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第8話:露出戦車の快進撃

「やっとスノーボゥルから出発できたな……なんだか物凄く濃い一日だったぜ」


 スノーボゥルを旅立った俺たちは次の街に向かって歩みを進める。

 街道には爽やかな風が吹き、俺の短い髪を優しく撫でる。それは本来のこの世界の姿であり、ほんの少しだけ心落ち着かせることができた。

 できたが―――


「いかん。発作がきた。みっちゃんちょっと露出していい?」

「酒飲ませろーい!」

「雰囲気台無しかお前ら! この平原の爽やかな風をちょっとは感じろ!」


 俺はハリセンでぽこぽこっと二人の頭を叩き、欲望まみれの心が少しでも浄化されることを願う。

 しかし二人は間髪入れずに反論してきた。


「平原の風より露出だろう」

「風じゃ酔えないじゃん」

「あ、そうですね。もういいです」


 俺は死んだ目をしながら二人へと返事を返す。ダメだこいつら。言ったところでどうにもならん。


「その光を失った目もなかなかそそるな。私のコートの中に入らないか?」

「どういうお誘い!? ていうかそれ目が潰れるだろ!」


 何故かわからんがこいつの裸体は眩い光を放つ。そんなもん近距離で見たら目が潰れるわ。


「しょうがないなー。じゃあお姉さんと一緒に飲む?」

「だから飲まねーって! グラス用意すんのやめろ!」


 既に二人分のグラスを手にしていたリアにツッコミを入れる俺。リアは「ちぇー」と口を尖らせながらコップをしまった。


「ところでみっちゃん。次の街はどんなところなんだ? 露出できる?」

「できねぇよ! てか露出できる街ってなんだよ!」

「そっか。ミッチーはこのゲームクリアしてるんだからマップとか全部知ってるもんね」


 リアはポンっと両手を合わせ、こくこくと頷く。その言葉に俺はほんの少しの優越感を感じた。


「ふっ、まあな。ランハーの世界で俺にわからないことはない」

「「おおーっ! 頼れる!」」


 二人から同時に拍手を送られる俺。よせやい照れるじゃねぇか。


「ちなみに次の街は平和の街ピースラッカーだな。立地条件や収めている国の関係上モンスターや隣国の脅威が全くない平和な街だぜ」

「なるほど。その平和な街に私の全裸で一石を投じろということだな」

「どういう解釈してんの!? 平和なんだから平和にいこうぜ!」


 いかん。自分でも何言ってんだかわからなくなってきた。とにかくこいつの露出だけは止めさせよう。住人の視力を守るために。


「あのさーミッチー。ピースラッカーってこの街道の先にあるんだよね?」

「ん? ああそうだぞ。もうすぐ見えてくるはずだ」


 赤い屋根の家々が連なり中央の時計塔と美しい噴水が特徴の街だ。今からそれを生で見られると思うと楽しみだぜ。


「燃えてるよ。その街」

「そうそう。赤い屋根が炎によってより赤くなって―――ダニィィイイイ!?」


リアの指さした先を見ると、確かに盛大に街が燃えている。てかなんだよこの世界。街は燃えてなくちゃいけない法律でもあんのか? 平和な街は存在しないの?


「なかなか情熱的な街じゃないか」

「情熱的すぎて燃焼してるじゃねーか! とにかく行くぞ!」

「おー。ミッチー早いねぇ」

「せっかちさん」


 俺は二人が追いかけてきているかの確認もせずにピースラッカーの街に向かって走り出す。嘘だ。そんな。あの美しい街が燃えているなんて許されない。


「も、燃えてる。こんがり燃えてる」

「ありゃー。こりゃ完全に侵略されてるねぇ」


 俺に追いついたリアは右手を目の上にかざしながら街の様子を冷静に分析する。確かに街の中には山賊らしき男たちが侵略し、家々に火を放っている。この様子では略奪も行われているだろう。


「どうするみっちゃん。助けるかね?」


 後からやってきたティーナは綺麗な青い瞳でじっと俺を見つめる。俺は曲げた人差し指を顎に当てて考えた。

 落ち着け。バグっててもここは大好きなランハーの世界なんだ。とにかくこの街の人たちを放っておくわけにはいかねぇ。しかし俺のハリセン一つであの山賊全員を退治することはかなり難しいだろう。だからといってこのままでは被害が広がる一方だろう。

 なら―――答えは一つしかない。


「わりぃ。ここで旅は終わりになっちまうかもしれねぇけど―――二人はスノーボゥルまで逃げてくれ」


 俺は腰元のハリセンを抜きながら二人の方を見ないようにして言葉を送る。そんな俺の言葉を聞いたティーナは嬉しそうに目の前へと歩み出してきた。


「その言葉が聞きたかった! 私も力を貸すぞみっちゃん!」

「話聞いてた!? 危ないから戻ってろって!」


 少なくともスノーボゥルからここまでの街道は平和だったし、戻るのはそう難しくないだろう。こんな危険な戦いに巻き込むわけにもいかねぇ。


「ふっ。私を露出だけの女だと思ってるんじゃないかね?」

「違うのか?」

「違うの?」

「ちがーう! 私には絶対防御のチカラがあるのだ!」


 同時に返事を返した俺とリアに向かって噛みつくように口を開くティーナ。絶対防御って……一体どういうこった?


