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「で、お前はそれがすんげえどっかで見たことがある気がする、けど詳しくは覚えてない、ってこと?」

「そうなんだよなー、なんか知ってるようで知らないんだわ。不思議なこともあるもんだよな」


 同級生の予想は、運悪くも当たってしまい、他校に来てまで外周を走らされた。文句を言いつつも、最初は見慣れない景色に歓声をあげながら、初めての遠征を楽しんでいたのだが、段々とその元気も失われていってしまう。


 今は、十周ワンセットが終わって、休憩をしているところだ。

 みんな、蛇口にかぶりつきそうな勢いで水道の水を飲み、思い思いの壁に背中を持たれかけさている中、俺も最近仲良くなった長谷秀平(ながやしゅうへい)と並んで会話をしていた。



「ふーん、前にもあったような気がするか……。それって"デジャブ"ってやつじゃね?」

「はっ、メカブー?」

「バカ、お前それは海藻。デジャブだよ!! 日本語で言うと既視感。聞き間違いひどいなあ、じじいかよ」

「悪い悪い。で、それだ。えーと、そのデジャブってのはどういうやつなんだ?」

「初めて見る光景だったり、聞く音だったり、言う言葉だったりするはずなのに、前にもそんな事があったような気がするっていう現象のことだな」

「だから日本語では、既視感って訳か」

「そゆこと、ただ人によって回数や頻度に個人差はあるし、あくまでも気がするっていうだけだ。どうして起こるのかも仮説はあれど、詳しいことはなーんにも分かんないらしいけどな」


 彼は、手を肩の高さまで持ち上げて、さっぱりという様な動きをする。でも、そこまで知っているなんてさすが物知りだな、と俺は思った。

 前期期末テスト部内一位は伊達じゃない。



 聞いた感じだだと、誰にでも起こるもので、大して驚くほどのことでもないらしい。ただ俺にとってはそれが初めてで、少しばかり動揺してしまった。


 しかし、同時に何かそれとは違うような気もする。

 だって、俺はあの看板がボロくなっていて、今にも蜘蛛の巣が作られそうなのを見て、"古くなったな"と感じたからだ。

 これはとても奇妙なことではないのか、前にまだ新しい時代のを見ていないとその感想は出てこない。


 つまり、変化前の状態の記憶がなければ、変化後の異変に気づけないということだ。





 "俺には変化前の記憶、つまりもっと昔の時代の記憶があるのか?"





 そのような通常では考えられない恐ろしいことが、頭に浮かんでいた。俺は気分を変えようと立ち上がると、ちょうど休憩の終了を告げる顧問の無慈悲な宣言が、グラウンドから離れた、コンクリートの床のこの地点まで聞こえてくる。


「はあ~、休憩終わりか。もうワンセットやるの辛いわ」


 隣の人物もそう言って立ち上がって、お尻についた石粒を払って落とす。


「さらに悪いことにそれが終わったら、体幹と筋トレだしな」

「うへぇー。俺らはいつもと違う慣れない場所で、トレーニングするために、わざわざ交通費払ってきたんじゃないって。せめて少しはやらせてくれよ!!」

「俺もそう思うよ」


 会話をしながら、二人で、さっきと同じスタート地点へ歩いていくが、足の進むスピードは沼地を歩いているみたいに遅い。

 それが、先程の疲れのせいだけではないことは、俺たちの様子から言うまでもないだろう。


 進むにつれて、同級生達がどんどんと他の方面からも集まっているのが見えるが、少し様子がおかしい。みんなが団子のように、ぎゅっと中心に固まっている。


「おーい、お前らも早くこいよ!!」


 その中の一人がこちらに気付いて、手を振ってくる。その顔には、驚きと嬉しさが半分ずつに入り混じっていた。


「あいつなんで笑顔なんだ?」

「さあね? とりあえず行ってみよっか」


 そうして仕方なく走っていくと、短い時間だが本番形式の試合が出来るらしいと分かることになる。次の十周はみんなが最高タイムをたたき出したのだった。

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