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第9話:瞳のきれいな山賊達

「いやー。勇者が活躍した後というのはこんなにも壮観なのだな」

「そうだね。目が腐るほどにね」


 俺は山賊達が突き刺さった山を遠目に見つめながら目の光を失い、ティーナに向かって返事を返す。

 我ながらなんだこの状況。敵を吹っ飛ばして山に突き刺すのが勇者のすることか? いや違う。断じて違う。


「まあみっちゃんの場合勇者っていうか普通に“ヤベー奴”だが」

「言い返せない! 言い返せないけどお前には言われたくねぇ!」


 露出狂にヤベー奴扱いされたらおしまいだろ。いや否定はできないけどね。人を山肌に突き刺してるんだから。


『勇者様。この度はありがとうございます。この街の町長ですじゃ』

「あっああ。街のみんなは無事なのかな」


 俺は話しかけてきた町長に対し返事を返す。町長は歳のせいかぷるぷると震えながら街の中央広場を指差した。


『建物はいくつか焼失しておりますが、ご覧の通り住人は皆無事ですじゃ。これも勇者様のおかげですじゃ』

「い、いやいや。当然のことをしただけっすよ」


 俺はぶんぶんと両手を左右に振りながら町長の言葉を否定する。何せ助けた理由は“好きなゲームの街を守りたい”だからな。全然えばれる理由じゃねえ。


『さすが勇者様奥ゆかしい……そういえば知り合いの村長から手紙を預かっておりますですじゃ』


 町長は震える手で一通の手紙を俺に渡す。俺がその手紙を開封するとリアは背中に乗っかりながら覗き込んできた。


「おっ。これ最初の村の村長さんからじゃん。なになに?」

「引っ付くなっての! えーっと、なになに? “勇者様その節はありがとうございました。モンスターたちはあれからキラキラとした瞳で慈善活動に邁進し、すっかり浄化された様子です”だって!?」

「いやー良かったにぇ」

「良かったかなぁ!? 慈善活動するオーク俺めっちゃ怖いんだけど!」


 あの巨体でゴミ拾いとかしてるんだろうか。あ、ちょっと可愛いかも。


「怖いというのは偏見だぞみっちゃん。モンスターだって慈善活動くらいするさ」

「いや、まあいいんだけどさ。俺殺されかけてたんですけど……」

「まあ過去の事は水に流そうや! なっ!」


 リアは俺に乗ったままにーっと笑ってみせる。俺はモンスターをけしかけられたことを思い出しながら声を荒げた。


「そうだけどモンスターけしかけたお前が言う資格ねぇからな!?」

「まあまあ。良いじゃないか。あの山賊達も明日には慈善活動に勤しむことだろう」


 ティーナは腰元に手を置きながら山賊の突き刺さった山を見上げる。

 俺は大粒の汗を額に流した。


「斧背負って毛皮かぶった山賊が大挙して慈善活動してたらそれはそれで怖くないか?」

「それも偏見だぞみっちゃん。山賊だって慈善活動したいんだ」

「それもう山賊じゃねえだろ……なんか浄化という名の洗脳をしてるみたいで悪い気がしてきたな」


 俺は両手で頭を抱えて腰元のハリセンを横目で見つめる。モンスターですら浄化しちまうこいつの存在が恐ろしくなってきたよ。


「でも、浄化しなきゃ街の人に被害が出てたかもよ? だから、ミッチーは正しかったんだよ」

「リア……そう、だな。そうだよな」


 リアは背中に乗った状態のまま近距離で優しく微笑む。普段と違うその大人びた表情に何かを感じた俺は咄嗟に目を逸らし、リアは頭に疑問符を浮かべた。


「ティーナムーブ」

「こわっ!? いきなり引っ付くなよ!」


 ティーナはいきなりスライド移動し、俺にぴたっとくっつく。どういう動きしてんだコラ。せめて人間の動きをしろ。


「なんとなく引っ付きたくなったのでな。何なら脱ぐかね?」

「脱ぐな!」


 俺は間髪入れずに返事を返し、ティーナはつまらなそうに口を尖らせる。

 脱がせんぞ。街の人々の目を潰すわけにはいかんのだ。


『とりあえず今宵の宿は取ってあります。どうぞごゆるりとお過ごしくださいですじゃ』

「あっ、そ、そうなんすか。ありがとうございます」


 俺は町長に頭を下げ、紹介された宿を見上げる。

 レンガ造りの宿は清潔な雰囲気と柔らかな空気を纏っており、昨晩のボロ宿とは大違いだ。


「おおーっ。これはゆっくり休めそうだねミッチー! 次の街に向かって英気を養わなくっちゃ!」

「ふむ。そういえば次の街はどんなところなんだ?」


 リアとティーナは俺に引っ付いた状態のまま言葉を紡いでくる。そろそろ離れてほしいんだが、さすがに今日は疲れた。その体力も残ってねぇ。


「次の街は魔法都市マジシャンズだな。魔法の開発が盛んな巨大都市だよ」


 俺は白い石畳を基調とした美しい街並みを思い出しながらうっとりと目を細める。あの街のグラフィック一番好きなんだよなぁ。行くのすげぇ楽しみ。


「よっしゃ。じゃあそのマチジャンズに行くためにまずは休もう! そして宴会だ!」

「言ってること矛盾してない!? しかもマジシャンズだし!」

「えんかいだー」

「乗り気!?」


 おーっと右手を上げているティーナを驚愕の表情で見る俺。意外と宴会好きなのかな?未だにキャラがつかめねぇぜ。

 なお、この後酔ったリアに絡まれた俺がさらに疲労を蓄積させ、マジシャンズどころではなくなるのは言うまでもない。

 こうして平和なはずの街で過ごす第一夜は、酒とつまみによって蹂躙されるのだった。


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