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第64話:白の衝撃

「も、もも、もう我慢できん! 俺を見ろぉぉぉぉ!」

「げっ!? おっさん早まるな! ていうか見たくねぇ!」


 おっさんは素早くコートの前を開きその体を俺たちに見せつけようとする。しかしそれより一瞬早くティーナは自身のコートの前を開いた。


「遅い! せああああああああ!」

「ぎあああああああ!? 目が、目があああああああ!」

「ああもう。言わんこっちゃない……」


 見事にティーナフラッシュの餌食となり一時的とはいえ目が見えなくなったおっさんの姿を見て頭を抱える俺。だからやめとけって言ったのに……変態ってのは話を聞かねぇのか? いや、むしろ話を聞かないから変態になったのか。難しい問題だ。


「むしろ先天的に変態だったと言うべきか……って今はそれどころじゃねえな」

「目が、目が見えん! なにこれまぶしっ」


 おっさんが見事にパニクっている。もはや露出どころじゃない。まあティーナのは露出というよりもはや一つの兵器だからな……無理もない。

 俺はおっさんに近づいてその肩をぽんと叩いた。


「おっさん。あんたよくやったよ。今は大人しく掴まろう? な? 視力を失うよりマシだろ?」


 出来るだけ優しく促すように話しかける俺。しかしおっさんは逆上した様子で顔を真っ赤にした。


「ちくしょう。俺はもっと見られたいんだ。捕まって、捕まってたまるかぁあああああ!」

「あぶっ!?」


 おっさんはコートの内側に隠し持っていたナイフを取り出すとぶんぶんと振り回す。その刃先が俺の腕に触れようという刹那、俺とおっさんの間にコートを着たティーナが割って入った。


「危ないみっちゃん! とう!」

「うわっ!? なんだ、ナイフが弾かれた!?」

「あーあ……そりゃそうだわ」


 ティーナの防御力はマジで人知を超えるからな……そりゃおっさんの振り回したナイフじゃ傷一つつかないだろう。

 こうしておっさんは眼を瞑りながらナイフを振り回し、ティーナはそれを受けるという不毛な時間が幕を開けた。


「……おーいおっさん。そろそろ満足したかー?」

「まだだぁぁぁ! ちくしょう! なんなんだよ!」

「ほんとにね……」


 気持ちは痛いほどわかるぞおっさん。露出したい気持ちはわからんがティーナの理不尽さは俺も良く知ってる。


『あっちです! あっちに変質者が!』

「げっ。町人の皆さんが通報してくださっている!? 逃げるぞティーナ!」

「何? まだ決着が―――きゃっ!?」


 俺はティーナの手を引っ張り、無理やり宿屋へと走っていく。その後後ろから「俺はまだ見せてねぇぇえええ!」というおっさんの断末魔が聞こえたが、俺は心の中で静かに合掌して宿屋への道を急いだ。






「ぜえっぜえっ。や、やっと着いたぜ……」

「おつかれ」

「そうだけどなんか腹立つなぁ……」


 ティーナを引っ張りながら走ったせいか、宿に到着した頃には俺の息はすっかり上がっていた。宿屋の中に入ってダイニングに行ってみると既にみんなの姿はなく、どうやら部屋に戻っているようだ。


「ふぅ。とりあえず椅子に座ろう。なんか疲れた」

「なんでだろうね」

「主に原因きみだけどね!? ああもう、怒る気力もねえや……」


 俺は椅子の背もたれに体を預け、ゆっくりと瞼を閉じる。気付けば意識は遠のき、次瞼を開いた時寝落ちしていた事に気が付いた。


「やべ、ちょっと寝ちまった。ティーナは……部屋か」


 キョロキョロと周りを見回してみるが、ダイニングにティーナの姿はない。まあ部屋に戻ったんだろう。


「ふぁ。ねみぃ。俺もシャワー浴びて寝よう」


 ぐーっと体を伸ばし、タオルを持ってシャワールームへと歩き出す俺。この時俺は、なんと軽率なんだったのだろうと後悔した。着替えを取りに一度部屋に行くべきではなかったのか。そもそもティーナが何故いないのか疑問を持つべきではなかったのか。

 しかしそれらの後悔も、もはや無駄である。何故なら―――


「あ、あ……」

「ひぁっ!?」


 タオルで頭を拭っている全裸のティーナが、脱衣所に思い切り立っていたからだ。

 真っ白い肌とスレンダーだがバランスの良い体。一目見ただけでは雪の妖精かと思ってしまうような姿がそこにはあり、女の子特有の甘い香りが俺を包む。

そして次の瞬間―――


「きゃああああああ!?」


 絹を裂くようなティーナの悲鳴が、脱衣所に響き渡った。

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