桜餅の約束
お題「タイトルに『桜』、
本文に『食洗機』の入る詩または小説」
甘くて、ちょっとしょっぱくて、いい香りがしておいしいの。これはあの子の分。
すてちゃダメよ、お母さん。これは、れもん君の分なの。
れもん君、桜餅食べたこと無いんだって。お母さんがきらいだから買わないんだって。
だからごちそうするの。私の名前のさくらと同じ桜餅。
れもん君は、なまえと同じレモンソーダを持って来るの。そして二人で食べるのよ。約束したの。
どうしてれもん君来ないのかなあ。あの子ぜったいに来る、って言ったのに。
やだ、すてないで。どうして?れもん君は来るのよ。ぜったい、って言ったもの……
泣き疲れた娘をベッドに寝かしつけて、私はため息をついた。れもん君は永遠に来ないのだ。何度言い聞かせても娘は理解しない。この頑固は誰に似たものか。
私はもう一度、くだんの桜餅を横目に、ため息をつく。
夫は、気が済むまで置いてやればいい、その内理解してくれるだろう、と暢気に言いやがるが、もう限界だ。もう一秒も我慢出来ない。リビングの隅で盛大な青カビのコロニーを培養し続ける事を、私は断じて許容しない。
ティッシュを重ねて、もはや鶯餅の色に染まったブツの皿を掴んだ。胞子が飛ばないようにソロソロと三角コーナーへブツを落とし込む。すぐに袋の口を締めた。処分は後にしよう。今はもう見たくない。
そうだ、アレはもう桜餅ではない物体だった。れもん君が約束を破ったのではない。桜餅が桜餅でなくなったのが悪いのだ。娘には、取り敢えずそう言おう。
皿には楕円形の青緑がべっとりとこびり付いていた。縁が白く盛り上がっていて、所々不気味に黄色い。私は吐き気を堪えながら、予洗いもせずにそれを食洗機へぶち込んだ。
700文字。所要時間約15分。
ぶっつけ本番一発勝負。推敲なし。
記念にそのままアップします〜
企画へ投稿した後で、腐った匂いの描写もするべきだった、と反省。そして、ラップかけるよね普通、とセルフツッコミ。
れもん君死亡説でも、アニメキャラまたはイマジナリーフレンド説でも読めるように曖昧にしましたが、今となってはなんかモヤモヤする。
推敲無しとは、かくも恐ろしい……(((;゜Д゜)))
カビの描写は、私らしからぬアッサリ風味です。
ひとさまのお宅(活報)なので珍しく自重しました(笑)