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第68話:チカラ

「マリー! ティーナの回復が済んだら陣形を組むぞ! こいつは多分……やばい!」


 俺の本能が目の前の魔王に対して危険信号を鳴らしている。防御に関しては鉄壁であるティーナを吹っ飛ばした事もそうだが、何より攻撃に迷いも慈悲もない。

 そうだ。こいつは魔の王。魔王なんだ。

 その事実に気付いた俺の体が微かに震える。リアはそんな俺の心情を読み切ったように俺の肩に優しく手を置いた。


「だいじょぶだよミッチー。みんなで頑張ろう」

「リア……そう、だな。それしかねえ」


 決意に満ちたリアの表情にこくりと頷きながら魔王へと視線を戻す俺。しかし魔王の姿はいつのまにか忽然と消えていた。


「戦闘中に目を離すな」

「っ!?」


 いつのまにか俺のゼロ距離に黒いマントの魔王が立っている。魔王はそのまま俺の腹部に手を当てると闇のチカラをその手に集めて発射した。


「ぐっ……!」


 俺は咄嗟にハリセンを広げて盾のように使ってその攻撃を防御する。魔王はその様子を見るとニヤリと笑った。


「ほう、聖剣を盾に使ったか。やるな」

「そりゃ、どーも……!」


 正直言って、余裕はない。防御したとはいえあのティーナを吹っ飛ばした攻撃だ。防御しても手がビリビリしてやがる。しかし逆を言えば、あの魔王の攻撃に耐えうるほどの性能をこの聖剣は持っているということだ。

 勝機はゼロじゃ―――ない。


「ふっかーつ! はっはっは! 待たせたなみっちゃん! 先ほどは不覚を取ったがそぱんぷ」

「ティーナぁあああああ! また思い切り吹っ飛ばされてんじゃねーか!」


 大声を張り上げながら復活したティーナに対し再び魔王の攻撃がヒットして近くにあった木まで吹っ飛ばされるティーナ。今度は倒れなかったようだが、学習せんのかあいつは。


「ふっ……とにかく陣形だみっちゃん! 学園都市のようにチームプレイでいくぞ!」

「言われなくても……わかってら!」

「っ!?」


 俺は魔王に向かって闇雲にハリセンを振り回して時間を稼ぎ、どうにか全員が全員をカバーするような形で陣形を組む。具体的にはリープ以外のメンバーで円を作り、その中心にリープを置くようなイメージだ。これならリープのサポートも安定して受けられるし、隣同士でカバーし合えるだろう。


「無駄な事を……まあ良い。貴様らなりの“攻撃”とやらをしてみろ。その先の絶望を見てみたい」


 魔王は余裕のある様子で俺に向かって挑発的なセリフを吐く。魔王の言う通り、攻撃を受けるってことはそれで倒れない自信があるってことだ。

 俺はごくりと喉を鳴らし、緊張感で乾いた喉を動かした。


「なら、アタシからいくよ! そりゃー!」


 リアはリープのサポートを受けて最大出力の酒鉄砲を魔王に向かって発射する。しかし魔王は右手をかざしただけで発射された酒全てを防いだ。


「水鉄砲とは……ふざけているのか?」

「ぐぅっ……!」


 自身の攻撃が全く通用しなかったことにショックを受けているのか、リアは悔しそうに奥歯を噛みしめる。

 すると今度はすかさずマリーが一歩前に出た。


「今度はわたくしのパニック魔法で無力化して差し上げますわ! マリー・ヒーリング!」


 マリーの不意打ちとも言える攻撃。黄緑色の光に包まれる魔王。しかし魔王は一度右足を強く地面に打ち込むと、同時に黄緑色の光を四散させた。


「魔力量は大したものだが……未熟すぎる。それでは我は倒せぬ」

「なっ」


 マリーは何か言い返そうとしているようだが、悔しすぎて言葉が出ない。プライドの高いあいつのことだ、それも当然だろう。それより―――こちらの攻撃がほとんど通用しない。これが魔王のチカラなのか。


