12、ボクっ娘魔王の決意
――――アリア、お前は逃げろ!
(そんな、待って! お父様!)
――――お前は……本当にマリアに似ているよ。だから逃げなさい。
(嫌だ! 僕はお父様と戦う!)
――――産まれて来てくれて……ありがとう。
(嫌ーーーーーー!!)
◇
「んっ……こ、ここは」
「あっ、ぱぱー。起きたよー!」
「ん? ああ、起きたのか」
アリアが目を覚ますと初めに青い髪の獣人……フランの顔が目の前にあった。フランはアリアが目を覚ましたことをレインに報告すると、傍にいたレインが近付く。
アリアは上半身を起き上がらせ、周囲を確認する。するとそこは魔王城から少し離れて場所にある森だった。
そしてどこから取り出したのか地面にはカーペットが敷かれていた。
「ホットカーペットを敷いたからな……さて、体が冷えてるだろう。 話は飯の後だ。 コタツも温まってるよ」
「コタツって温かいね!」
森の中、ホットカーペットにコタツ。そしてプレートの上でぐつぐつしている鍋。ここには狂暴な魔物がいるので、傍から見たらただのバカだった。
「ぱぱー、それ取ってー」
「辛子はいるか?」
「辛いからいらなーい」
「まぁ、二歳だしな」
フランは大根と餅巾着を要求し、レインはそれを取る。アリアは無言でコタツに入り、星が輝いている空を見上げた。
そしてアリアは笑顔のまま、こう思った――――
――――ナニコレ。
「さて、アリアさん。 どれ食べる? この世界には無いみたいだけど、オデンって料理なんだ」
「とりあえずオススメください」
「はい、じゃあ熱いから気を付けて」
「あ、どうも」
アリアは息をフーフー、と吹きかけ、冷ましてから食べる。
「美味しいデスネ」
「薬味で辛子ってのもあるから、使ってみてくれ」
「この黄色いの? では、少し付けて……あっ、ピリッときて美味しい」
「本当か?よかったぁ、フランが苦手だったから、この美味しさが共有できなくてな」
◇三十分後
「って待てええええええええい!! なんで仲良くご飯食べてるの僕!?」
「そう言いつつも、完食だな」
「と、いうかここ! 狂暴な魔物がうじゃうじゃいる森なんですけど!? なんで普通に食事してるの!? そして美味しかったです!!」
「美味しかったなら良かった」
アリアは叫び終わって、息を切らしてハーっ、ハーっ、と息を整える。そして気分が落ち着くとホットカーペットの上に正座する。
「それで話って?」
「ん? ああ、じゃあ単刀直入に聞こうか……アリアさん、俺達と来る気はあるか?」
「……え?」
「あ、もちろん強制じゃないぞ? ただ……独りなら、と思ってな」
「独りなら」、その言葉はアリアの胸に深く突き刺さった。部下に裏切られ、命を狙われながらも逃げ続けた。それはいつだって独りだったのだ。
頼れる親友もいない。父もどうなったか分からない。そんな状況で残った僅かな希望、それがレインだった。
「……僕を、疑わないの?」
「? 疑うってどんなのだ?」
「僕……魔族だよ?」
その言葉でレインは胸を腕で隠す。そして「うん、昔とは違うから大丈夫……魔族、怖くない」と自らに暗示を掛けるように呟く。
「寝てる時に襲うかもしれないんだよ!?」
「大丈夫だ、再生できるから。それに……一人じゃ、寂しいからな!」
レインはそう言って笑いかける、しかしアリアは知っていた。レインの胸を抑えている手が震えてることを……
けれど、それ以上にアリアは悟った。
「(そっか……この人も僕が魔族だから怖いんだ。だけど……それ以上に独りが嫌なんだ。そうだよね……誰だって独りは嫌だ。僕だって――――)」
「まぁ、強制じゃないからな。そこを覚えてほしい」
「……行く」
「……え?」
「僕も、連れてってください!」
アリアはレインの手を強引に引き寄せてそう懇願する。その様子はレインにとって想定外な事だった。先程まで警戒していたのだから、断られるものだと思っていたのだ。
「そっか……じゃあ、とりあえず今日は帰ろう。宿屋も取ってるし」
「ぱぱー、帰る準備できた!」
「え? 帰るって? それに宿屋? ここ森なんですけど――――」
フランは二人が話している内に帰る準備を済ましておいたので、そのままレインは転移魔法を使った。
◇
宿屋で、レインとフランはもう既に寝ていた。アリアは一応女性という事で別の部屋を借りたのだ。(もちろんお金は無いのでレインが払った)
「よし……」
宿屋の個室で決意した表情になり、今日の出来事を日記にまとめた。
『今日、ヤバい奴に会いました。魔王を狙っているそうです。
僕、魔王。辞めたいです』
「ふぅ……」
パタン
日記を閉じて、ベットに寝転がる。そして――――
「魔王ってバレたら……死ぬわ。これ」




