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プロローグ

『ふふふ、見事だ……名も知らぬ魔術師よ』


 腕を切断され体中から真っ赤な血を流している白い鱗を身に纏った体長50メートルはあるドラゴンが自らをここまで追いやった人間を称賛する。このドラゴンは言ってしまえば世界最強だったドラゴンだ。


 しかし現在、その最強は打ち砕かれたのだ。


「……まだだ」


 そしてたった今、最強となった魔術師はそう答える。何がまだなのか、何に対してなのか、そしてドラゴンは分らなかった。何故、勝者がそんな『負け犬のような眼』をするのか、それは本来、自分のする眼ではないのか、そんなことを思考していると、魔術師は言葉を続ける。


「俺は……まだ、強くなりたい」

『ほう』


 ドラゴンは魔術師の言葉に関心の念を込めて相槌を打つ。そして違和感の正体に気付くとドラゴンは笑みをこぼす。


『ならば……異世界に向ってみてはどうだ』

「異世界……?」


 ドラゴンの提案に興味を持つ魔術師、それは異世界に向うという発想がまるでなかったことを容易に想像させた。


 その反応を見たドラゴンは更に話を続ける。


『異世界には異世界の最強がいる、その相手ならばお前も満足するかもしれんぞ?』

「……そうか。 だけどどうすればそんなところに……」


 ドラゴンの最強という言葉を聞いて、更に興味を持つ魔術師。

 しかし向かう方法が分からなければそれは興味ではなく妄想だ。


『その程度ならば、死にぞこないの儂でも出来るだろう。儂を殺した褒美に異世界に飛ばしてやろうか?』

「まだそんな力が残ってるのか……」

『それを言うならお主は、傷一つ受けてないではないか』


 ドラゴンは呆れたように魔術師の姿を見る。元は白かった髪は血の色で染まっているがそれは全てドラゴンの返り血であり、着ているローブは所々破れているが身体には何一つ傷がない。


「俺は魔術師だ、魔力があればどうとでもなる。 だが魔力が尽きればただの人だという事を忘れないでほしいな」

『それで残りはどのくらいなんだ?』

「あと四割ぐらい残ってる」

『めっちゃ残っとるやん、くそったれ』


 そんな会話をしながら、魔術師は『ステータス』を見る。ステータスとは簡単に言えば生物の強さを表すものだ。この世界には『レベル』というものが存在しており、他の生物を倒せば倒すほどレベルは上がっていく。


 レベルが上がればステータスも当然上がり、魔力量も当然増える。そしてこの男は最強のドラゴンを倒しても尚、四割余っているのだ。

 その言葉でドラゴンは『道理で勝てないわけだ』とため息を吐く。


『さて、異世界に飛ばすが構わんな?』

「ああ」

『二度と戻れないぞ?』

「ああ」

『そうか、じゃあ…………飛ばすぞ!』


 ドラゴンがそう言うと魔法が行使されたのか、魔術師の周りに魔法陣が開かれる。


『そうだ、最後に』

「ん?」

『お主、レベルはいくつじゃ?』

「ああ、最後だしそんぐらい教えてやるよ」


 魔術師は愉快そうに笑いながらこう答えた。


「俺の名前はレイン、レベルは――――1104だ」

『……は?』

「じゃあな!!」


 そう言うと、レインは最後に魔法を撃ってきた。それと同時にレインは異世界に飛ばされる。そして魔法を受けたドラゴンは傷が回復し、口が開いたままの何とも間抜けな顔をしてこう言った。

 レインが回復魔法を飛ばしたのはせめてものお礼だったのだろう。


『1104だとおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!?』


 世界最強と言われたドラゴン、そのレベルは500だとは誰も知らない。そしてそのドラゴンを倒した魔術師のレベルが倍近くだという事も、誰も知らない……



「ん……こ、ここは?」


 レインは周りを見渡す。どこを見渡しても草原が広がっており空には雲一つない……雲一つ……


「グガアアアアアアア!!」


 代わりに、飛竜いるけど……


「……ワイバーン」


 レインは蒼い鱗を見て即座にその正体に気付く。正体はワイバーンと呼ばれる亜竜の仲間である。ワイバーンの特徴は人が操ることが出来る唯一の飛竜、ということだ。強さはそれなりにあり、調教すれば少し危険だが言う事を聞かせることも出来るのだ。


「初戦闘はワイバーンか、異世界だから生態も少しは違うだろうし丁度いいかもな……」


 レインはそう思い、愛用していた杖を取り出す。するとワイバーンもレインの存在に気付いたのか急降下し爪での攻撃を仕掛けてきた。レインはそれを……


「……遅くね?」


 余裕で避ける。ワイバーンが明らかに弱く感じたレインは自分の戦闘の感覚を疑った。


「あれ? ワイバーンってこんなもんだっけ……?」


 ワイバーンが弱いのか、もしくは自分が戦闘し過ぎて感覚がマヒしているのか、そんなことを考えて一つの結論に辿り着いた。

―――攻撃すればいいじゃん、と


「よし……手始めに何の魔法をつか―――」

「ぐぎゃっ!?」

「……んっ?」


 レインは杖を構えた瞬間、ワイバーン氏、死亡。レインの杖は魔法付与が掛かっておりその効果は『構えた時、相手の動きを重力で鈍らせる』というものだ。しかしそれは微弱なもので、いくらレベルが1104だとしても死ぬのはレベルが二桁ぐらいの生物ぐらいなのだ。


 しかし目の前のワイバーンは地面に叩き潰され身体の器官がぐちゃぐちゃに潰されている状態なのだ……つまり。


「……レベル二桁?」


それしか考えられないのだ。重力魔法が使われているのはレインは感じなかったし、だからと言って明らかに重力魔法による攻撃だし、つまり結論はこのワイバーンが幼体でレベルが二桁だったこと……


「えええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 初戦闘が魔法を使わず終わる、それは魔術師のレインとしては悔しい体験だ。だから次こそは魔法を使おう、そう思うのだが……


「ぐぎゃぁ!?」

「グガッ!?」

グチャ(効果音)


「…………」


 杖を構えるだけでほとんどの魔物が絶命する、そんな現状に一つの結論に辿り着く。


「……この世界、もしかしてレベルの平均値が低い?」


 レインはその現実に絶望した。異世界ににきた理由は何だったのだろうか、最強と戦う、しかし現状を見るとその辺のゴブリンの方が強い気がする、と考えたレインだが、その時は気付いていなかった。





まさかレベルという概念そのものがないなんて―――

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