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第47話:頼んだぜ

 迫りくる海賊。底をついているエネルギー。こりゃもうやれることは一つしかねじゃねえか。


「一度撤退して態勢を立て直す! ティーナ、リープを守れ! リア、マリーを守れ! それぞれがそれぞれをサポートするんだ!」


 俺はフラつきながら立ち上がり、皆に向かって声を張り上げる。今はもうこれしかねえ。死ぬほど嫌だけど、これしかねえんだ。


「ちょっと! あなた馬鹿ですの!? あなたは一体誰が守るんです!?」

「俺は―――ここに残る」

「!?」


 俺の言葉にごくりと唾を飲み込むマリー。俺は最後の力を振り絞ってハリセンを握りしめた。


「俺はここに残って、できるだけ敵の数を減らす。相手だって無限じゃねえんだ。数を減らせれば元々街にいた戦力でも応戦できる。お前らはそれに賭けるんだ」

「馬鹿! あなた馬鹿だとは思っていましたけれど本当に馬鹿ですわね! 勇者が死んでどうするんですの!?」


 少し涙ぐみながら喚き散らすマリー。俺はそんなマリーの頭にぽんっと手を置くと歯を見せて笑った。


「死なねーよ。だから行け。俺の大好きな、この世界を守るんだ」

「―――っ」


 気休めだということはマリーもわかっている。だからこそ口を噤んだのだろう。しかし悪いな。ここは引けない。ずっとつまらなかった。退屈だった。辛かった現世での生活を支えてくれたのは他ならないランハーの世界なんだ。この世界だけは守りたいんだよ、俺は。

 それに―――


『うらあああああ!』

「ぐっう!?」


 先陣を切っていたらしい海賊の凶刃が俺の背中に刺さる。ああもうめっちゃ痛い。刺されるのってこんなに痛いのか。泣きそうだぜマジで。


「マリー・ヒーリング!」

「とりゃー!」


 マリーとリアは力を合わせて海賊を撃退するが、それも一時しのぎだろう。俺はもう一度笑いながらマリーへと声をかけた。


「頼むよ。今は逃げてくれ。それとこの世界を頼んだぜ―――先生」

「っ!」


 マリーは俺の言葉を聞くと口元をぎゅっと結んで両目を見開く。俺は微笑んだままでいると、頭部に鈍い痛みが走った。


「マリーちょっぷ!」

「いでえ!? なにすんの!?」


 背中の傷が治癒したばっかりなんでやめてほしいんですけど!? ていうか意味がわからねえ!


「あなたは本当に、馬鹿ですわ! それに馬鹿で……馬鹿ですわ!」

「レパートリー貧困かよ! 俺どんだけ馬鹿なの!?」

「国宝級」

「是非国で保護してほしいわ! ってんなことより早く逃げろっつーの!」


 リアやティーナ達は俺の心情を察してくれたのか逃げる準備を始めている。しかしこのわがままお嬢様だけは逃げる気配がない。どうしろってんだ。


「国宝ですもの。失えませんわ。ですから―――わたくしが戦います」

「はぁっ!? 何言ってんだよ。回復魔法じゃ戦いようがねえだろ!」


 俺はマリーの言葉の意味がわからず、声を荒げる。しかしマリーは落ち着いた様子でリープへと声をかけた。


「リープ。このサポート一度解除してくださる?」

「了解しました」


 少し背伸びをしてマリーの頭をナデナデするリープ。するとマリーの体に纏われていた黄緑色の光が失われた。どうやらサポート効果が切れたらしい。


「おいマリー! お前一体どうするつもりだ!?」

「あら、忘れたんですの? あなたが教えてくれたんですのよ。わたくしは世界で唯一の“パニック魔法の使い手”だって」

「あ……」


 マジシャンズで俺がマリーにかけた言葉を思い出す。確かにそれに近いことは言ったかもしれないが……この状況を打破できるかはわからねえぞ。


「やってみせますわ。何せこのわたくしは……大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大魔法使い。マリー=フラワーズですもの!」


 マリーは俺達から一歩前に踏み出し、決意の表情で両手を海賊たちへと突き出す。俺はその表情に一瞬目を奪われ、それを止めることもできなかった。


「いきますわ……くらいなさい、パニック魔法! マリー・ヒーリング!」


 決意を込めたマリーの呪文詠唱。その瞬間爆発するようにマリーの両手から銀色の光が放たれ、海賊たちはおろか巨大な海賊船まで包み込んだ。

 そしてそれらの光はやがて巨大なシャボン玉に変化し、海賊たちは海賊船ごと宙に浮いて無力化された。

 ばたばたと体を動かす海賊たち。しかしシャボン玉が割れる様子はない。どうやら完全に無力化されたようだ。


「マジ、かよ。あの量の敵を一瞬で……?」


 俺はマリーの驚異的な力に驚き、ポカンと口を開く。しかし目の前のマリーの体がふらりと横に倒れるのを確認すると急いでその体を支えた。


「マリー! 大丈夫か!?」

「当然、ですわ。でもちょっと疲れたので、あとは任せましたわよ……勇者様」


 マリーは先ほどのお返しとばかりに俺を勇者と呼ぶ。俺はなんだかおかしくなって小さく笑った。


「おう―――任しとけ。みんな、マリーを頼む。俺ぁちょっとあいつらにお灸をすえてくっからよ」

「おー! がんばれミッチー!」

「ファイトですマスター」

「終わったらパンツ嗅がせてね!」

「なんか変なの混ざってるんですけど!? 嗅がせねえよ!?」


 俺はティーナにツッコミを入れながら、ゆっくりとした動作でハリセンを肩に担ぐ。無力化されたならもう、恐れるもんはねえ。さすが大先生だぜ。

 肩に担いだハリセンの取っ手を強く握りしめながら、俺はゆっくりと海賊たちへと近づいていった。

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