第62話:地獄の同室
「ミッチー。ティーナっちが可愛いからっていかがわしいことしちゃダメだよ!」
「いや俺のが明らかに危険だろ!? 露出狂と同室ってどういう地獄だよ!」
リアからの的外れな注意にツッコミを入れる俺。結局リアは「そんなこと言って~。浮気はダメだゾ☆」などと言って自分の部屋に入っていった。安心しろリア。そもそも付き合ってねえから浮気のしようがねえ。
「さて、では我々も部屋で休むとしようか。旅の疲れを癒さなければな」
「ん、おお、そうな。ティーナもたまにはまともなこと言うんだな」
意外と普通な事を言い始めたティーナに驚いた表情を見せる俺。ティーナはふむと呟きながら顎の下に曲げた人差し指を当てた。
「お望みとあらば期待通り変態発言を繰り返すが?」
「自覚あんのかよ! ごめんなさい勘弁して下さい!」
俺はツッコミながらも勘弁してくれとティーナに懇願する。まあとにかく今は部屋に入ろう。
「よかった……ベッドは別々みてぇだな」
「ちっ」
「なんか舌打ちが聞こえた気がするがきっと気のせいだろう。気のせいであれ」
「せっかく寝汗をぺろぺろするチャンスだったのに……」
「さっき変態発言はしないってお兄さんと約束しなかったっけ!? 落ち着いて!?」
ギリギリと歯を食いしばって本気で悔しそうにするティーナにツッコミを入れる俺。するとティーナは急に冷静な表情に変わった。
「ふむ。とりあえず部屋着に着替えるとしようか。ミッチーちょっと後ろ向いててくれ」
「え? ああいいよ。俺部屋出てくから」
女子が着替えるってのに同室にいるってのも変な話だしな。普通に考えてしばらく部屋を出るべきだろう。
「いや。私は誰か部屋にいないと着替えられないタチなのだ」
「初めて聞いたんですけど!? じゃあまあ、後ろ向くとするか……」
俺は旅の荷物をベッドの上に置き、ティーナに向かって背を向ける。
それにしてもずいぶん遠くまできたもんだよな……リアと出会ってハリセンを引き抜いたのが随分昔のことのように感じるぜ。
ランハーの世界に浸ってニコニコしながらコントローラを握っていた頃のことなんて本当に昔話みたいに感じるな。冷静に考えてみると俺死んでるんだよなぁ。まあ悲しむような奴もいないだろう。……なんか自分で言ってて悲しくなってきた。
そうしてしばらく昔の事を思い出していると、結構な時間が経っていることに気付いた。
「ティーナ。そろそろ着替え終わったか?」
「ふむ。完了しているぞ」
「おお。じゃあそっち向く―――ウワァアアアアア!?」
「ワァァァァァァ!?」
振り向いた俺の視界に飛び込んできたのは、俺のパンツを頭に被っているティーナの姿だった。思わずすげぇ声で叫んじまったじゃねえか。
「びっくりしたなもう。大きな声を出さないでくれ」
「なんでお前がびっくりしてんだよ!」
「いたんぷ!」
即座にティーナの頭にチョップを入れる俺。ティーナは涙目になりながら口を動かした。
「わりと痛いぞみっちゃん」
「痛くしてんだよ! ていうか本当何やってんのあんた!?」
「ベッドの上にパンティが落ちていたのでな。被った」
「何もかもがわかんねーし落ちてたんじゃねえし置いてあっただけだし!」
「どっちでも同じじゃないか。パンティがあったら被るだろう?」
「そんな“常識だろ?”みたいな顔すんな!」
頭に疑問符を浮かべているティーナに思い切りツッコミを入れる俺。ティーナはやがて恍惚の表情で体を震わせた。
「この微かに残るみっちゃんのかほり。エクスタシー……」
「人の下着で悦に浸るな! 返せこの野郎!」
「あーだめだめパンティ伸びる伸びる」
頭に被られた俺のパンツを取り戻そうと思い切り引っ張る俺。しかしティーナもそれに対抗して異常な力で引っ張り返してきた。その細腕のどこにそんな力があんだよ普段発揮してくれその腕力。
「とにかく脱げ! 脱げこの野郎!」
「痛い痛い。パンティのゴムがこすれて痛いぞ」
「勝手に痛がってろ!」
「ミッチー! さっきから如何わしい単語が聞こえるんだけど!?」
「リア!? 誤解を招く言い方すんじゃねえ!」
突然部屋のドアを開けてきたリア。俺とティーナの状況を見るとしばらく難しい顔をした後部屋を飛び出した。
「わぁぁぁん! ミッチーのエッチ! 変態! 勇者!」
「最後のは侮蔑の意味なの!? 嘘でしょ!? ていうかどういう誤解してんだコラァ!」
もはや勇者は侮蔑の意味が込められてるの? マジかよ。ていうかこの状況見てなんで俺が変態になんだよわけわからん。
「追いかけてやれよみっちゃん。彼女……待ってるぜ?」
「そんなラブコメの親友ポジみたいなこと言わないでくれる!? 原因全部お前だから!」
俺の肩をぽんっと叩いてきたティーナに対してツッコミを入れる俺。結局この後走り去ったリアを追いかけて説得し、宿に連れ帰るまで一時間以上の時間を要したのだった。




