第44話:戦いの規模
「―――で……何でこんな状況になっているのかな?」
俺達は人っ子一人いなくなったシ―プレスの港で敵である海賊を待っている。いやむしろ待たされていると言った方が良いだろう。
「マスターの“街の人々を避難させる”という目的は達せられました。おめでとうございます」
「ありがとう! でも違うよ!? 避難させた上で俺達も避難したかったんですけど!?」
なんで俺達だけで一国を滅ぼす海賊を迎え撃つことになってんだコラ。ていうか死ぬだろ普通に考えて。
「んー、まあ町長さん元々逃げたかったみたいだし、勇者が来たってんで完全に利用されちゃったぬぇ」
リアは口をωの形にして眉を顰めながらんーっと口元に人差し指を当てる。そうなんだよあのクソ町長。俺は海賊退治を手伝うって言っただけなのに、住人どころか戦士たちまで撤退させやがった。結局一瞬でゴーストタウンになっちまったよ。
「なぁに役立たずなどいない方が良い。私たちで立派にこの街を守ってみせようではないか」
「その自信はどっから来るのかなぁ!? 相手は凶悪な海賊なんですけど!?」
「私だって凶悪な変態だ」
「自覚あったんですねよかった!」
ティーナと言い争いしていると、視界の隅にマリーの姿が映る。珍しく緊張した様子で海の向こうを睨みつけているようだ。
そうか。こいつ学園都市での戦いで活躍できなかったの気にしてたからな……少し緊張をほぐしてやらねば。
「まあそう硬くなんなよマリー。別に戦いだけが魔法使いの価値じゃねえだろ?」
「……別に、硬くなどなっていませんわ。変な言いがかりはやめてくださる?」
うん。そのセリフはその硬く結ばれた両腕を解いてから言おうな。明らかに緊張してるじゃねえかもう。しょうがねえな……
「なに、大丈夫だって。マリーは大大大魔法使い様なんだろ?」
俺は緊張を解こうとぽんっとマリーの頭に手を乗せる。俯いたマリーの耳は少しだけ赤くなっていた。
「馴れ馴れしいですわよ愚民。後でおしおきですわ」
「おう。その元気があんなら大丈夫だな」
俺はいつもの威勢が戻ってきたマリーを見て歯を見せて笑う。マリーは横目でそんな俺を見ると何故か耳を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。なんなんだこいつは。
いや、それよりも今は俺も戦闘準備をしねえとな。戦闘準備っつってもハリセンを取り出すくらいしかねえんだが。
「ねーねーミッチー」
「あん? なんだよリア。人が気合い入れてる時に」
「なんかさー。海、黒くね?」
「……は?」
リアに言われた通り目の前の海をよく見ると、確かに地平線が全て黒に染まっている。
その黒が次第に大きくなり、それが近づいてくる船の数だと気付くのに時間はかからなかった。
「はああああああ!? どういう規模の海賊だよアホか! ていうかあれ一国の軍隊より多いだろ!」
目の前の海全てを埋め尽くす黒い船団。あの船一隻一隻にどれだけの海賊が乗っているのか考えたくもないが、冷静に考えて敵は万単位いると思った方がいいだろう。いや万単位規模の海賊ってなんだよそれ。もうそれ海賊じゃないよそういう国だよ。
「はっはっは。一国規模の戦争を私たちだけで迎え撃つとは、心が躍るな」
「そうだね。俺の心は錯乱して今盆踊りを踊ってるよ」
ティーナの能天気な言葉に瞳のハイライトをオフにした状態で答える俺。
次第に船は近づき、俺は死んだ表情のまま腰元のハリセンを取り出した。




