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今回は短いです。
「自分が生きていればそれでいい、と」
彼は何を言っているのだろう。死はつまり自分(自意識)の消失を意味するのではないのだろうか?
少なくとも俺はそう思っていたので、呆然とする。
「ああ、疑問でいっぱいという顔をしているのう。つまり! 肉体的に死んだとしても、自分の精神が生きていればいい。そういうことじゃ」
彼はいよいよ興奮してきて、最早テンションがおかしくなってきている。しかし、本人はそんなことにお構い無しで、この話の核心であろう部分を口から発する。
「そして、自分を自分だと認識する精神の鍵とはなにか……それは記憶じゃよ」
まるで、多くの聴衆の前で素晴らしい演説をする人のように彼は大きく手を広げる。
「記憶。それ即ち自身が生きた証を脳が記録したものなり。これ、自我の芽生えを意味する。そこでわしは、この研究をした」
「この研究? これは研究だというんですか」
人間を閉じ込めて、動物のように扱うこの行為が!?
その言葉を咄嗟に言おうとして飲み込む。
そうか……こんな気分なのか。
思い通りにならない苛立ち。自分がどうなるのか分からない不安。忍び寄る諦めの影。
そればかりが頭を回って、その後の彼の言葉もどこか遠いところのことのように感じられる。
「そう。人の脳波を調べ、記録する。最初の実験台は妻だった。健気で、優しい、良い妻だった。でも…………」
「話が長くなりすぎたね……そろそろ始めようか。ねえ、知ってるかい? 人は衝撃的なこと程脳に深く刻まれて、忘れないのだよ」
そこで言葉を切り、周囲の機械を操作する。閉じ込められた天井から鈍く光るものが下りてきている。
あれはなんだろう。でも、確実に俺に命の危機が迫っているのは理解できる。
やばいやばいやばい。
ここから逃げなきゃ。
こんなところで、終わるのは嫌だ。
「じゃあ、行ってらっしゃい。もし生まれ変わってわしのことを覚えていたら、是非殺しに来てくれたまえ。そうすれば分かるから、期待しているよ」
その言葉を最後に、俺の意識は途切れた。
ああ、人間はかくも呆気ない
これで、一章は終わりです。
二章も構想は出来ているので、なるべく早くあげていきたいと思います(汗)
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