第41話:あの時わたくしは
『姐さぁん! きっとこの街に戻ってきてくださいね!』
『自分達いつまでも待ってるッス!』
ごつい冒険者たちが旅立とうとする俺たちを涙ながらに見送る。
しかしリアも随分好かれたもんだな。
「おー。みんなも元気でね! 毎日酒飲めよ!」
「どういう激励だよ。ほどほどにしとけよ」
俺はリアのズレた激励に静かにツッコミを入れる。リアは少しだけ頬を赤く染めながらぽりぽりと頬をかいた。
「あ、そっか。えへへ、ごみんミッチー」
にへらと嬉しそうに笑うリア。ツッコミを受けて喜ばれるのは初めてだな……まあいいか。わかってくれれば。
「みんな! さっきのは間違い! アルコールをちゃんと大量摂取するんだよ!」
「悪化してるじゃねーか! 殺す気かよ!」
言い方が変わるだけでここまで凶悪に聞こえるものなんだろうか。この街の住人がいくら酒に強いとは言っても限度があるだろが。
「ま、いーじゃん! 次の街行こ、ミッチー!」
「だから引っ付く……あ、あれ?」
普段なら背中に乗っかってくるリアだが、今はぐっとガッツポーズをしているだけだ。なんだか普段の調子を崩される形になった俺は頭に疑問符を浮かべた。
「普段なら乗っかってくるくせに珍しいな。ようやくわかってくれたか」
俺はほっと胸を撫で下ろす。あいつの胸は青少年には刺激が強すぎんだよ。わかってくれてほんとによかった。
「あー、うん。わかったっていうか、ちょっと気づいちゃったことがあって、今はちっと恥ずかしいかな……って。えへへ」
「???」
リアは何故かはにかみながら顔を真っ赤に染める。なんだかわからんがまあ、変に引っ付かれるよりは良いか。
「それにしてもリアの能力は凄いですわね。これだけの人々の心を動かしている。わたくしの魔法とは違いますわ」
マリーは胸の下で腕を組みながら、唐突に言葉を落とす。なんだ、弱気な発言なんて珍しいな。
そう思っていた俺の脳裏に、先日の学園都市での戦いの光景が蘇ってきた。
言われてみればあの戦い、マリーは敵を回復してただけだからな……戦闘中はテンションがおかしくなってたが、冷静になって考えてみるとマリーは活躍していたとは言い難い。それを気にしてるのか。
「まあ、ほら、リープのおかげで回復魔法を使えるようになったし、マリーの魔法は敵を無力化するパニック魔法だろ? 十分凄いことじゃんか」
「……そ、そうですわね! たまには良い事言いますわ、パンを一かけら恵んであげます!」
「俺どんだけ悲惨な状況なの!? もうちょっと恵んで……いや施しなんかいらねえよクソが!」
こいつはほんとに……もうちょっと素直になれんもんかね。まあ素直にお礼を言うマリーなんて想像もできないが。
「そう……そう、ですわ」
「…………」
マリーは何かを自分に言い聞かせるように呟き、俯く。俺はなんて声をかけるべきかわからず口を噤んでいた。
「んじゃ! みんなまったねー!」
『姐さぁぁぁん!』
『おたっしゃでー!』
ぶんぶんと手を振る冒険者たちを尻目に街を出発する俺達。リアはぶんぶんと手を振りながら歩き、冒険者たちはウォォォ! と獣のような声を響かせる。
俺はすっかり大人しくなって街のペットになっている昨晩倒した獣型モンスターを遠目に見ながら、小さく笑った。




