第53話:街に入るには
「あのーすみません。俺達テックアーツに入りたいんスけど」
俺はごついおっさんの番兵にペコペコしながら恐る恐る話しかける。なんかめっちゃ怖い顔してるし怒らせないようにしとこ。
『む? なんだ貴様。この国は事前に入場審査を受けた者しか入れないぞ』
「ええっ!? 何その万全なセキュリティやだ!」
びっくりして思わず素が漏れてしまった。いやしかし審査って、この辺のモンスターどんだけヤバイんだよ。
「審査か。よし、是非私の全裸を審査してもらおう」
前言撤回。モンスターよりうちのパーティのがヤバかった。ていうかこれ以上怪しまれるようなことすんじゃねえよ。
「とりあえずティーナはコートを脱ぐ手を止めろ。番兵さん違うんすよ。俺達全然怪しい者じゃないです」
「そうですわ! この大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大魔法使いのマリー=フラワーズを知らないなんてあなた相当ヘッポコ番兵ですわね! 無礼な!」
マリーは胸の下で腕を組んでおっさんを見下しながら大声を張り上げる。ヘッポコとか言うんじゃないよムキムキじゃねーか。腕丸太みたいな太さしてるよ。
『誰がヘッポコだ! お前の方がよっぽど無礼だろうが!』
「もっともだ」
俺はおっさんの言う事に一理、いや百理あると感じてうんうんと頷く。すると今度はリアが馴れ馴れしく番兵と肩を組んだ。
「まあまあヘッポコくん。酒でも飲もうじゃないか。ん? 酒好きじゃろ?」
『好きだけど勤務中だ! あと馴れ馴れしいぞ女!』
おっさんのもっともすぎる反論に口を3の形にしながら「ちぇー。なんだよヘッポコ」と吐き捨てて離れていくリア。
ああもう、おっさんの好感度がどんどん下がっていく。どうすりゃいいんだ。
「困ります。ここを通してくださいヘッポコさん」
『だからヘッポコじゃねーって! 貴様らもう絶対通さんからな!』
「ヒィィィ!? 絶対に門を開けないという鉄の意思を感じる!」
おっさんは完全に怒り心頭で持っていた槍の柄を地面に強く突き立てる。だめだ。こいつらがいる限り一生この門は通れそうにないぞ。ここは俺がどうにかせねば。
「えっと、ほら。俺達勇者一行なんだよ。噂とか聞いてないかな?」
俺は出来る限りへりくだった態度でヘッポコ……もといおっさんに話しかける。すると番兵は俺の腰元にあるハリセンに気が付いた。
『む? 確かにハリセンを持った勇者様がいるという噂は聞いているが……貴様らがその一行とはとても思えん』
「確かに」
いかん。納得してしまった。でもこのパーティ明らかに怪しいもの。そりゃ勇者とは思わねえよな。
「疑り深いヘッポコですわね。どうしたら信じますの?」
「そうだよ教えてヘッポコ」
「教えてくれヘッポコ」
「おしヘッポコ」
『語尾みたいに使うんじゃない! そこの男がハリセンの力を示したら信じてやろう!』
「ええっ!? 俺!? ってそりゃそうか」
勇者たる力を見せないと信じないのは当たり前だよな。でも証明ってどうすりゃいいんだ?
「この番兵ちゃんにツッコミ入れればいんでない?」
「よくないんでない!? 番兵吹っ飛ばしちゃダメだろ!」
とんでもないことを言い出したリアにツッコミを入れる俺。どこの世界に番兵を吹っ飛ばして街に入る勇者がいるんだよ。
『なんでもいい。とにかく証明しろ』
「えええ……えっと、そうだな……」
このおっさん。番兵としては普通すぎるしツッコミどころが無い―――と思ったらあった。なんか知らんがズボンの膝のところにクマさんの可愛いアップリケが付いてる。
「ごついおっさんがクマさん付けてんじゃねーよ!」
『ぐばああああああ!?』
俺のハリセンの一撃を受けて吹っ飛ぶおっさん。あれ? これ逮捕待ったなしじゃない?
「こりゃ逮捕待ったなしだねぇ」
「無責任! やだよ街を見ずして逮捕される勇者!」
てきとうな事を言いやがったリアに対してツッコミを入れる俺。しかし吹っ飛ばされたおっさんは吹っ飛ばされながら大声を張り上げた。
『これは確かに勇者の力! 通ってよぉおおおおし!』
「あ、ありがとうおっさん! すげぇガッツだな!?」
吹っ飛ばされながらも番兵としての役割を果たしたおっさん。あんた偉いよ。大したもんだよ。でもクマさんはやめたほうがいいと思う。
「ようやく門を開けられそうですわね。さっさと行きましょうヘッポコはほっといて」
「そうだなヘッポコだし」
「じゃーねヘッポコー」
「ごきげんようヘッポコさん」
「お前ら本当ひでぇな!? あいつだって普通に仕事してただけなんだぜ!?」
ハリセンの力でおっさんの体調不良とかなんかそういうのが浄化されますように。とにかくおっさんが幸せになりますようにと祈りながら門へと進む俺。
やがて巨大な門をゆっくりと開けると、次第にテックアーツの街が見えてきた。




