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かがやく星の下で  作者: ナツメアミ(夏目あみ)
19/25

【第19小節】 師走の天骨盛り

師走の柴門疎竹さいもんそちくところ





挿絵(By みてみん)


好きだった彼女が徐々にいなくなって

ある日忽然こつぜんと引っ越しをした

いなくなった実感がない俺の日常はこれから続いていく

のかと思っていた




自宅の固定電話がなった

俺は彼女だと思って

受話器をとった

中学一年生のはじめての冬に俺の夏は終わり

自宅で隠居生活をしていた俺は

震えそうな手で受話器をとった

「もしもし」おれは息をのんで言った

はっちゃんですか?

もしかして俺の好きなはっちゃんですか?

俺の隠居生活に対する惰性は捨てられ

生命の息吹を吹き返そうとしていた

「・・甘さん」

その声は

サッカー部のあいつだった

はっちゃんではなかった

俺は雲の上から地面にたたきつけられた気持ちになった

「なに」

冷たく言い放つ

俺の期待を返せと言わんばかりの返事をした


珍しいというか初めて電話をかけてきた相手が

サッカー部のあいつだった。男。

その衝撃的な失墜に追い打ちをかける経歴が積み重なった

「なんの用?」と聞くと

「いや、」

はっきりしない態度に余計にイラついた

「どうしたの?」

俺は強い声で聞いた

「はっちゃんと付き合ってるの?」

誰もかれもが俺にこの質問を投げかける

いったいなぜだ?疑問に思いながらも答えた

「付き合ってない」

サッカー部のあいつにはっちゃんのことを話すのは非常に不快だった

なにせ恋敵でもあろうかというサッカー部のモテ男。

モテ男がこの無様な引っ越されたこの俺になんのようがあるっていうんだ


しかしサッカー部のあいつは「そう」とひとこと言った。

俺は彼女いるけどな、とか言われるかと思った。が

そんなことをいうやつではやっぱりないんだなと思った。


はっちゃん、彼女は引っ越してしまってもういない

俺はこんなにも脳裏に思い出してまだ未練があるというのだろうか

引っ越していないんだから付き合っててもつらいだけだと

思った


それでもサッカー部のあいつは好きだというのだろうか

あいつはそういうやつかもしれない。俺は彼女と別につきあってないけれど

サッカー部のあいつに取られてしまうのではないか?と考えて不安な気持ちになった

しかしサッカー部のあいつに自分のプライドが許さず聞けなかった

すべての憶測を込めて三文字で聞いた「なんで?」と

遠距離恋愛でもするつもりだろうか

ーうまくいかないークラスの女子から言われた言葉が

俺に刺さったまま抜けない

もし言われなかったら気にもしなかったかもしれない


「誕生日プレゼントもらったんだろ?」

「・・・?もらったけど」

なんだなんで知っているんだ?もしかして

「気づけよ」

「なにが」

「ああもう!」

「・・・・」黙る俺。

「まあいいや、俺に関係ないし

それよりさ。おまえサッカー部に入れば?」

「俺が?」

「そう」

「なにもしたくないし帰宅部でいいわ。興味ない」

「・・・わかった、じゃあな」

サッカー部のあいつは俺の返事を待たず電話を切った

いったいなんだったのかわからない

おれは固定電話の受話器をガチャン!と音を立てて置いた

引っ越した彼女に告白でもするつもりか?と

聞けずに悩んだり考えなかったりした



それから一かいっかげつ、俺は

朝起きて学校に行って授業を受けて

マンガを読んだり勉強したりして寝るの繰り返しをした


デコにまた遊ぼうとか誘われたけど

女子いるならいかないって断り続けた


俺はサッカー部のあいつと

はっちゃんに踏み続けられている気分だった


そして冬休みがやってきた



世間はクリスマスだとかクリスマスイブだとか

いう日だった

もちろん俺には関係ないから家にいた

夜までまた何もない時間がすぎていた


俺は風邪をひいてなおりかけで

まだ横になっていたかった

咳が出る

デコの遊びもクリスマスパーティーも断った

でも寝込んでいる俺を母親は呼んだ

「女の子から電話よ」

「誰」

「自分ででなさいよ」

「・・・あーもしもし」

「私」

「・・・!?」

誰の声だかわからない

「誰」

彼女は自分の名前を名乗った

そうこんな声だった

こんな声だった・・・!!

と記憶がよみがえる


電話の主は 彼女だった


無意識のうちに覚えていた彼女の声が

俺の脳裏から思い出されて心臓が高鳴った





【補足】

師走しわす・・・12月下旬から2月上旬ごろを指す

柴門疎竹さいもんそちく・・・山の竹や林の中で隠居生活を送っているの意

ところ・・・処・・・所


http://22182.mitemin.net/i263034/

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