第59話:ミスティックへの旅路
「みっちゃん。パンツくれないか」
「唐突に何言ってんだかわからんが断る」
次の街に向かう道の途中。俺の肩をがっしりと掴みながら真剣な表情で素っ頓狂な事を言うティーナ。ちょっと何言ってるかわかんないですねこのひと。
「なんで断るのー!? いーじゃんパンツおくれよ!」
「やだよ! ていうかもらってどうすんだよ!」
「そのままご飯のおともにする」
「せめて調理しろよ! ……いや調理してもダメだよクソが!」
むしろこいつどうして腹壊さないんだ? そもそもパンツはちゃんと消化されるのか……いや何真面目に考えてんだ俺はアホか。
「ちぇー。いーよ。じゃあリープの髪食べるから」
「ファンタジスタかよ! あの子純粋なんだから巻き込まないで!」
口を3の形にしながらリープに近づこうとするティーナを羽交い絞めにする俺。ティーナはハァハァと興奮した様子だ。
「この私を拘束するとはやるなみっちゃん。もっとやって」
「興奮してんじゃねー! 誰かこのアホを止めて!」
「お酒飲む?」
「飲む」
「飲まねーよ! 素面でこれなのに酔ったら世界滅ぶわ!」
酒を薦めてくるリアにツッコミを入れる俺。これ以上は俺のツッコミスキルが耐えられんですよマジで。
「あら。じゃあわたくしのパニック魔法で無力化します?」
「今既にパニックなんだけど状況わかってるかな?」
マリーからの提案を速攻で却下する俺。マリーはぷくーっと頬を膨らませて不満そうにしている。いやだって、どうなるかわかんねーじゃん。まかり間違って俺が羽交い絞めにできないほどの筋力を手に入れたらどうすんだよ。もう誰も止めらんねーぞ。いやもう既に手におえないけど。
「ふむ。そこまで言うならしょうがない。みっちゃんのハンカチで我慢しよう」
「まあハンカチくらいなら……いや、一応聞くけどそれどうすんの?」
「ハスハスする」
「すんな!」
なんでハンカチの匂い嗅ぐんだよ……石鹸の匂いくらいしかしねえよ。いやこいつにしかわからないレベルで俺の匂いも付いてるのか? 猟犬かこいつは。
「本当は汗がしみ込んだシャツがベストなんだがな。まあ今回はハンカチにしておこう」
前言撤回。こんなひどい猟犬はいねぇ。
「まあまあ。こんくらいが落としどころだってミッチー。ついでに私のことおんぶして」
「なんのついでだよ!? 断るよ!」
リアをおんぶすると背中にでかいもんが当たって理性がやばくなるから嫌だ。そんな自分が嫌だ。ていうか俺も一応男なんだけどこいつ本当わかってんのかな……
「あら、それならわたくしはお姫様抱っこを所望しますわ。というかしなさい」
「もはや命令!? お前ら俺をなんだと思ってんの!?」
「ミッチー」
「みっちゃん」
「マスター」
「犬」
「ちょっと泣いていい? 最後のやつひどすぎるんだけど」
マリーの発言にちょっと涙ぐむ俺。こんな会話を繰り返しながら俺達は次の街へと歩みを進める。
次の街はいつも霧がたちこめているミステリアスな街“ミスティック”か。落ち着いた雰囲気が特徴的な街だが、今のバグ状態では果たしてどうなっていることやら……
「はぁ」
「おや、ため息かい? 強い酒が必要?」
「不要だよ! 俺はおっさんのガンマンか何かか!」
西部劇とかで嫌なことがあった時「強い酒をくれ」とかは聞いたことあるけどまさか言われるとは思わなかったわ。ていうか酒は飲めねーっての。
こうして俺たちは次の街ミスティックに向かって旅路を進んでいく。空は徐々に暗雲が立ち込め、魔王城が近づいていることを暗示しているようだった。




