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第56話:死神の鎌

 女性の悲鳴が聞こえてきた方角に走ると、人々が影から時折現れる死神のようなモンスターから逃げ惑っているのが見えた。完全にパニック状態だ。死神は時々人の影の中から姿を現すと手に持っている大鎌を構えるが、人の首を切り落とすことはない。どうやらパニックに陥る人々を見て楽しんでいるようだ。しかしその大鎌がいつ人の首をはねるかわからない。俺はすぐに腰元のハリセンを抜いた。


「どうやらこの街に入る人の影の中に身を潜めて侵入してきたみたいだねぇ。影の中にいるんじゃ番兵のおっちゃんも見つけられないわけだ」

「何せヘッポコだからな」

「ヘッポコですわね」

「そこまで言ってやんなよ! これは見落としてもしょうがねえだろ!」


 実際死神は影の中に入っている間完全にその姿が見えなくなる。どうやらいくらでも潜っていられるし、いつでも飛び出せるようだ。厄介だな。

 こいつを倒すなら、飛び出してきた瞬間に叩くしかないだろう。


「どうする? 私の露出フラッシュで影を無くすか?」

「住民の皆さんの目がやべーよ! ていうか影を無くすってのは無理だろ!」


 いくら強力な光でも、一方向からの光では必ず影が生まれてしまう。その攻略法は無理だな。


「うーんどうしよう。とりあえず酒盛りする?」

「のんきか! 今酒盛りしたら被害者倍増するわ!」


 リアの提案を速攻で却下する俺。せっかく逃げ惑ってて徐々に被害者が減ってるのに足止めしてどうすんだよ。


「仕方ないですわね。ここは大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大魔法使いのわたくしが―――」

「やっぱここは地道に人を減らして俺たちを狙ってきたところを叩くしかねえな」

「ちょっと!? 聞いてますの!?」


 聞いてません。今マリーがパニック魔法なんぞ使ったらどうなるかわかったもんじゃない。地味だけど今回の敵の殺傷力は確かだ。姿が見えている敵相手ならパニック魔法も有効だが、今回は違う。ここは慎重にいくしかないだろう。


『オソウジシマス』

「こんな時でも真面目だな……まあ当たり前なのかもしれんが」


 こんな時でも地面の掃除をするお掃除ロボット。人々が逃げ惑ったせいか土の汚れがかなりあるようだ。


「立派です。お掃除ロボット様」


 リープはキラキラとした瞳でお掃除ロボットを見つめる。仕事にひたむきな姿に心打たれたらしい。気持ちはわからんでもないが、今戦闘中なんですけど。


「リープ、気を抜くな。死神が姿を現したらすぐに知らせてくれ」


 俺はハリセンを構えた状態でリープへと指示を出す。しかしまだまだ人は多いし、正直飛び出してきた瞬間の死神を叩ける可能性はかなり低い。

 俺は冷たい汗が背中を流れ落ちていくのを感じた。


「今現在の人の量と広場の広さ、そして通路の幅を考慮すると避難には五分程度必要かと思われます」

「五分か……くそっ。短いようで長いな」


 十分な時間だ。人の首を切り落とすには。


『きゃあああああ!?』


 瞬間響く女性の悲鳴。その方角に視線を向けると死神がその大鎌を振り上げていた。


「させるかぁ! とう!」

『!?』


 リアは咄嗟に酒を噴射して死神の顔面にぶっかける。死神はその両目に酒が入ってしまったのか、一瞬その動きが止まった。


「よし! ナイスだリア! 今だぁぁぁぁああ!」


 俺は即座にハリセンを横薙ぎに振ろうと振りかぶる。しかし死神は間一髪のところで影の中に逃げてしまった。

 女性は走り去り、やがて広場には俺達だけが残される。どうやってるのか知らんが、どうやら死神は影をジャンプするように移動もできるようだ。さっき悲鳴を上げてた女性とは別の人だったからな。

 俺はハリセンを掴んで周囲を警戒しながら口を開いた。


「気を付けろよ―――多分あいつめちゃくちゃ怒ってるぞ」


 恐らくだが死神はまだこの広場にいるだろう。何せいきなり酒を目に入れられたんだ。怒らないはずがない。必ず俺たちの中の誰かを狙ってくるはずだ。


「そうだよね……さっきの安酒だったし」

「そこじゃねえよ!? 酒を目の中にぶちこまれたら誰だってキレるわ!」


 しょんぼりとして反省した様子のリアにツッコミを入れる俺。変なエネルギー使わせるなよもう。これから死神に強烈なツッコミを入れなきゃなんねーんだから。


「とにかく気をつけろよリア。あいつが次狙うとしたらお前の可能性が高い」

「酒豪だから?」

「どういう対抗意識だよ! さっきお前あいつの目潰しただろーが!」


 とはいえ死神の視力ももう回復しているだろう。油断はできない。

 緊張した空気が広場に広がり、沈黙が俺たちの間に重苦しく落ちてきた。


「ふぇっくち!」

「びっくりしたぁ!? 緊張してる時にくしゃみすんなよ!」

「あはははっ。ミッチーびくってなった」

「だから呑気かって! ちょっとは緊張感もてよ!」


 全然緊張感を持ってくれないリアにツッコミを入れる俺。その瞬間リアの背後に黒い影が立ちあがった。


「!? リア、後ろ!」

「ふぇ?」


 ぼーっとした表情で頭に疑問符を浮かべるリア。その背後では死神が怒りに顔を歪めて両手に持った大鎌を振りかぶっていた。

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