「実際見てもらった方が早いだろう。そこにいたまえ」

「あっおい!?」


 ティーナは突然走り出し、ピースラッカーを襲っている山賊の元へと近づいていく。あの馬鹿! 丸腰で近づくなんて死ぬ気か!?

 俺は急いでティーナの後を追いかけるが、それよりもティーナが山賊に話しかける時間の方が早かった。


「やいやいやいそこの山賊! かかってくるがいい!」

『ああっ!? なんだぁてめぇ! 引っ込んでろ!』


 おっしゃる通りだ……いや、今は山賊に感情移入している場合じゃねえ。とにかくティーナを守らなければ。


「ティーナ……!」


 弓を構えた山賊を見た俺は山賊とティーナの間に割って入ろうと駆け出すが、それよりも早く矢がティーナに向かって放たれる。

 ティーナの心臓に進んでいく矢を体で受けようとするが、間に合わない。俺は頭の中が真っ白になって思わず叫んだ。


「ティーナぁあああああ!」

「呼んだかみっちゃん」

「へっ?」


 ティーナが生きている。ていうか矢が刺さってない。ティーナの足元には折れた矢が一本落ちているだけだ。


『なっなんだてめぇ。これでもくらえ!』

「やめっ―――!?」


 俺の制止を聞くはずもなく、山賊は二本目の矢を放つ。しかし放たれた矢はティーナのコートに弾かれ、まるで鋼鉄にぶつかったような音を立てた後へし折れた。


「効かんな。私のコートは絶対防御だ」

「どういう設定!? 元々ただのコートだよねそれ!?」

「露出を繰り返していたらこうなった」

「いやそうはならねーだろ! どういうシステムだよ!」


 その辺の鎧より防御力あるんじゃないのか? もう何がなんだか俺にはわからん。


「それよりチャンスだみっちゃん! 今のうちに山賊を倒せ!」

「おっ!? お、おう!」

『ああ? なんだてめぇ。こんなひょろっちい奴に俺が負けるわけ―――』

「とりあえずお前体くせーんだよ!」

『びゃああああああ!?』


 俺はハリセンの力をフルに発揮し、近くの街に山賊を突き刺す。これであいつも心を入れ替えてくれればいいんだが。

 いや、それよりも今はティーナの防御力だ。


「一体何がどうなってんだ? 元々厚着してたから防御値がクソ高いとか言うんじゃないだろうな」

「あー、なるほど。それだな」

「それなの!? 俺もうこのゲームよくわかんねぇ!」


 しかしまぁ、理由として考えられるのはそれくらいだろう。恋愛ゲームからロールプレイングゲームにバグる際に厚着していた分が防御値として変換されたのかもしれない。

 もしくは、露出をしたい気持ちと露出を許したくないシステムとの間でさらにバグが生じたか―――まあ、なんにせよ。


「とにかくこれはチャンスだよミッチー! このパターンで山賊倒しちゃお!」

「ええええ……マジすか」


 ヒロインを盾にして敵を倒す勇者とか聞いたことないんですけど。


「大丈夫安心して! 台車持ってきたからこれで移動しよう!」

「なんで台車!? 俺は絶対乗らんからな!」


 どこからか持ってきた台車の取っ手を掴んでぐっと親指を立てるリア。しかしティーナはいつのまにかその台車の先頭部分に乗り込んでいた。


「よし! 行くぞみっちゃん! 山賊退治だ!」

「やる気まんまん!? ああもう、しょうがねえな!」


 攻撃力がなきゃリアにも危険が及ぶかもしれねぇ。ここは乗り込むしか道はねぇか。


「よぉし! 山賊退治にレッツゴー!」

「おー!」

「お、おー……」


 こうして“露出戦車”と化した俺たちは街中を爆走して山賊たちを吹き飛ばし、近くの山を山賊達の墓標にすることになる。

 途中リアは酒を手から発射して山賊どころか住人の目つぶしまでしていたが、それは見なかったことにする。

 こうして全ての山賊を山に突き刺した頃、周りはすっかり夜の帳が降りていた。

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