第46話:VS大海賊船団
「ぜいっぜいっ……ちくしょう。もうどんだけ吹っ飛ばしたんだかわかんねぇぞ」
俺はハリセンを握りながら肩で息をする。海賊たちは吹っ飛ばしても吹っ飛ばしても船から出てくるし、マジでキリがねぇ。船を吹っ飛ばそうにも間合い的に無理だ。途中に立ちふさがる海賊が多すぎる。
結局この場で陣形を守りながら戦うしか手がねぇんだよなぁ。
「ティーナ! リープはちゃんと守ってるか!?」
「もちろんさみっちゃん。さっきから暇すぎてリープと一緒にアイス食べてるよ」
「うまい」
「呑気かよ! ていうかティーナ背中切られてる切られてる!」
ティーナは海賊に思い切り背中を切り付けられながらも、持ち前の絶対防御で全く効いていない。海賊もなんか肩で息しちゃってるし、こいつらはアイス食ってるし、なんか海賊の方が可哀そうになってきた。
「へいへーい! そんなんじゃミッチーに近づけないぜぇ!」
リアは両手から勢いよく酒を噴出して近づいてくる海賊たちを吹っ飛ばしている。なんて頼りになるやつなんだ。
「すげぇぜリア。酒臭ぇけどな!」
一帯が酒まみれでもう立ってるだけで酔いそうだ。しかしまあこればっかりはどうしようもないだろう。
「えー良い匂いじゃん。これ超良い酒なんだよ?」
「いや、良い酒である必要はまったくねえんだけどな?」
正直海賊を吹っ飛ばせれば水でもなんでもいいんだが。まあそんなことはいいか。とにかくリアは大丈夫そうだな。
「マリー! 疲れてないか!? お前が疲れちまったらおしまいだからな!」
回復役であるマリーがダウンしてしまったらこの陣形は崩壊する。マリー自身は不満そうだったが、実は最も重要なポジションなんだ。
「ふん。このわたくしを誰だと思ってますの? このくらい、楽勝、ですわ」
マリーは相変わらず強気に返事を返してくるが、少し息が乱れている。魔力は無尽蔵とはいえ空腹は別だからな。思えばここまで戦いっぱなしだ。単純にエネルギー不足だし喉も乾いた。
「くそっ。喉乾いたな。ティーナ、リープ。お前らアイス以外になんか持ってねえのか!?」
「パンティならある」
「それお前が履いてるやつだろ!? それもらってどうしろと!?」
「??? 嗅げば良いだろう」
「そんな日常の一コマみたいに言わないでくれる!? 嗅がねえよ!」
頭に疑問符を浮かべて首を傾げているティーナ。ダメだ。こいつに期待した俺が馬鹿だった。
「マスター。私もお腹が空きました。ちょっと休みましょう」
「だな。それができりゃ最高なんだが……」
そうこうしているうちに船の中から第何陣かわからない海賊たちが溢れてくる。ちょっとは休憩させてくれよマジで。
「あ、酒ならあるよ? 飲む?」
「飲まねーよ! 全滅するだろうが!」
なんでこの状況で酒盛りすんだよ豪傑かよ。とにかくこの場は耐えるしかなさそうだ。
「ええい、こうなったらやるしかねえ―――ん?」
突然、目の前が歪む。両足に力が入らない。気付けば俺は地面に膝を付いていた。
「ミッチー!?」
「みつてる!? 治癒魔法はかかっているはずですのに……どうして!?」
困惑するマリー。当然だ。しかし原因はわかってる。これは―――
「単純に空腹によるエネルギー不足、だな。こればっかりは治癒魔法でもどうしようもねえ」
思えばこれまで何時間もハリセンを振り回してきたんだ。いつかこの時が来るとは思っていたが、想定よりずっと早い。こんなことなら朝飯もっと食っておくんだった。
『ウオオオオオオ!』
「あーあ……どうしたもんかね、こりゃ」
俺は膝を折った状態で力なく笑う。いやマジ、こりゃやべーって。
その瞳に映るのは、血に飢えた獣のような目をした海賊たち。俺は乾いた笑顔を浮かべながらそいつらの姿を見つめていた。




