第50話:海風の出発
「あー……一晩経ったのに全然疲れが抜けてねぇ」
俺は宿屋を一歩出ると眩しい太陽に目を細めながらゾンビのような顔でため息を落とす。昨日は良く言えば盛大な。悪く言えばハチャメチャな宴会だったからな。戦闘後にあれはきつすぎるだろ。町民の皆さんの心遣いはすげぇ嬉しいんだけど……
「おふぁよぉ~ミッチー。良く寝れたぁ?」
この妙に元気な酒女神のせいでただの酒盛りになっちまったんだよな。酒こそ飲んでないもののこいつが無茶しないかハラハラして全く体が休まらなかった。
俺は話しかけてきたリアに対して恨みがましい視線を送った。
「なんだいそんなに見つめて……はっ!? まさか寝起きのアタシに発情!?」
「してねえよ!? てか寝起き限定の発情ってなんだよ特殊かよ!」
あらやだといった表情を浮かべて口元に手を当てているリアに対しツッコミを入れる俺。疲れが無ければその寝癖の残った頭を引っぱたいてるところだ。
「ふむ。良い朝だなみっちゃん。下半身に海風がダイレクトに来て良い感じだぞ」
「なんでダイレクトに来るんですかねぇ!? お前まさかノーパンじゃねえだろうな!」
俺はがっしりとティーナの肩を掴んでガクガクと前後に揺さぶる。ていうかなんて質問してんだ俺は。人生で一度もしないと思ってたわこんな質問。
「ふふっ。みっちゃん昨日最後に食べた鍋は妙に具が多かったろう? あれをカモフラージュと考えることもできるな」
「え? 嘘だろ? まさか入れたんじゃないだろうなオイ。嘘だって言えよ」
まさかとは思うが自分のパンツを俺の鍋に忍ばせたんじゃないだろうな。さすがのティーナでもそこまでしないよな?
俺は引き続きガクガクとティーナを前後に揺さぶるが、ティーナはニヤニヤとしながら明後日の方を向くばかりで何も答えてはくれない。もうやだこのパーティ。
「おはようございますマスター。海鮮づくしは昨日良い美味しく楽しめて食べたいまたですね」
「リープ。言語バグってるバグってる。クソみたいな翻訳サイトで翻訳した外国語みたいになってっから」
恐らくだが、昨日の海鮮宴会の料理は最高でまた食べたいですね。とかなんとか言ってるんだろう。とりあえず涎を拭いてあげよう。
そうしてリープの口をハンカチで拭っていると、一人足りないことに気が付いた。
「あれ? そういやマリーはどうし―――」
「おーっほっほっほ! わたくしならここですわ!」
「朝からテンション高っ!」
宿屋の横に置いてあった机の上に思い切り立って腕を組んでいるマリー。だからパンツが思い切り見えてるんだが……もう指摘するのも面倒になってきた。
ていうかこいつ、久しぶりに元気だな?
「なんだ。今日は調子よさそうだなマリー」
「とーっぜんですわ! わたくしはいつでも絶好調ですもの! 何を言ってますのこのゴミクズ!」
「そこまで言う事なくない!?」
あまりにもひどい言い草にツッコミを入れる俺。最近悩んでるようだったが、どうやら吹っ切れたようだな。まあそれならよかったぜ。鬱陶しいが、やっぱ元気な方がこいつらしいからな。
「まあ、その、わたくしが元気なのはあなたのおかげと言えなくもなくもなくもないというかその……」
「んあ? 何言ってんだお前」
なんだかぶつぶつ言っているマリーにボリボリと頭をかきながらてきとうに返事を返す俺。元気なのが俺のおかげって、なんで?
「っ! うるさいですわこのハゲ!」
「いってぇ!? しかもハゲてねぇ!」
いきなり飛び蹴りを俺の後頭部に叩き込んでくるマリー。なにすんだこいつほんと信じらんねえ。
「それよりさっさと次の街に行きますわよ! 驚異の去ったこの街に用はないですわ!」
「まるで勇者みたいなこと言うんだな」
「勇者はあなたでしょう!? さっさと先導なさって!」
「へいへい」
俺はマリーに言われるがまま次の街に向かっての街道に出るべく一歩踏み出す。
海風は少しだけ暖かく俺たちを包み、まるで出発を祝ってくれているかのように感じた。




