第67話:魔王城
「それにしても遠くから見てもおどろおどろしい見た目だな。さすがは魔王城」
「そうだなみっちゃん。実に美しい」
「ああそうだな。発破解体したくなるほどにね」
「急な過激発言!? どうしたみっちゃん!」
俺らしくもない過激な発言に驚くティーナ。俺は乱れた呼吸を整えながら返事を返した。
「いかん、あまりにも俺の愛したランハーの世界にそぐわないもんでな、殺意が漏れた」
「ランハー狂いのみっちゃんがそこまでなるとは、さすがは魔王城だな」
「(ランハー狂い!?)あ、ああ、そうだな。まあとにかく魔王を倒せば城も壊せるだろう」
魔物を生み出してるのが魔王って話だからな。根源をぶっ飛ばせば城を解体することもできるだろう。あんなもん一瞬で粉々にしてやる。
「一応の確認だが、あそこにいる魔王を倒せばこの世界のバグは消えるんだよな?」
俺は背後を歩いていたリアへと振り返りながら質問する。リアはんーっと口の下に人差し指を当てた。
「まあ少なくともモンスターはいなくなるんでないかな。あそこからモンスターが出てきてるのは間違いないし」
「そうか。まあモンスターが消えれば十分だ」
平和なランハーな世界にあってゴブリンだのスライムだのモンスターは不要。よって俺がこのハリセンで浄化してやる。
「みっちゃんみっちゃん。顔が完全に破壊神だから。勇者がしちゃダメな顔だからそれ」
「え、俺そんな怖い顔してた?」
「そうですわね。二、三人殺して埋めた後かな? ってくらいですわ」
「凶悪犯じゃねーかやめろよ傷つくだろ!」
ううむ。いくら小さいころから愛し続けているランハーのためとはいえ殺人鬼になるわけにはいかんな。気をつけんと。
俺は両手で顔をぐにぐにしていると、隣を歩いていたリープがそれを真似していることに気が付いた。
「まふはー。これふぁどんふぁいみふぁ?」
「あ、うん。特に意味はないからね。真似しなくていいぞリープ」
「はぅ。くすぐったいですマスター」
苦笑いを浮かべながら頭を撫でる俺に対し、くすぐったそうに笑いながら頬を赤くするリープ。
その様子を見た三人は一斉に自身の顔をぐにぐにとし始めた。
「みっちゃん! 私も真似してるんだが!?」
「ミッチー! こっちこっち!」
「わたくしもですわ!」
「大ブーム!? 突然どうしたお前ら!」
俺は三人の突然の奇行に若干引きながらツッコミを入れる。すると三人とも口を3の形にしながら不満そうに言葉をぶつけてきた。
「「「もういい(ですわ)」」」
「何が!? お兄さん全然状況がつかめないんですけど!」
相変わらず読めない奴らだ……こいつらと分かり合える日は果たして来るんだろうか。
「あ、それよりミッチー! 魔王城の入り口が見えてきたよ!」
突然進行方向を指差すリア。確かにその指さした先には黒い城の一階に巨大な扉が鎮座していた。
紫色をしたその扉は禍々しい何かを感じさせ、来るものを徹底的に拒むような雰囲気だ。
「いよいよ魔王城か。みんな気をつけ―――」
「あぐっ!」
「なっ!?」
突然後ろへと吹っ飛ばされるティーナ。その腹部には衝撃波を受けた後があり、明らかに痛みによって気絶している。
コートを着ているティーナが倒されたことに動揺しながらも、俺はすぐに指示を出した。
「リープ、マリーをサポート! マリーはティーナに回復魔法を!」
「了解です」
「わ、わかりましたわ!」
すぐに吹っ飛ばされたティーナへと駆け寄っていくマリーとリープ。さらに俺は隣にいたリアへも声をかけた。
「リア! 回復中は無防備になる。あの二人を守ってくれ!」
「あ、あ……」
「リア?」
俺の言葉に返事を返さず、怯えた表情で目の前だけを見つめるリア。その視線を追っていくと、全身を黒いマントと凄まじいまでの暗黒のオーラに身を包んだ“何か”が立っていた。
「我は魔の王。よくぞここまでたどり着いたな、ぜい弱なる者どもよ」
「なっ!? ま、おう……だと」
魔王は空中から黒いオーラを四散させながらゆっくりと地上に降り立つ。その瞬間足元に生えていた草花はまるで腐るように枯れ、その凄みを俺に伝える。
俺はゆっくりとハリセンの柄に手をかけ、真正面から魔王を見据えた。




