第60話:霧の街ミスティック
「みっちゃん。ひとつ確認したいんだが」
「なんだティーナ」
「ミスティックは霧の立ち込めているミステリアスだが落ち着いた雰囲気の街、そうみっちゃんは言っていたな?」
ティーナはミスティックの入り口で腕を組みながら俺に向かって質問する。
俺は目の前に広がる光景を見つめながら返事を返した。
「ああ、確かにそう言った」
「なら目の前のこの状況は一体どういうこと?」
霧の立ち込めた街の中で人々は疑心暗鬼にとりつかれ、皆銃などの武器を手に恐る恐る歩いている。明らかに何かを警戒している様子で、落ち着いた雰囲気など欠片もなかった。
「俺が聞きてぇよ……どうしちまったんだミスティックは」
とはいえこれまでの街の状況を考えれば、ミスティックだけバグが無いってのは考えにくいしこの状況はある意味当然か。それにしても道行く人の警戒度合いはハンパじゃねえな。勇気を出して声かけてみるか。
「あのーすんません。旅の者なんスけどなんかあったんスか?」
「ひっ!? き、貴様変質者か!?」
「突然失礼だなあんた!」
「そうだぞ。みっちゃんはそんじょそこらの変質者とは訳が違う。ハイパーな変態だ」
「誤解を招くこと言うんじゃねーティーナ! えっと違うんすよ。ほらこのハリセン。勇者がいるって噂この街にも届いてるでしょ?」
俺は必死に腰元のハリセンをアピールして無実を証明する。最初ゲンナリしていたこのハリセンで潔白を証明する日が来るとはまさか思わなかったな。
「あ、ああ確かに……じゃあ話すが、今この街には変質者が出没していてな。おっさんらしいんだが、局部を露出してジリジリと迫ってくるらしい」
「なにぃ!? けしからんな! 人間の風上の置けないやつだ!」
ティーナはぷりぷりと怒りながら話をしてくれたおじさんに声をかける。俺は即座にツッコミを入れた。
「いやお前が言うなよ! しかし変質者か……元はミステリアスで落ち着いた街だったのになぁ」
「霧が立ち込めてるから逃げやすいんだろうねー。街の特徴が完全に裏目ってるにぇ」
リアは口をωの形にしながらうんうんと妙に納得した様子だ。しかしまあ、リアの言う通りだろう。考えてみればこれほど犯罪を犯しやすい街も珍しいな。
元のランハーの世界ではみんなが助け合って犯罪のはの字もない優しい世界だったんだけどなぁ……どうしてこうなっちまったんだか。
俺が愛したランハーの世界がすっかり変異してしまっていることに今更ながらがっくりと肩を落とす俺。そんな俺の頭をリープは背伸びをしてぽんぽんと撫でた。
「元気を出してくださいマスター。変態なぞマスターの相手ではありません。マスターも十分変態です」
「ありがとうリープ。今最後の元気が消し飛んだよ」
確かに常に腰元にハリセンを差してる奴は普通ではないわな……いやでも。局部を露出はしてないぞ? 俺まだマシじゃね?
「まあともかく、宿を確保致しましょう。わたくし疲れてしまいましたわ」
「それもそうだな……しかしこう霧が深くちゃ宿の場所を思い出すのも一苦労だな」
ボリボリと頭を掻きながら宿屋の方角を思い出す俺。そんな俺の背後でリアとティーナの会話が聞こえた。
「局部を露出かー。ティーナっちと良い勝負だね」
「そうだな。是非全面戦争としゃれこみたいところだ」
「よし、今すぐ宿に行くぞ。死ぬ気で行くぞ」
駄目だ。こいつらを野に放ってはいけない。どう考えても俺達一行が変態として認定されて町人からボコられる結果しか見えない。何せみんな武装してるし。
こうして俺はリアとティーナの動きに終始注意しながら、宿屋に向かって歩き出した。




