前も知らない女の子とそのご家族の皆様、申し訳ございませんでした。ですが、ロリコンではありません、信じてください。
「ぱぱ、何が出来たの?」
「ああ、これから自首しなきゃいけないんだ。 だからその準備ね」
「ぱぱ、何したの?」
「ぱぱね、ロリコンになっちゃったんだよ」
「ロリコン?」
「ロリコンってい―――」
自然に話している最中に話している相手の正体に気付き、即座に土下座をするレイン。
「土下座まで0.8秒だったよ」
「0.5秒はいきたかったな」
「それでぱぱ、何で土下座してるの?」
「ワタクシはパパなんて呼ばれる筋合いはありません。 名前も知らない女の子に手を出した糞野郎です。 誠に申し訳ございませんでした」
思いつく限り、謝罪の言葉を繋げるレイン。
「ぱぱ、私、フランだよ?」
「……え?」
◇十分後◇
「まとめるとこんな感じか?」
【メモ】
・昨夜、名前を貰った瞬間、力がみなぎった。
・何か恩返し出来ないかと考えた。
・もし人間になれたら、と願った。
・結果、目覚めたらこの姿になっていた。
「うん、そうだよ」
「なるほど、信じられん―――が、これを見ちまったらな……」
【名前】フラン
【種族】氷狼族
【レベル】110
【スキルポイント】1095
【スキル】人化
【魔法適性】無魔法適性、水魔法適性
【魔法】無魔法・極、水魔法・極
【アドバイス】
魔物には名前とは特別なもので、次の効果が表れるんだお。
・名付け親の魔力を体内に刻む。その結果、名付け親のレベルに10%だけ近くなる。
・名付け親に忠誠を誓うぜ、これで君もロリコンマスター。
【人化】
5ポイント必要ですよ!そしてこのスキルは魔物限定です!
名前、種族、魔法適性、どれを見てもフランと一致しているのだ。レベルが上がりスキルポイントを5だけ消費し、人化を会得したのだろう、という結論にすぐに至るレインだが、それよりも重大なことがあった。
「……毛布が」
「?」
毛布の代わりとして扱っていたフランが人間の姿になり、扱えなくなったのだった……
「とりあえず、これでも着とけ」
そう言ってレインは【無属性魔法】の一種、【空間倉庫】から服を取り出す。
「ローブ?」
「昔死んだ仲間のだけどな。 女物がそれしかないから許してくれ。」
そう言いながら渡したのは蒼と白を基調としたローブだった。サイズはフランと近いため少し袖が余る程度で大丈夫だった。
「肌着は……面倒だし造るか」
「造れるの?」
「その辺の布を加工するんだよ」
【名前】レイン
【種族】人族
【レベル】1104
【スキルポイント】11033
【スキル】生産の心得、魔改造
【魔法適性】全魔法適性
【魔法】火魔法・極、水属性・極、風魔法・極、土魔法・極、光魔法・極、闇魔法・極、無魔法・極
【生産の心得】
裁縫、鍛冶、調合、料理がこれ一つにまとめられてたったの4ポイント!どうですか~お安いでしょう?さ・ら・に!生産する際、成功率が上がるんです!これは会得しかないですね~
【魔改造】
生産系のスキルなんだお!道具なんて無くても、魔力さえあれば加工でもなんでもできちゃうんです!凄いですね~。そしてたったの4ポイント!あら凄いわ~
「生産の心得と魔改造で8ポイントか、よし作ろ」
そして瞬く間に肌着を造り、フランに渡すレイン、そして念のために一式造り終えたのだった。
更に肌着だけでは寒そうだとレインは思い、ワンピースを造り手渡す。
「ぱぱありだとー♪」
「まあ、いいんだがな。 その代わりに聞かせてほしいことがある」
「なに?」
レインは真剣な表情でフランに話しかける。それはとても重要なことなのだとすぐに理解させる。そしてレインの口から出た言葉は―――
「……この世界で俺と対等に戦える奴……いるか?」
そう、それこそが異世界に来た目的、レベル概念が無い時点でいる訳が無いのだが、それでも聞かなくてはやっていけない気がしたのだ。その答えが絶望に突き落とすものになろうとも……
「二歳の私に聞かれても」
「ふぁっ」
しかしそれ以前にレインはフランの年齢を忘れていた……予想を遥かに超えて若かったことに驚きながら……