「次は私だな! この聖なる光を食らうがいい!」

「ぬっ!?」

「ティーナ! 無茶すんな!」


 ティーナはジャンプした状態でコートの前を開き、眩い光を魔王に浴びせかける。魔王は一瞬ひるんだがすぐに体勢を立て直し、右手をティーナに向かって突き出した。


「あっぶ、ねえ!」

「ひぁっ!?」


 俺は咄嗟にハリセンを広げ、ティーナに向かって発射された暗黒の衝撃弾を防御する。魔王は感心した様子で一度だけ頷いた。


「ほう、我の攻撃を二度防ぐとは。どうやらその聖剣のチカラだけは本物のようだな」

「そりゃ、どーも……!」


 俺はビリビリと痺れる両手を伏せながら魔王に出来るだけいつも通りの雰囲気で返事を返す。しかし頭の中はパニック状態だった。

 どうする……こいつはこれまでの敵とは格が違いすぎる。今の俺達じゃ勝つどころか、もしかしたら―――

 死。そんな単語が俺の頭をよぎる。そして魔王はそんな俺の心を見透かしたかのようにニヤリと笑った。


「ふむ……面白い催しを考えたぞ」

「きゃあっ!?」

「みんな!?」


 突然俺以外のメンバーの影の中から黒い十字架と鎖が登場し、みんなをその十字架に拘束する。

 そしてその十字架は浮遊すると魔王の後ろへと移動した。

 結果的に魔王と一対一で対峙する俺。動揺する心をどうにか抑え込んで俺はみんなに声を張り上げた。


「お前ら! 無事か!?」

「だいじょぶだよミッチー! お酒飲みたい!」

「後にしてくれる!? まあ飲みたくなる気持ちはわかるがな!」


 いつも通りなリアの様子にツッコミを入れつつ少しだけ笑みがこぼれる。あの馬鹿、こんな時まで酒かよ。


「この大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大魔法使いであるわたくしを拘束するなんて命知らずですわね!」

「ははっ……これまでで一番大が多いな」


 鎖の拘束からじたばたと暴れるマリーの様子を見た俺は静かにツッコミを入れる。まったくあいつは、ほんとにブレねぇな。


「マスター、私の機能に問題はありません」

「おう。ちょっと待ってろよリープ。すぐその鎖ぶっ壊してやっから」


 淡々とした調子で俺に状態を報告するリープに対し、苦笑いを浮かべながら言葉を返す俺。そんな俺の言葉を受けたリープの表情が少しだけ安心したように緩んだのは気のせいではないだろう。


「くっそ、拘束プレイとはやるじゃないか魔王! 私はこういうのも嫌いではないぞ!」

「お前は本当にブレねぇな!? こういう時くらいはブレて欲しかったよ!」


 本当に普段通りのティーナに向かってツッコミを入れる俺。ほんとにこいつは……いや、もうある意味すげーよ。尊敬するわ。


「さて、勇者よ。ここからが本題だが―――我と取引をしないか」

「何……?」


 魔王の言葉の意味がわからず、俺は警戒心を強めてハリセンの柄を強く握る。

 すると魔王は両手を広げてさらに言葉を続けた。


「こいつらを生贄に捧げろ。さすればこの世界からモンスターを取り去って元の姿に戻してやろう」

「なっ……!」


 俺は魔王から提示された条件に対し、検討以前に動揺して言葉が出ない。

 その様子を見た魔王はニヤリと笑った。


「斥候に使っていたモンスターから伝え聞いている。貴様はこの世界を元の愛ある世界に戻すために我を倒そうというのだろう? その聖剣に我が負けるとは思えんが、万が一もある。だから勇者よ、取引だ。こいつらを見捨てて世界を救え。ランハーの世界が好きなのだろう」

「ランハーの、せかい……」


 俺の脳裏に何百時間とプレイしたランハーの美しい世界、そして愛すべきキャラクター達の笑顔が浮かび上がる。

 気付けば俺の手からは力が抜け、ハリセンを握る手は震えていた。

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