第6話:露出狂の山
「何故だ。どうしてこうなった」
俺はがっくりと肩を落としながらスノーボゥルの街を歩いていく。
その後ろでは二人の女子がキャッキャウフフと会話している。
「ねぇねぇ。ティーナっちのリボンって露出のときどうしてんの?」
「これはボタンで留めているから一発で取れるようになっているんだ。露出狂でもファッションは大事だからな」
「ひゅうーっ♪ いいねぇ露出ファッション! アタシもやろっかなー」
「すんな! 頭痛がする会話はそれくらいにしてもらえませんかね!?」
何よりすれ違う人々からの視線が痛い。痛すぎる。何でこんなことになってんだ。なんか泣きそうになってきた。
「みっちゃんそんなに震えて……大丈夫? 私のコートの中入る?」
「眩しさで目が潰れるわ! ていうか入らねぇよ!」
「ミッチーの大きすぎて入らないもんね」
「“の”が凄く余計だなぁ!? 君はちょっと下ネタ自重しようか!?」
駄目だこいつら。話が通じない。通じる気がしない。こりゃ意地でも安宿探してさっさと部屋に入っちまった方がいいな。
「あれ? そういえばティーナの家はどこなんだ? 広いなら泊めてくれよ」
よく考えたらティーナの家ってこの街にあるんじゃねえか。俺は別部屋になるだろうが、宿代が浮くのはありがたいぞ。
「それなんだが、私が露出するようになったらお金だけ渡されて両親に追い出されてしまったのだ。何故だろうか」
「通報されなかっただけありがたいよ! 追い出すのはどうかと思うが、まあ娘がこれじゃあな……」
「ちなみにいくら貰ったのん?」
「一千万ペールだ」
「めちゃくちゃ愛されてる! それ宿に何拍できるんだよ!」
「いやー、年単位で住めちゃうねぇ」
相変わらずぽやぽやしながら頭の後ろで手を組むリア。しかしまあこれで財政難は解決……いや、待てよ?
「ちょっと待て。そんな大金どこに持ってんだ?」
見たところティーナは鞄のひとつすら持っていない。一千万ペールなんて鞄か台車でもないと持ち歩けないだろう。
「ああお金ならさっき“恵まれない露出狂基金”に全額寄付してしまった」
「何その基金!? どういう用途で使われるの!?」
「馬鹿だにゃーミッチー。恵まれない露出狂のために使われるに決まってるじゃん」
「逆に恵まれてる露出狂って何!? いやていうか何で全額募金しちまうんだよ!」
「私は昔から募金等には積極的に協力するタイプなのだ」
「えらーい! でもその募金には一ペールも払わなくていいと思う!」
俺はくそっくそっと雪道を拳で殴る。女の子のお金を当てにするのもどうかと思うが、緊急時に貸してもらうくらいできるかと思っていたのに……
「まあ元気出しなよミッチー。恵まれない露出狂のためになったんだからさ」
リアは女神のような笑顔でぽんっと優しく俺の肩を叩く。俺は即座にツッコミを入れた。
「できれば全員通報したいんですけど!? いや、待てよ。ということは……」
俺は立ち上がると腕を組んでむむむと考え込む。何か、何か大切なことを忘れている気がする。
「どうしたみっちゃんそんなに唸って。うんち?」
「女の子がうんちとか言わないでくれる!? ―――あ、そうか!」
わかったぞ、違和感の正体。そうだよそんなわけのわからん基金があるということは―――
『ひゃはああああ! 女の子だぁ! 俺のムスコを見てくれぇ!』
「やっぱり露出狂他にもいるじゃねえかこの野郎! しかも元気いっぱいだよ!」
「募金したかいがあったな」
「募金したせいで元気モリモリになっちゃってるんですけど!?」
うんうんと満足そうに頷くティーナにツッコミを入れる俺。いや、まずは目の前の変態をどうにかしなければ。
「それにしても良い露出だ。私も対抗したくなってきたな」
前言撤回。後ろの変態もどうにかしないといかん。何このひどすぎるサンドイッチ泣きそうなんだけど。
「よぉし行けミッチー! あの露出狂をやっつけるのだ!」
「言われんでも行くわい! えーっと、えーっと……」
何か、何かツッコミどころを探さなくては。いやなんだよツッコミどころって。めんどくさすぎるだろこの聖剣。
『男に見られても嬉しくないんだけどなぁ』
「はっ!? ていうか露出狂なんかしてんじゃねー働け!」
『ぎゃああああああ!?』
そうだった。そもそも露出してる事がツッコミどころじゃないか。
露出狂は元気よく吹っ飛ばされ雪山に突き刺さった。死んでないといいな。
『おい! こっちに美女二人が歩いてるらしいぞ!』
『ひゃああ! もう我慢できねえ!』
「わぁ。露出狂が沢山来た」
「桃源郷だな」
「地獄絵図だよ! ええい、まとめてかかってきやがれ!」
俺はハリセンを構えて走ってくる露出狂達へとハリセンの切っ先を合わせる。
その後聖剣の性能を大いに発揮した俺は喉を枯らしつつも、どうにか街中の露出狂を全員雪山に突き刺したのだった。
「さっすがミッチー! 露出狂さんみんな突き刺さったよ!」
「嫌な山になっちまったな……全員尻丸出しだよ」
「興奮してきたな」
「落ち着いて!? ティーナまで露出したらマジで収拾つかねぇから!」
俺はティーナの肩をがっしりと掴んで泣きつくように懇願する。ティーナは口を3の形にしながら「ちぇー」と呟いた。
「それにしてもみっちゃんの活躍は素晴らしかったな。惚れてしまいそうだったぞ」
「へっ。仲間を吹っ飛ばされて惚れるも何もねーだろ」
俺は不貞腐れ気味にハリセンを腰元に戻し、頭をぼりぼりと掻く。はぁ。せめて勇者らしい戦いがしたいぜ。
「男の戦う姿は初めて見たからな―――ちょっと本気だったんだが」
「ん? なんか言った?」
ティーナのぼそぼそと呟いた言葉が、よく聞こえなかった。
俺がティーナに聞き返すと、ティーナは頬を赤くして両手を俺の顔面に押し付けてきた。
「なんでもない。気にするな」
「???」
そのままずんずんと歩き出すティーナ。一体なんだってんだあいつ。
「いやーミッチー。これから大変ですなぁ」
「はぁ? 既に大変じゃねえか」
変態と酔っ払いを連れてハリセン一本で旅するんだぞ。これが地獄じゃなくてなんだってんだ。
「んー、おっけおっけー! 今はそれでいいよん!」
「んだぁぁ! 引っ付くなっての!」
リアは俺の背中に飛び乗り、気安く頭を撫でてくる。
俺はそんなリアの手をはねのけながら、先を歩いていくティーナを追いかけた。