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第43話:街の意外な状況

「さて、ようやくシープレスに到着したわけだが……」


 街道を進んでようやくシ―プレスに着いた俺達の視界に映るのは、武器の整備や物々しい雰囲気を放つ街の様子。少なくとも俺の知っているシ―プレスは色んな人々が楽しそうに行き交う陽気な街だったはずだが、今はその面影すら見られない。皆武器を用意したり何かを警戒しているように見える。明らかに住人より戦士や魔法使いの方が多いぞ。一体何がどうなってるんだ?


「なんか死ぬほどピリピリしてるにぇ。何かあったんかな?」


隣に立つリアの言う通り、ここまで緊張感があるというのはただ事ではない。ここは慎重に情報収集をすべきだろう。


「ちょっとそこのあなた! どうなってますのこの街は! ピリピリしていて全然リラックスできませんわ! あと海産物を持ってきなさい無礼者!」

「ちょおおおい!? よりによってそんなゴツいおっさんに話しかけんなよ! しかも無礼なのはお前だよ!」


 堂々と胸を張りながら歩いていた戦士風のおっさんに声をぶつけるマリーにツッコミを入れる俺。ダメだこいつ唯我独尊すぎる。

 おっさんは頭をボリボリとかきながら背中に背負っている巨大な斧を地面に突き刺すように下ろした。


「ああ? そりゃピリピリもするだろ。今この街は凶悪な海賊に狙われてんだぞ? 知らないで来たのかお前ら」

「あーなるほど海賊にね……はああああああああ!?」


 いや、ちょ、ふざけんなし。シープレスと言えば海産物を楽しみつつのんびりする素敵な港町だろが。いつから汗とおっさんの街になったんだよ。


「そんなことどうでもいいですわ! さっさと海産物を持ってきなさい!」

「ほんとブレねえなお前!? いいからちょっと黙ってろ!」


 俺はマリーがおっさんを怒らせないようその言動を制止する。いやむしろよく怒らないなこのおっさん。むしろ尊敬するわ。


「海産物か……俺も元は漁師だったんだが、今は漁師も戦士として駆り出されてて、海産物はほとんど獲れてない。良質な食事をするのは難しいだろうな」


 遠い目をしながら海を見つめてぽつりと言葉を落とすおっさん。なるほど、おっさんは元々漁師なのか。しかし漁師まで戦士として駆り出されるってのはただ事じゃねえな。


「海賊ってのはそんなに凄いのか? まあ、凄いからここまでの準備をしてるんだろうけどさ」


 俺は頭を掻きながらおっさんへと質問する。せっかくだ。今この街の置かれている状況を教えてもらおうじゃないか。


「噂では一国を滅ぼすほどの武力を持つって話だ。俺はこの街が好きだから残ってるが、逃げた住人も大勢いるぜ」

「ええええ……なんつータイミングで来たの俺達」


 片手で頭を抱えてがっくりと肩を落とす俺。最悪中の最悪のタイミングじゃねえかこの野郎。俺だって今すぐ逃げ出したいよ。


「御仁よ安心しろ! ここにいる勇者みっちゃんが海賊など木っ端みじんにしてみせるからな!」

「ちょおおおおおい!? 何勝手なこと言ってんだコラァ!」


 ティーナてめ、この野郎。何口走ってんだコラ。一国を滅ぼす力を持ってるって話聞いてた? どう考えてもオーバーキルなんですけど?


「まあまあ。多分なんとかなるっしょ。お酒あげれば帰ってくれるかもしれないし」

「お土産か何かかな!? 帰るわけねえだろ凶悪な海賊って言ってんだから!」


 いかんいかんいかん。さすがに国を亡ぼすレベルの敵に勝てるわけがねえ。むしろ住人や待機している戦士たちを避難させる方向に動くべきだ。


「ふっ。問題ありませんわ! 勇者とこの大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大魔法使いであるわたくしがいれば海賊など一ひねりですわ! 大船に乗った気でいらして!」

「いや、ちょ、騙されるなおっさん! これ泥船だから! マジ数秒で沈没すっから!」


 俺は必死におっさんの誤解を解こうと両手を動かしながら同時に口を動かす。しかしおっさんは感激した様子で俺を抱きしめてきた。


「おおおお! 勇者様がこのタイミングで来て下さるとはなんという僥倖! この街を頼むぜ!」

「頼むなぁあああああ! いや、無理だからマジで! 勇者にも不可能はあるからほんと!」

「謙遜するなみっちゃん。海賊なんぞ全員パンツ被せて海に捨ててやろう」

「意気込みがよくわかんねーよ! ていうかそもそもこうなったんお前のせいだからね!?」


 出来れば勇者という立場を隠しつつこの街の住人を避難させたかったのに、思い切り俺が先陣切って戦う感じになってんじゃねえかこの野郎殺す気かよ。


「マスター。マスター」

「ん、んん? どうしたリープ」


 くいくいと服の裾を引っ張る感覚に視線を向けると、リープが綺麗な目で俺を見上げていた。


「海産物はいつ食べられるのでしょうか?」

「食いしん坊かよ! とりあえず我慢しような!? 海賊倒したらいくらでも食えるから!」


 俺はリープの両肩を掴みながら懸命に説得する。リープは少ししょんぼりしながら「了解しました」と返事を返してきた。


「おおっ! 勇者様が海賊を倒す宣言を!?」

「え、あ、ちょ、今のは違う―――」

「さっそく街のみんなに伝えなくては! ありがとう勇者様!」

「おっさん!? おっさんカムバーック!」


 おっさんは満面の笑顔で町長らしき爺さんの元へと走っていく。あ、駄目だこれ積んでる。完全に俺が海賊を倒す流れだわ。


「ミッチー……」

「リア……」


 ぽんっと優しく俺の肩を叩くリア。そっか、腐っても女神だもんな。心配してくれてるのか。


「墓石に刻みたい言葉があったら教えてね」

「期待した俺が馬鹿だったよちくしょう! “勇者、仲間に恵まれずここに眠る”って刻んどけ!」


 リアのあんまりな質問に噛みつくように返事を返す俺。ちくしょう。なんでこの歳で墓石の心配しなきゃならんのだ。


「大丈夫だ! このメンバーで戦えば楽勝!」

「その自信はどっから来るの? 宇宙?」


 何故か自信満々のティーナに言葉を落とす俺。そんな俺の背後で小さく言葉が落とされた。


「―――今度こそ、活躍してみせますわ」

「…………」


 マリーの小さな決意を耳にした俺は気付かないふりをして、目の前に広がる大海原を見つめる。

 こうして街の防衛線に参加することになった俺たちは、着々と戦闘への準備をすることになる。

 学園都市からのまさかの連戦にゲンナリする俺だったが、これもまあ、ランハーの世界を守る戦いと思えば悪くない。

 そう自分に言い聞かせて、俺は恐怖に震える体を少しだけ押さえた。


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