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 あれから、三年が経ち、俺は高校生になった。自分で言うのもなんだが、野球部を引退してから勉強に熱心に取り組んだので、県内でもそこそこの公立高校に進学できた。


 中学校の間、長谷とは親友と言える様な仲にまでなり、野球部を辞めたあとも一緒に帰ったりしてたのに、高校はお互い違うところに進んだ。

 少し残念だが、しようがない。

 あいつの方が頭の出来がいいのは分かりきっていたことだ。


 それに、家もそう遠くはないから、会おうと思えばいくらでも会える。精一杯、自分の高校を楽しむまでだ。



 そうして始まった高校生活もあっという間に過ぎ、全国の高校生が悩む文理選択という人生の分かれ道に差し掛かっていた。


「なあ、お前はどうすんだ?」


 そう話しかけてきたのは、今たまたま隣の席になっている、同じ部活のやつだ。


 彼の名前は寺田(てらだ) 優羽人(ゆうと)という。

 家は昔からある由緒正しいお寺で、そこの長男だ。変わった名前をしているが、これには父親の「優しい羽で人々を包み込んでほしい」という願いが込められているそうだ。


 本人曰く、「父さんは俺を菩薩かなんかに、するつもりなんか? そんな大層な子供じゃねえよー」らしい。

 確かにこいつが菩薩だったら世の中おわってる。まあ、髪型だけはそれっぽいが。


 俺は考え事をやる時に癖になっている、頭に手を持っていくという行動をして、うーん、と唸る。

 中学の頃は入部条件に"約三年間坊主で過ごすことが出来る人"というのは無かったが、高校ではそれがあるため、上にやった手は小気味よい音をたてる。


「俺は、別に数学が得意ってわけじゃないけど、苦手でもないし、理系かな。生物とか好きだし」

「おっ、まじで! 俺もそうしようと思ってたんだー。一緒だな! 父さんも大学までは、自由にしていいって言ってくれたんだよ」

「そっか、そりゃあ良かったな! 文系理系でクラス分かれるから、来年も一緒のクラスになれるかもな」

「そしたらいいな!!」


 という風に勝手に昼休みの教室で盛り上がっていると、ほかの野球部のヤツらも、うちのクラスにやってきた。


「おい!! てめえらなに盛り上がってんだよ!」

「まだ、夏真っ盛りなのに暑苦しいぞー」

「「「そうだ、そうだ!!」」」

「しかも男二人でよぉ」

「全く、見てらんねえぜ」

「キャッチャーのプロテクターぐらいくっせえー」

「ああん! なんか文句あんのかよ?」


「はああ、うるせえなー。お前ら自分のクラス帰っとけ!!」


 俺がなにか言い返そうとすると、その前に隣にいたのが先に言ってくれた。ナイスYOU!!

 なので、急にやってきていきなり絡む方が暑苦しいわ!! と思ったが、口に出さないことにする。


 その間に、彼らはずかずかと教室に乗り込んできた。教卓の少し高くなっているところから来たので、統率の全然なっていない軍隊の行進のように、まばらな足音が響く。


 いち、にー、さん、よん、ごー、ろく、なな…………なな?! いや、やっぱお前らの方が暑苦しいだろ!


 七人は、俺らが喋っていた窓際の一番後ろの席まで来て、仁王立ちになる。しばらく謎の合間があり、男子高校生の聖域を侵すことを恐れたのか、蝉の声もパタリと止む。


「俺から時計回りな。いいか……せーの! 文」

「文」

「理」

「文」

「理」

「文」

「理」

「理」

「理」


 文系四人、理系五人、と俺は無意識に頭の中で計算していた。もちろん最後の二人が俺と優羽人だ。若干理系の方が多いな。やっぱり男子で数学が得意なのが多いからか、はたまた違う理由かは分からない。


「けっ、やっぱ理系の方が多いのか」

 と、指揮をとった一人目の奴が言う。

「あーあ、俺は文系だから優羽人とは来年も違うクラスかー」

「俺は可能性あるー、うぇーい」

「でも、理系の方がクラス数が多いから、上手くはいかないかもな!」

「ふん、負け惜しみか」

「なにー!!」


 どうやらこの文系か理系かの確認がしたくて、わざわざうちのクラスに来たらしい。別に部活の時でも良くないか? そこで気づく、みんな優羽人のことは気にしているが、俺のことは何も言ってないことに。


「なあ、おい。誰か俺と同じクラスになりたいってここに来た奴いないのか?」

 各々一喜一憂しているところ申し訳ないが、俺は問いかける。

「は?いねえよ」

「狙うほどではないよな」

「まあ、なったらなったで話すけどな」

 みんな顔を見合わせて、そう答える。俺のことをなんだと思ってんのか、という考えが頭に浮かぶと同時に肩が震えてきた。


「こんのーやろ…………俺の扱いひどいだろーーーーーーーー!!」


 思い切り叫ぶと、窓際の雀たちは驚いて、住宅街が広がる方の空に飛んでいった。


 ****


「はっ!!」

 目を開けると白い無機質な壁のようなものが見える。なんだろうと思うが、今の自分の姿勢は椅子に座ってうつ伏せになっているので、壁ではなく机だとすぐに判明する。


 もっと周りを確認しようと上体を起こすと、どこにいるのか思い出した。

 机と同じ色の壁、灰色のカーペットのようなものが敷かれた床、長方形の部屋の片側一面に並ぶ、難しいタイトルが書かれた本が並ぶ本棚が目に入る。


 ここは"千葉脳科学研究所"、俺の現在の職場だ。

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