第42話:港町シ―プレス
「で、次は一体どんな街ですの? このわたくしに相応しい街なんでしょうね」
マリーは胸の下で腕を組みながら偉そうに聞いてくる。相応しい街ってなんだよ。ハードルの高さがわかんねぇよ。
「相応しいかどうかは知らんが、この大陸最大の港町“シープレス”だな。豊富な海産物が特産で、食事はかなり美味い。沢山の船が停泊するから人の行き来も活発でかなり活気のある街だな。商人や戦士、それに貴族なんかも沢山いるみたいだぜ」
「まあ! それは素敵そうな街ですわね。特に貴族が多いと言うのがわたくしにぴったりです」
そうか。忘れてたけど一応こいつ高貴な身ではあるんだよな。まあ高貴な振る舞いなんて一度もしたことねえけど。
「なんか今失礼なこと考えてませんこと?」
「カンガエテナイヨー」
「なら良いですわ」
うん。バカでよかった。ていうかこいつエスパーかよ。よく俺の心が読めたな。
その時、俺の服の裾をくいくいと小さな手が引っ張った。
「マスター。早く美味しい海産物の街に行きましょう。決して食事が目的ではありませんが街道はモンスターとの遭遇率も高く危険も多いです。そのため早めの出発及び移動は必須であり旅をする上での基本的な」
「わ、わかった。わかったからよだれ拭けよ」
リープはすっかりグルメに目覚めたのか、“豊富な海産物”という単語にめちゃくちゃ反応している。よだれがもう滝みてーになってんじゃねえか。
「おーよしよし。お姉さんが拭いてあげようじゅるり」
「お前も涎ダバダバじゃねーか」
リアはハンカチを取り出してリープの口元を拭うが、そういう自分の口元にもしっかりと涎が溢れている。食いしん坊かお前ら。
「港町か……海があるということは露出が激しくなるな。これはすばら……けしからん」
「わかった。わかったからお前もよだれ拭けよ」
目をギラギラさせながらよだれを流しているティーナに若干引きながらハンカチを手渡す俺。ティーナは「失礼。ちょっと妄想が捗ってしまった」とか言いながらハンカチで口元を拭った。
「いやせめて妄想とか言うなよ。ちょっとは本性隠せや」
「??? 隠してるぞ。私はみっちゃんの海パンを食べたいと思っている」
「本音ダバダバじゃねーか! 露出狂だった頃のお前はどこに行ってしまったんだよ!」
どんどん変態加減に拍車がかかっているような気がするのは俺だけか? 見た目だけは真っ白な肌の美少女なのに中身が残念すぎるだろ。パンツ食うヒロインとか斬新すぎるわ。ていうかボツだわそんなもん。
「まあとにかく行きますわよ! 海がわたくしを待っていますわ!」
マリーはびしっと指差しながら声高に叫ぶ。俺はジト目でその姿を見つめながら口を開いた。
「あー、うん。なんでもいいけど行先そっちじゃねえぞ」
「!? わ、わかってますわ! あなたがわかってるか試したんですの!」
マリーは顔を真っ赤にしながらほっぺを膨らませる。恥ずかしいんだな……こいつにもそんな感情があったのか。
「あーもう、悪かったよ。じゃあさっさと行こうぜ」
「おー! 海産物をつまみに酒を飲みまくるぞー!」
「おー」
「飲みませんよ!? いつからそんなツアーになったんだよ地獄かよ!」
リアの勝手な宣言に同調するリープ両名にツッコミを入れる俺。こうして俺たちは港町シ―プレスに向かって旅路を急ぐ。
真上に広がる平和な青空とは裏腹に迫りくる波乱の気配など微塵も感じずに、俺たちはいつも通りのペースで次の街へ進んでいった。




