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第65話:ひきょうだぞ

「俺が悪かったって。いい加減機嫌直せよ……」


 俺は部屋のベッド上に座りながら部屋の隅で体育座りしているティーナへと声をかける。ティーナはその白い肌を真っ赤に染めながら横目でちらりと俺を見た。


「見られた。見せたんじゃなくて見られた。もうお嫁にいけない……」

「いやほら、ちゃんと見てねえし。俺も忘れるし、な?」

「私の体は簡単に忘れるようなものだと言うのか!?」

「それ言われちゃったら何も言えないんですけど!?」


 いやそりゃ強烈だったから確実に忘れないけども、むしろ脳内の一番奥にしまっておくくらいだけども。

 ていうか―――


「露出狂なのになんでそんな落ち込んでんだよ……裸を見てもらいたかったんだろ?」

「見られるのと見せるのは全然違うんだ! わかってないなみっちゃん!」

「わかるか!」


 しゃーっと威嚇するように言葉を突き刺してくるティーナ。いやその違いはわかんねーよ……結局見られるんだから変わらねーんじゃねえの?

 しかしこいつがこんなに女の子らしい反応をするとは、なんか新鮮だな。


「はぁ。もういい。過ぎたことだ」

「あーまあその、悪かったな。不注意だったよ」


 考えてみれば脱衣所に入る前にノックの一つくらいすべきだったな。寝起きでぼーっとしていたとはいえ完全に俺のミスだ。


「いや。私も少々油断してしまっていた。みっちゃん一人のせいというわけでもないだろう」


 ティーナはだいぶ落ち着いてきたのか、胸の下で腕を組みながら俺に返事を返す。

 しかしその後は気まずい沈黙が俺たちの間に落ちてきた。くそ、さっき裸を見たせいか変に意識するな……落ち着け俺。相手は変質者だぞ。


「ま、まあとにかく寝るか。明日も早いしな」

「そ、そうだな。おやすみっちゃん」

「略すな!」


 俺たちはいつも通りの問答をすると灯りを消してベッドに入る。しかしベッドに入るとまだバクバクと脈打っている心臓の音がうるさい。あの白い肌が頭から離れない。

 近くのベッドに眠っているティーナの表情を見ることはできない。しかし不思議と、あいつも同じ状態にあるような気がした。

 ああ、もう。どうしたもんかな……

 俺は小さくため息を落とすと、さっさと寝るために毛布を頭から被った。






「おはようみっちゃん。良い朝だな」

「おう、おは―――ワァァァァァアアア!?」


 朝起きた俺の視界に飛び込んできたのは、またしても俺のパンツを頭に被っているティーナの姿。こいつ、何一つ懲りていない。ていうかもういつもの調子を取り戻したのかよ。

 ……ちょっと試してみるか。


「脱衣所」

「……えぅ」


 ぼそっと呟いた俺の言葉に反応し、みるみるうちにその顔を赤くしていくティーナ。その後ぽかぽかと俺の肩を殴ってきた。


「やめろ馬鹿者! 卑怯だぞ!?」

「いででっ!? 地味にいてぇ! 悪かった、悪かったよ!」


 段々強くなるティーナの拳の攻撃を受け、俺は謝罪を繰り返す。やがてティーナは切れた呼吸を整えながら俺を上目遣いで見つめた。


「……ばか」

「―――っ」


 少しほっぺを膨らませてごねたようなその表情に、今度は俺が赤面させられる。まさかこいつがこんな表情をするとは思わなかった。元が美少女なだけに破壊力がある。


「おっはよー♪ ってどったの二人とも」

「「なんでもない!」」

「???」


 部屋に入ってきたリアに対し、同時に返事を返す俺とティーナ。

こうして俺たちはしばらくギクシャクしながらも、この街を出るころにはすっかり普段の関係を取り戻していた。

 俺はそれを少し寂しく感じながらも、まあこれはこれで楽なのかもな。と自分を納得させていた。

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