【第5小節】 「五月雨式」
彼女の手はふにふにとやわらかい
梅雨 蒸し暑いような
豪雨と裏腹に学校内は湿気で包まれる
授業もそっちのけでしゃべり続けた
「それでさ」
「うん」
暑い空気が雨により巻き起こる風で
一瞬違うさわやかな空気になる
「あはは」
「次のシーンでは・・・」
誰も注意する人なんていなかった
話した内容はもっぱらアニメの話
ロボットにのる主人公の女の子が
どうしてああなのかとか
ヒロインの男の話とか
昨日ああ戦ったとか
それから何もしゃべることがなくて
前の席の奴と隣の席のやつも入れて
しゃべった
「何話してるの?」
「アニメの話だよ」
「なになに?」
「教えて教えて」
男の話なんて聞きたくはないかも
しれないけれど彼女はかわいいし
女の子としゃべれるっていうのだけで
男はテンションがあがって話に入ってくる
みんな顔が微笑んで夢や希望が満ちたかのように好意的
誰も注意しない
先生は別のことに夢中だったり
俺らのういういしさを
温かく見守っているようだった
そんなのがずっと続いた
むしろずっと続けばいいと思った
物事が長くだらだらと続いた
でもそれは一辺のような感じでもある
春がやってきて梅雨がやってくるように
夏の暑さがあれば冬の寒さがあるように
続かない そんなに現実は甘くはなかった
ある日、彼女と反対の隣の席の奴としゃべってて
誰かが俺の肩に後ろから触れた 俺は いつもいる
友達の手だと思ってつかんで引っ張った
グッと
そのままその手の主は俺にベタッと
俺は首を絞められるか
プロレス技で首を絞めて地面にたたき落とすような技のラリアットされるかと思って
身構えようとしたけれど
俺の身体は雨でジメジメしているのに
するすると手はやわらかくて
何度も味わいたいすべすべした感触が
俺の手が離さなかった
隣の席の奴が目をまるくして俺の後ろをみる
そしてニヤニヤ
「?」
わけがわからなかった俺は
後ろをみると
彼女だった
俺の背中にベッタリと彼女のしなやかな身体の感触が
背中にのこったままはがしたけれど
つかんだ手が離せないまま
彼女も驚いてなんていうかよくわからない表情の顔をしていた
見たことない顔だった
振りほどきたいのに振りほどけない俺の手と
もう一回くっついてほしい俺の背中
そして冷やかす周囲の声
いてもたってもいられず
俺はトイレに逃げ込んだ
あまたをかかえる俺と
口元がにやける俺を
落ち着かせて
チャイムがなって教室に戻ると
騒いでた友達は 何も見なかった装いに
ニヤニヤしつづける隣の席の奴
「なんだよ」
「別に」(ニヤニヤ)
ちらっとわき目に彼女を見ると下を向いてお勉強
なにか話そうかと思ったけれど
声をかけられなかった
それから席替え
きまずいまま
彼女の隣の席はほかの男へ
俺の次のとなりの席のやつは男
つぎの奴をにらみつけると
目が合って背けられた
五月晴れ
初夏、蝉がミンミン鳴く
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【補足】
蝉・・・オス成虫の腹腔内には音を出す発音筋と発音膜、音を大きくする共鳴室、腹弁などの発音器官が発達し、鳴いてメスを呼ぶ。
鳴くとメスが寄ってくる