【第16小節】 口下手な俺に刺さる彼女のテクニック
体育祭が終わってから
音楽祭が始まる
彼女は遠くへ引っ越すけれど
俺は直接言われていないし
見送れなかった
ある日突然いなくなるというより
学校もちょこちょこ来なくなって
いなくなるのになれていく
デコに落ち込んでるの?って聞かれたけど
俺は「別に」とかいいつつ
落ち込んでいたのもわからないくらい落ち込んでいたのだと思う
休み時間遊びもせずに
机にふさぎ込んで
木の机に死ねという文字を丹念に書いていた
俺のシャーペンの芯は折れるまえに
シャーペンが割れた
消しゴムが床におちる
「はあ」ため息がでる
コロコロ....
「甘さん、落ちたよ」
女子が消しゴムを拾った
「ん、うん」
それはとなりの中学の女子とつきあっていて
別れたばかりの女子だった
俺が消しゴムを受け取ろうとしたら
女子が俺の手を握った
「・・・?!」
「つらいと思うけど、そのうち忘れるよ」
「・・・」
忘れる?
忘れたら楽だよなと思ったし
いつか忘れちゃうのかなと思った
「私も小学校からつきあってた彼氏がいたんだけど」
「知ってる、みんな知ってるよ」
「そう、でも向こうには好きな人ができちゃってさ」
「そっか」
なんて話した
放課後になって
またその女子に話しかけらてた
「一緒に帰らない?」
「いいけど」
いつものコンクリートの地面の上をいつもよりゆっくり歩いた
はっちゃんといっしょに登下校したのなんて
1、2回ぐらいだなとか思ったけれど
じわりと思い出して
下を向く
「別々になったらやっぱりうまくいかないって
実感したんだ」
「え」
「つきあうって一緒にいないと
難しいよ」
「うーん、いや俺は付き合ってるとかそういうのじゃ」
「付き合ってないの?!」
彼女が驚いて言った
「え、まあ」
一瞬空気が止まる
なんか変なことでもいっただろうか
「わ、・・・」
「?」
「私たち付き合わない?」
「え?」
「ほら、いなくなったら
さみしいじゃない?」
「え・・・」
「私、甘さんのこと好きだし」
「.....」
俺は彼女に手を握られ抱きつかれる
突き放そうとするものの
女の子のぬくもりをはじめて感じた
俺はどうしていいのかわからなかったが
これがあの彼女だったらいいのにと思った瞬間
俺は両腕で目の前にいる彼女を抱きしめそうになって
肩をつかんで
突き放した
下を向いて
「ごめん」
と断った
なにかが俺を止めた
彼女はどんな顔をしていたかわからないけれど
俺の肩の腕を振り払って後ろを向いた
彼女は走って家に帰ってしまった
好きだと言われると好きになってしまう
子どもの俺がいた
彼女はもう引っ越して会うこともないし
OKしてしまえばよかったんじゃないかと思った
なんであんなに女の子ってやわらかいんだろう
未知の世界への好奇心がそそった
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